【本棚を探索 JIL-PT・濱口桂一郎選集(2022年上半期)】『資本主義だけ残った』『冤罪と人類 道徳感情はなぜ人を誤らせるのか』『実力も運のうち 能力主義は正義か?』ほか

労働新聞で好評連載中の書評欄『本棚を探索』から、2022年の上半期に公開した濱口桂一郎さんご執筆のコラムをまとめてご紹介します。

『資本主義だけ残った』ブランコ・ミラノヴィッチ 著
昔のキャラメルのCMではないが、1冊で2度おいしい本だ。1つ目はアメリカをはじめとする今日の西側の資本主義を「リベラル能力資本主義」と規定し、それがもたらすシステム的な不平等と、それがなまじ能力による高い労働所得に基づくがゆえに旧来の福祉国家的な手法では解決しがたいパラドックスを描き出す第2章である。

『マイケル・ジェンセンとアメリカ中産階級の解体』ニコラス・レマン 著
なんだかよく分からないタイトルだけど、過去100年のアメリカの経済社会を、ハイレベルな思想と末端の現実の両方から描き出した、思想史とルポルタージュがまだら模様になった奇妙な味わいの本だ。経済思想史のキーマンはアドルフ・バーリ、マイケル・ジェンセン、リード・ホフマンの3人だが、この3人をいずれもよく知っているという人は少ないだろう。

『西暦一○○○年 グローバリゼーションの誕生』ヴァレリー・ハンセン著
「グローバリゼーション」をタイトルに謳う本は汗牛充棟である。試しにamazonで「グローバリゼーション」を検索すると、826件ヒットする。「グローバル化」だと1000件を超える。それらのほとんどは、今日ただいま我われの面前で進行中のグローバリゼーションを経済学、社会学、政治学等々の観点から分析したものだ。

『LIFE3.0 人工知能時代に人間であるということ』マックス・テグマーク 著
AIが流行っている。書店に行くとAI本が山積みだ。雇用労働関係でも話題で、AIでこんな仕事がなくなるとか、仕事がこんなに変わるとか、いろんな議論が噴出している。筆者も最近、EUのAI規則案が採用や人事管理へのAI活用を「ハイリスク」と分類し、一定の規制を掛けようとしていることを紹介してきた。

『冤罪と人類 道徳感情はなぜ人を誤らせるのか』管賀 江留郎 著
文庫本ながら700頁近い分量というだけでなく、その中身も「怪著」の名に値する。元は「いくつかの出版社を渡り歩き、紆余曲折のうえに」2016年に洋泉社から刊行された書籍で、21年に早川書房から文庫化された。原著ではいま副題になっている「道徳感情はなぜ人を誤らせるのか」がメインタイトルだったが、本書の中での該当部分は第13章の90頁ほどに過ぎない。

『実力も運のうち 能力主義は正義か?』マイケル・サンデル著
2019年度の東大入学式の祝辞で、上野千鶴子は2つのことを語った。前半では「大学に入る時点ですでに隠れた性差別が始まっています。社会に出れば、もっとあからさまな性差別が横行しています」と、将来待ち受けるであろう女性差別への闘いを呼びかけ、後半では「がんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったこと忘れないようにしてください」と受験優等生たちのエリート意識を戒めた。

選者:JIL−PT 労働政策研究所長 濱口 桂一郎(はまぐち けいいちろう)
83年労働省入省。08年に労働政策研究・研修機構へ移り、17年から現職。

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