秘湯の宿【宮城・峩々温泉】「温泉が尽きたらやめる」の覚悟で生きる(湯守の言葉・後編)

おんせんライターがこよなく愛する秘湯の宿。「峩々温泉」6代目インタビュー、後編です。

温泉が尽きたらやめるという家訓があり、それを守っていくつもりだという6代目湯守・竹内宏之さん。ZOOMインタビューの続きをお送りします。

写真:朝食後にラウンジで水出しコーヒーをサービス

■夢はもう叶っている

「将来の展望などを聞かれることもありますが、ないんですよね、夢とか。旅館の経営者になるとか、こういう建物を建てたいということでいえば、もう叶ってるんですよ。先代が全部やってきたと思ってるんで。旅館をもう一軒やりたいとか、増床して大きな高級な宿にしたいとかそういうことは時流と言いますかその時の流れで決まるようなものなので目標ではないと思うんですよね。今はしっかり後継者を育てるっていうことに尽きるような気がします。」

写真:峩々温泉の温泉分析書。貴重な自然湧出の湯を守っている

■現場で育てる

現在3人のお子さんがいらっしゃる竹内さん。一番上が小学1年生、真ん中の子が幼稚園、そして今年(2020年)6月に赤ちゃんが生まれたそうです。

「今もラウンジの下の階で運動会してますよ(笑)。そこはこだわりなんですけど、子育てに関してはいかに現場で育てるかっていうのが。教育環境がこういった遠隔地にあるので、教育環境という意味では非常に悪いんですよね。学校も遠いですので。ただその、仕事が終わってからキッチンでみんなで食事したりとか、あと我々が働いてるのは朝9時から夕方5時までみたいな仕事ではないので、そういったものは肌で感じながら……私もそうだったもんですから。山の麓にマンションでも借りようかっていう案もあったんですけど、やっぱりそこは現場で育て切ろうと思いまして。それも後継者を育てるという面で、一番自然なんですよね。」

写真:ラウンジの一角にあるキッズスペース

「結局、収益性ですとか将来性みたいなことでメリットがあるからみたいなことじゃ絶対務まらないんですよ。我々の仕事は。良い時も悪い時もあって、悪い時の方が多いかなくらいの商売なので。源泉への感謝の気持ちだとか、自然環境ですとか、そういったことは都会よりも良い環境で自由に暮らしているっていう。その自由っていうのも自分たちで決めた規律ですから。それをその中でのびのびと自由にお父さんもお母さんも暮らしてるんだなっていうのを伝えたいというか。」

写真:お風呂から眺める外の景色。四季の移ろいを感じる

「(子どもたちがここで暮らすことで)自然とこのお湯ですとか、この峩々温泉そのものを守ろうっていう感覚を育てたいなというのが一番ですね。振り返ると、それがありました。私がそうだったんですが、幼少期は山の中で育って、学校行ったり就職したりするのは東京とかできるだけ大都会の方が、より、東京から帰ってきた時にやっぱり、働く環境の良さみたいなものをつくづく感じましたので、そういう方がいいかなと思うんですよね。学校卒業して海外に行ったりとか、まあ都会で暮らしたりとかそういうのはとてもいいことなのだろうなと思ってるんですけど、本当に自分の人生の原体験になるような幼少期はここで育てたいなというのがありますね。」

■心の琴線に触れるラウンジ

ZOOMの画面に映し出されるラウンジの様子には心が弾みます。このなんとも居心地の良い空間に配されるものたちと、そこにかける思いはどのようなものでしょうか。

写真:ラウンジ全景。思い思いの場所でくつろげる

・「峩」の字グッズ

写真:オリジナルの峩々温泉グッズなどの販売コーナー

「地域クーポンを利用して、みなさん買ってくれてますね。山盛りに置いていた棚が、すっかりガラガラになっちゃいました。もとはスタッフ用に作ったものを、お客さんから売ってくれって言われて作ったのが最初です。海外のお客さんには手ぬぐいが好評ですね。これけっこう凝ってて、染め抜きなんです。日本の技術を使って作ったものとか、そういうものが受けますね。荷物にならないような小物や、サコッシュなんかはめちゃくちゃ売れてます。フェスに持って行ったり、登山される方にも買っていただいています。」

・蔵書ライブラリー

写真:竹内さんの蔵書が並ぶライブラリーと小上がりスペース

「リニューアルする時、旧館に住んでたんですけど、本がたくさんあってどうしようかなと思って、それで(ここが)自分の自宅だと。ぼくの完全なる趣味コーナーなんですけど(笑)、職場というよりは自分の自宅にお客さんを招く、友達とかお客さんをお招きする、そういった感じの方が我々には合ってるんじゃないかと思ったんですね。BGMとかも自分の好きな曲しか流さないですし。宿の人の『あるじ性』といいますか、そういうものが全部出るところだと思うんですよね。」

「演出としてやってる宿と、この地に根付いて深く根を下ろして、源泉が枯れたらもう廃業するっていうような覚悟でやってるのとは違うと思うんですよ。良い悪いじゃなくて。」

・薪ストーブ

写真:厳しい自然の中で暮らす。おこもりしたくなる現代の湯治宿

「薪ストーブも演出というよりは好きだからやってるんですよね。自分の自宅というか、家を持っていないので、宿のどっか隅っこにこそっと住んでいるわけです、家族で。宿そのものが自分の自宅のような、そんな思いで作ってますので。現場(自分の働いている職場)が好きなんですよね。ちょっと調べ物をするのにもここのライブラリーに来てみたり、1日のなかで過ごしてる時間が一番長いですから、現場もどんどん、好きになっていくという。そうでなきゃ、代々、長いことやってられないよねっていう、そういう考えですね。」

■日常の延長線上にある

写真:ここで1日中過ごせそう…過ごしたい…そう思わせる魅力とは

いろいろと紹介してきましたが、このラウンジ内外の景色から感じるものは、単なる居心地の良さを通り越して、心の琴線に触れるものがありました。

「そういう風に思ってもらえるということは、非日常ではなくて、日常の延長線上にあるような憧れみたいなものがあって、それが人それぞれの夢とかロマンみたいな話になるのかなと思うんですけど、その夢だったものが実現するというのは、自分(※竹内さん自身)にとっても喜びでもあるんです。それが原動力になっているというか。仕事への情熱に変わっていくような。大げさにいうとそうなっているのかなと思います。」
(終わり)

写真:上質なおこもり滞在のための一室のみの客室「こまくさ」

(取材・文:前田ゆかり)

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