京都に、西京区があっても「東京区」がないワケ。

京都に、西京区があっても「東京区」がないワケ。

京都に「東京区」がない理由

 本書『イケズな東京』(中公新書ラクレ)の著者の一人が井上章一さんであると知って、京都人の井上さんが、とうとう東京の悪口を書いたのか、と思った人も少なくないだろう。実際、評者もそう早とちりした。ところが、さにあらず。二度の東京五輪と大阪万博など、古今東西の都市開発のレガシーについて論じあう内容だ。

 前著『京都まみれ』(朝日新書)で、『東京ぎらい』的な東京批判本の執筆をいくつかの出版社から持ちかけられ、すべて断ったことを明かしている。井上さんは東京のことをよく知らないし、それほど東京をきらっていないので、「東京をあしざまに論じるのは、気がすすまない」と書いている。『京都ぎらい』というベストセラーの著者は、東京に対して意外とニュートラルなのだ。

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 本書は、国際日本文化研究センター所長で、建築史や日本文化に詳しい井上さんと、東京藝術大学教授の建築家にして、京都市美術館館長の青木淳さんの対談とそれぞれの論考で構成したものだ。同年代の2人。京都に住む井上さん(1955年生まれ)と東京・京都を往復する青木さん(56年生まれ)の共通項は「建築」だ。コロナ禍で見えてきた日本の都市のさまざまな様相がとらえられている。

??コロナでも東京ばなれは進まない

 コロナ禍で進むリモートワーク。ヤフーが先日(2022年1月12日)、国内であればどこに住むのも自由で、飛行機通勤も可と発表するなど、地方移住が話題になっている。しかし、井上さんは、第1章「『東京ばなれ』を疑う」で、企業は東京の本社ビルという「城」を捨てられない、と懐疑的だ。

 現代の超高層ビルを企業人の天守閣に見立て、オフィスビルの需要はなかなかなくならない、と考えている。東京のオフィスをひきはらう企業の多くは「IT産業とかかわるところだろう」と予想している。「東京をはなれて田舎へひっこんでも、仕事はできる。そうアピールをすることじたいが、宣伝になる」と書いている。まさにヤフーの施策を言い当てていた。

 第2章が1回目の対談、「愛される建築、愛されない建築」というテーマだが、井上さんが振った、文化庁の京都移転をめぐる「京都に『都落ち』」という話題から、東海道新幹線が実質的に東京の「都市軸」(建築家・丹下健三の打ち出した概念)になっている、と青木さんは受け、次のような話をしている。

 「拠点は東京でも、京都でも、どちらでもよくなっているんじゃないでしょうか。むしろ新幹線が拠点というか「拠線」になっている。今の新幹線って、パソコンで仕事している人だらけで、動くオフィスみたいな感じです」

??「都」は今でも京都?

 次に、「都」は今でも京都? という話題に。「遷都の勅令はまだ出ていないから、都は今でも京都だ」と言うようなウルトラ京都主義者がまだいるというのだ。井上さんは、愚かであり、にがにがしく思っているという。

 青木さんも京都市美術館のリニューアル設計にあたり、あいさつ回りをしていると、「天皇が東のほうにちょっと行かれたきりまだお帰りになっていませんが」と切り出され、絶句したそうだ。

 これについて、井上さんは関東大震災のあと、「帝都は移動させない」という勅書が出ており、決着済みだとしている。しかし、京都にはまだそういう人たちがいることは知っておいた方がいいかもしれない。

 第2回のパリ五輪、第3回のセントルイス五輪は実は万博の余興だった、という話から、2020東京五輪でつくられた施設はレガシーになるかどうかが議論になる。青木さんは否定的な見方だ。

 第5章が再び対談で、「『建築文化を大事にしない国』」ゆえの希望」というテーマだ。日本は建築文化をあまり大事にしないから、建てては壊し、壊しては建てることの連続で、仕事の機会が多くなる。だから逆説的に先鋭的な建築家が育まれやすい、と井上さんが言えば、青木さんも「都市計画という概念が希薄な日本では、個々のクライアントの好き勝手で建築ができます。それがうまく建築家の好き勝手とマッチすれば、新しい建築が生まれます」と答えている。

 京都の景観条例もフィレンツェの基準に比べれば、ないに等しい、と井上さん。

 「あとがき」の余談で、井上さんはこんなことを書いている。

 京都の東山区は1929年に上京区からわかれて独立した。このとき、「東京区」にしなかったのは、東京への配慮だと。その証拠に、1976年には西京区ができている。

 もし、東京区ができていたら、警察や消防は「東京署」になっていただろうと。そうして予想される混乱を避けたかもしれないと推測する。こういう話をすると「東京の人は狐につままれたような表情を見せる」。そして「西東京市」というおかしな名前は、「失礼な言い方だが、やはり鈍感なのだろう」と書いている。

 最後に、井上さんらしい「芸」を見せてもらったような気がする。タイトルに偽りなしだ。

 BOOKウォッチでは、井上さんの『京都まみれ』(朝日新書)、『日本の醜さについて』(幻冬舎新書)、『京都ぎらい 官能篇』(朝日新聞出版)、『大阪的』(幻冬舎新書)などを紹介済みだ。

(BOOKウォッチ編集部)

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