秘湯の宿【宮城・峩々温泉】「温泉が尽きたらやめる」の覚悟で生きる(湯守の言葉・前編)

おんせんライターがこよなく愛する秘湯の宿。日本列島の各地に秘湯はあり、その多くは、自然の中で慎ましく源泉を守り継いでいます。どのようにしてその貴重な温泉を守っているのでしょうか。日本の温泉の真髄に迫っていきます。

写真:厳しい自然の中で暮らす。おこもりしたくなる現代の湯治宿

写真:「峩々温泉」は「日本秘湯を守る会」創立時の33宿のひとつ

宮城と山形にまたがる蔵王山の中腹にある、その名も「峩々(がが)温泉」。「峩々」とは、険しくそびえ立つ山の様子を表します。江戸時代後期から硫黄採掘がされており、その山中にあった自噴の湯が癒しの場であったといいます。

明治8年(1875)創業の一軒宿「峩々温泉」。6代目の竹内宏之さんにお話を伺いました。

■冬じたく、完了

深い雪に閉ざされる冬には、薪ストーブとともに暮らす。温泉を守るということは、まずここで暮らすための薪を準備することから始まります。

「ここに今セットしている薪は雪が来るまでのもので……これはいいですね(ZOOMのカメラで薪の積まれたロビー内外を見せてくれる)、見ていただくのが一番。去年はたくさん薪を頂いたのでもう場所がなくて、いたるところに薪を置いてるような感じですね。ここに積まれているものは雪が降るまでに割って、来年用になります。木を切って割ってから1年半から2年はおいた方がいいです。」

写真:ZOOMでインタビューに応じてくれた竹内宏之さん

「薪にクラック(ひび割れ)が入ってくるんですけど、そうなってくると使えますよというメッセージ。木によっても乾燥速度が違うので、きちんと機械を当てて、水分量を数値で確認してやってます。水分や脂分の多い木を燃やしたりすると煙突にダメージを与えたり、引火して火災になってしまったりするので、適した木だけをできるだけ高温で燃やすという風にしています。業者を通さず、なんでも自分でやってます。」

■峩々温泉ならではの、お湯へのこだわり

震災前にあった別館のお風呂は、源泉地からごく近いところにあり、本館と泉質が違うんですか?と聞かれることもあったそうです。源泉から離れるにしたがってお湯の性質も変化していくという、天然温泉ならではの現象ですね。なるべく変化を加えず源泉をそのままお風呂へかけ流すまでにどんなことをしているのでしょうか。

「源泉温度が53〜54℃なんですけども、お風呂に入れる出口のところでバルブ調整をする。我々の手で、お風呂に注ぐ湯量を調節するんですね。それだけです。まともに入れればめちゃくちゃ熱いです。48℃とか49℃ぐらいですかね。全開で開けるとそのぐらいになっちゃいますので、45℃ぐらいに設定する「あつ湯」っていうのと、42℃くらいに設定する「ぬる湯」っていうのと、あと露天風呂はこの時期は比較的熱めに設定します。要は、バルブを開けるんですね。夏場は直射日光が石に当たるので、冷めないんですよ。石も温まっちゃいますんで。そういう時はできるだけ低い温度で設定してその日によって多少微調整するという形です。冬場の露天風呂は寒いので、わざと熱めにしてさっと温まっていただけるような格好を想定してるんです。夏場は長居したり、お客様同士おしゃべりしたりしていただいてもいいように比較的にぬるめに設定したりとか、シーンによっても変えてます。」

写真:貸切露天風呂「天空の湯」でプライベートな時間を過ごすこともできる

「もともと湯治場ですので、お客様同士のコミュニケーションというのを非常に大切にしているんです。お湯へのこだわりみたいなものは持ってますけども、それをいかにお客様に分かりやすくお届けするかというのは、まず入っていただいてなんぼですので。温度やシチュエーションの異なるお風呂があって、結果的にお部屋から何度も通っていただけるようにと考えています。」

写真:開放的な混浴露天風呂。岩で囲った湯船が小川のように展開している

■源泉を守り、蔵王の河川も守る

自然の中に湧く温泉は、どのようにして保全されているのでしょうか。

「源泉は(宿のすぐ脇を流れる)川の上流の方にあります。そこまでうちの敷地内で、そこから先は国定公園になります。源泉の地下に岩盤がミルフィーユみたいに折り重なっているような感じで、温泉が滲み出てるわけです、岩盤から。じょわ、じょわっと。イメージとしては、そこにストローを1本刺して、お湯が溜まってくると、その圧でストローからピューっとお湯が上に出るという感じです。そこに枡を作って、そこに一回お湯を溜めるんです。それを、源泉地より高い場所にあるお風呂へはポンプであげて、源泉地より低い場所はそのまま流して、というやり方なんですね。そこは定期的に清掃したりはあります。」

写真:宿のすぐ脇を一級河川の「松川」が流れ、遠刈田温泉方面へと注がれていく

「あと配管ですね。温泉成分によって鉄分とかカルシウム分でどんどん管の穴が小さく閉塞していってしまうので、それは高圧洗浄機を使ったりとか、場合によっては固まってしまった成分を溶かすような溶剤がありますので、それを使って配管をきれいにしたりとか。蔵王の山から湧き出た水が流れてきてるはずなんですけど、ほぼ最上流にあるような旅館なので、我々が率先して川を汚すわけにいきませんから(笑)。そこはすごく気を使って、なるべく生態系に影響しないようにしています。」

写真:深い山に抱かれた一軒宿

「浴槽は、人が入った後なるべくすぐ、お湯を抜いてフレッシュなお湯を溜めて、あとはかけ流しにするという、昔ながらのやり方です。ここはお湯を落として、薬剤は一切使わないです。高圧洗浄機とブラッシングだけでやっています。あとたまに重曹を使うくらいですね。毎日入れ替えて、とにかく手で、綺麗にするということです。」

■データから人の五感へ。試行錯誤しながら「源泉かけ流し」を貫く

「一時期、私の父の代なんかは、電子制御でお風呂の湯量が下がると源泉の量が調整されて出てくるとか、そういったこともしていたんです。平成の初めの頃ですね。でも結局、その温泉の成分によって機械が駄目になったりとか、もう一周してじゃないですけど、やっぱり人間の手とか、耳とか目とか匂いとか全ての感覚でやって、それをいかに数値化するかっていうのを今やってるんですよ。このぐらいにやれば何度になるとかっていうのを全部データを取ってるんです。」

写真:ロビーでも温泉がかけ流しに

「でも結局、(天候に左右されてしまって)あんまり意味ないんですよ。今年は雨が多かったのでまったく心配なかったですけど、雨の少ない季節、2月のお彼岸の辺りとか8月のお盆の時期は、湯量がかつかつになる時もあるんです。そういう時は日帰り入浴をクローズするとか、混浴の露天風呂を閉めちゃって、その分、内湯にお湯を集中させたりとか。最優先するのが源泉かけ流しのお湯なので、どこかの風呂をクローズしてでも、必ず『源泉かけ流し』というルールは守るということにしているんです。」

写真:飲泉できる貴重な温泉。胃腸に良いそう

「今年は湯量もかなり豊富で良かったです。雪が少なかったのでどうかなと思ったんですけど、全然大丈夫でしたね。温泉というのは、40年前に降った雨水が湧いてるんだという説が有力なんですね。なので、滲み出なければ押し出されないっていう理論なんでしょうけど、雨とかも適当にやっぱりちゃんと降ってもらわないと湯量も確保できなくなるっていう事ですかね。」

■先代から受け継ぐ家訓とは

「ちなみに、温泉が止まったら廃業するという家訓がありまして、掘削とかは一切するなという。私もそれは確かにそうだなと思っているんです。麓に遠刈田温泉とか青根温泉などがあって、一番高いところにある旅館なので、周りに迷惑がかかるようなことはするなということだと思うんですけれども。それは決めてます。」

写真:熱めの峩々温泉ならではの伝統的な「かけ湯」と「入浴」

「お湯が少なくなったり多くなったり、温度が低いとか高いとかはなんとでもなりますけれども、泉質が若干変わったり効能があまりなくなってくるとかはありえると思うんですね。万が一そういうことがあれば、多少加温したりは、成分を見てですけれども、それはやると思います。ただ一滴も出なくなったら、じゃあ掘るかということにはならないです。もう終わりだ、みたいな。もう6代目で終了だと。そういった覚悟でやっています。」

(後編へつづく)

(取材・文:前田ゆかり)

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