国際宇宙ステーションの寝室での不思議な体験とは?

2019年に惜しまれつつ逝った車椅子の天才宇宙物理学者・ホーキング博士の名言を若田光一さんが読み解き、ホーキング博士の「脳内宇宙」を旅した記録。今回は「発見の瞬間」の話から始まります。人はどんなときに“ひらめき”を得られるのか? 現代の宇宙観と生命観が根底から変わるきっかけは何? 若田さんの「脳内宇宙遊泳」は示唆に富んでいます。

■「自分は宇宙にいるんだ」と思い出す瞬間

娘のルーシーが生まれて数日後
私に「発見の瞬間」が訪れました。
ベッドに入ろうとしたとき、
ブラックホールが
本当は暗黒ではないと閃いたのです。
ブラックホールは熱を持っていて
石炭のように赤く光るはずだと。

NHK『コズミックフント☆NEXT』「宇宙の“冒険者”〜ホーキング博士ラストメッセージ〜」より

ひらめきは、ふとした瞬間にわいて出てくることがよくあります。ただ、仕事でも日常の生活でも、何か一つのことに没頭していると「ふとした瞬間」を作ろうと思っても、なかなかそのタイミングがないものです。

時間に追われながら、今こなさなければならない作業を確実に終わらせようと集中していると、緊張状態が続きます。そのときの精神状態は、カメラの機能でいえば、一点を局所的に映し出すズーム・インの状態なのでしょう。それとは逆に「ふとした瞬間」というのは、レンズを一瞬ズーム・アウトして、全体を俯瞰したときなのかなと思います。

私が国際宇宙ステーションに滞在中、時間に追われる生活をすることは頻繁にありました。さまざまな実験や機器のメンテナンスなどの作業スケジュールが5分単位で決められており、そんな慌ただしい中ですから、途中で息抜きできる時間も平日は限られています。

ですから、食事中や運動中、就寝前の自由時間は、やはりホッとします。そんなとき「そう言えば今、自分は宇宙にいるんだ」とあらためて気づくことがよくありました。仲間と談笑しながら食事をしていて、目の前をふわふわ浮かぶスプーンや缶詰を見て、いかに地上での日常とかけ離れた場所に自分がいるのかを感じ直すこともありました。

就寝時は個室の寝袋に入って寝ます。地球上で寝るときと異なり、体のどこにも圧力を感じることなく、ふわふわ浮いた状態での睡眠はこのうえなく快適だと感じます。

宇宙で寝るのはある意味、不思議な体験です。無重量状態で目を閉じて寝ていると、上か下かの感覚がわからなくなります。地上だと目を閉じても重力によって上下の感覚は残りますが、宇宙の無重量環境では、視覚以外の自分の感覚で上下方向を判断することは不可能です。

夜、国際宇宙ステーションの寝室で目を閉じると、自分が無限の空間の中で、ただ一人漂っているような気分を味わうこともあります。

▲「自分は宇宙にいるんだ」と思い出す瞬間 イメージ:PIXTA

私の場合は、宇宙に滞在しているときの「ふとした瞬間」に、ホーキング博士のような大発見につながるインスピレーションは降ってこなかったのですが、宇宙の深遠さを感じる瞬間を何度も持てたような気がしています。

宇宙でも地上でも「集中」と「弛緩()」のメリハリが大切なのかもしれません。一点に集中していた心や思考が「ふとした瞬間」に解放されたとき、新しい発見やアイデアが出現することがあるのかもしれませんね。

■火星で生命体の痕跡を発見できるか?

では、地球外からの訪問者がいないことを
どう説明すれば良いでしょうか?
はるかに高度な種族が遠くにいて私たちの
存在に気づいているものの、原始的な生活の中に
放っておいてくれているのかもしれません。
しかしこの仮説では、下等生物への
思いやりがあまりにもあるように思われます。
いったいどれだけの人が、どれぐらいの
昆虫やミミズを足で踏みつぶしてしまったか
ということに心を悩ませるでしょうか?

『ホーキング、未来を語る』より

火星には、かつて地球と同じような環境があり、何かしらの生命体が存在していた可能性があると言われて久しくなります。現在、火星ではNASAのインサイトなどの探査機が降り立って探査中です。ですから、人類が自分たち以外の生命体の痕跡を発見するとしたら、火星が今一番その可能性が高い地球型惑星と言えるでしょう。

▲火星で生命体の痕跡を発見できるか? イメージ:PIXTA

また今後、この太陽系以外の外宇宙に存在するハビタブルゾーンにおいても、生命体の生息もしくは痕跡が発見される可能性もあります。または地球のような環境でなくても、その星の環境に適した生命体が存在しているケースも見つかるかもしれません。

もし今後の観測・調査で、原始的な微生物であったとしても、何かしらの生命体が生きている兆候、または過去に生きていた痕跡が見つかった場合、もうそれだけで現代の宇宙観は確実に変わると思います。つまり「地球だけが生命を育む奇跡の星だ」と言われ続けていた概念そのものが一気に変わるわけです。

近年、この地球上でも超極寒環境やpH12など、生命体にとって有毒なはずの高アルカリ性環境の中でも生きている生物が発見されています。そのような超極限環境でも、生命体の存在が確認されているわけです。ですから、地球人からすれば超過酷な「こんなところに絶対に生命はいるわけない」と考えていた星の環境下でも、生まれて育まれている生命体が存在しているのかもしれません。

もっと言えば、我々のようにタンパク質が生命の根源ではない生命体が存在する可能性だってあります。そうなれば、我々が持つ宇宙観だけではなく、生命観も変わります。「宇宙では生命はありふれている。そして宇宙は、いろいろな種類の生命に満ちあふれている」ということになるかもしれません。

そのように考えると、知的に発達した生命体の存在も、宇宙では珍しい存在ではないことになるかもしれません。今後の観測、探査活動の進展が期待されます。

※本記事は、若田光一:著『宇宙飛行士、「ホーキング博士の宇宙」を旅する』(日本実業出版社:刊)より、一部を抜粋編集したものです。

関連記事(外部サイト)