林真理子が描く「皇族の結婚」。どろどろの内幕に引き込まれる!

 「いつの時代も高貴な方々の結婚はむずかしい」――。

 林真理子さんの著書『李王家(りおうけ)の縁談』(文藝春秋)は、娘の方子(まさこ)妃の結婚相手探しに奔走した皇族の梨本宮伊都子(なしもとのみやいつこ)妃を主人公に、戦前の皇族・華族の結婚問題を描いたもの。

 秋篠宮家の長女・眞子さんのご結婚に伴い「皇族の結婚」が注目されているが、タイミングが重なったのは「本当にたまたま」。"皇族・華族フェチ"という林さんは、3年前からこのテーマを書きたいと思っていたという。

 伊都子は16歳の時からほとんど毎日、日記を書き続けた。林さんはこの日記や資料を見ながら、「妄想して世界を作って」いったそうだ。

 「梨本宮伊都子妃といえば、美しいだけでなく聡明で卒直なことで知られている。結論をつけるのが早く、それがかなうための最良の手段を尽くす。後の時代の言葉で言えば、合理性というものを身につけていて、それは貴婦人にはまことに珍しいものであった」

 娘がみじめな思いをしない結婚相手は誰か? 伊都子が思いたった意外な選択とは?

??お相手をすぐに決めなくては

 梨本宮伊都子妃の旧名は、鍋島伊都子。佐賀藩主だった鍋島家は、進取の気性にとんでいることで有名だった。

 伊都子は明治15年、父・直大(なおひろ)がイタリア特命全権公使としてローマに駐在している時に生まれた。イタリアの都で生まれたことから、伊都子と名づけられた。

 10歳を過ぎた頃から縁談が持ち込まれ、明治29年に皇族の一員である梨本宮守正(もりまさ)王との婚約が調う。明治33年に嫁ぎ、長女・方子、次女・規子(のりこ)を産んだ。

 ある日、母・栄子(ながこ)から「皇太子妃が久邇宮良子(くにのみやながこ)女王に決まった」と教えられる。皇太子とは、裕仁親王(のちの昭和天皇)である。

 良子の父・久邇宮邦彦(くによし)王は、梨本宮守正王の兄。つまり、方子と良子は従姉妹になる。「こうなったら、まあさんのお相手をすぐに決めなくてはなりませんね」――。

 「方子は十四歳になるが、婚約するのに決して早過ぎることはない。皇族の娘は生まれ落ちた時から、配偶者を探し始めるのが常である。しかしもしかしたら皇太子妃にという輝やかしい枷が、梨本宮家の動きを鈍くしていたのである。伊都子は再び頭を働かす。あの宮家、あの侯爵と親の顔と息子たちの年齢を思い浮かべる」

??「娘に少しでも有利な結婚を」という親心

 韓国の純宗(スンジョン)皇帝の弟で、日本に留学中の李垠(イウン)という青年がいた。李垠は18歳。日本の皇族と同じ地位を約束されている。

 「他国といえども皇太子なのだ。裕仁殿下と同じ立場なのである。『これならば方子にみじめな思いをさせることはないかもしれない』伊都子は、自分の思いつきに深く頷く」

 日本政府は注意深く韓国併合を進め、決して「植民地化」ではなく「平等な統合」であると主張したが、朝鮮人は「無学で粗野」と決めつける者が多かった。

 しかし、李垠は多額の歳費が受け取れるはずであり、さらに李家は本国に広大な土地や建物、先祖伝来の財宝を所持していた。

 「自分やまわりの者に偏見がない限り、朝鮮の王世子というのは、決して悪くない話だと伊都子は考えるのである。が、難しいのは、この話をどうやって進めるかということである」

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 林さんは「本の話」のインタビューでこう語っている。

 「これまで方子さんの結婚について、日本では韓国併合を進めるための政略結婚で、泣く泣く嫁いだ悲劇の女王と思われていました。そうではない、伊都子妃主導という視点に出合ったことがすべての始まりでした」

 「娘に少しでも有利な結婚をしてもらいたい」という親心から思いたった縁談。伊都子の努力と計画はうまくいくのか?

 人物相関図があると助かる......と思うほど、人名が次々出てくる。歴史的事実とともに描かれる、どろどろ、ごたごたの内幕。ここは現在とリンクするかもしれない、などと想像しながら読めて面白い。

■林真理子さんプロフィール 1954年山梨生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、コピーライターとして活躍。82年エッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』がベストセラーとなる。86年「最終便に間に合えば」「京都まで」で第94回直木賞を受賞。95年『白蓮れんれん』で第8回柴田錬三郎賞、98年『みんなの秘密』で第32回吉川英治文学賞を受賞。現代小説、歴史小説、エッセイと、常に鋭い批評性を持った幅広い作風で活躍している。『西郷どん!』が2018年のNHK大河ドラマに。2018年紫綬褒章受章。20年には週刊文春での連載エッセイが、「同一雑誌におけるエッセーの最多掲載回数」としてギネス世界記録に。同年第68回菊池寛賞受賞。近著に『綴る女 評伝・宮尾登美子』『小説8050』がある。

※画像提供:文藝春秋

(BOOKウォッチ編集部 Yukako)

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