メディア志望の就活生は読んで。地方局の「作り手」描く一冊。

 3月になり、来春大学を卒業する人たちの就職活動が正式に解禁になった。テレビ局などメディアを志望する人も多いだろう。そんな人にぜひ読んでもらいたいのが、本書『探訪 ローカル番組の作り手たち』(はる書房)だ。全国各地53の放送局などの制作者たちを訪ね歩いた渾身のリポート。地方のテレビ、ラジオは「まだまだ捨てたもんじゃない」ことが分かる。

book_20220304172323.jpg

 著者の隈元信一さんは、元朝日新聞記者。1979年に入社。前橋支局、青森支局を経て東京本社学芸部に。メディア、アジア文化を主なテーマに取材。論説委員、編集委員を経て、青森県むつ支局を最後に2017年退社。青山学院大学などのゼミで学生を指導した。著書に『永六輔 時代を旅した言葉の職人』(平凡社新書)、共著に『原発とメディア 3・11責任のありか』(朝日新聞出版)などがある。

??全国53の放送局の作り手たち

 隈元さんは40年近い新聞記者人生のうち、最初の5年間を地方に勤務したあとは、東京暮らしが長かった。30年以上取材してきた放送界も、東京に本社がある民放キー局やNHKの取材が多かった。新聞社を退職後、「全国各地のローカル番組をもっとたくさん視聴し、その番組を作った人たちとじっくり語り合いたい」と、日本民間放送連盟が発行する隔月刊誌「民放」に「日本列島作り手探訪」として連載したものが、本書の元になっている。

 北海道の北海道テレビ放送から、沖縄のラジオ沖縄、沖縄テレビ放送まで、全国53の放送局などを訪ねたり、オンラインで取材したりした。

 東日本大震災から10年を迎えた福島県では、東京電力福島第一原発の事故で、世界に名をはせた福島中央テレビを紹介している。1号機が水素爆発した瞬間を撮ったことで知られる。同局が制作した番組には、日本テレビ系の「NNNドキュメント」で放送した「被ばく牛 "たまみ"」(2015年)がある。避難区域で牛を飼い続ける農家の姿を描いた。20年の「闘う君〜Fukushima後も変わらないもの〜」は、原発事故後に自主避難した少女が、大人たちの「負の遺産」に向き合う姿を追った。

 この2作を含めて、原発のドキュメンタリーを作り続けているのが、同局いわき支局の記者、岳野高弘さんだ。長崎市出身で、福島大学卒。震災後、飯舘村長が自主避難を呼びかけた住民説明会を取材したのが転機になったという。「それまではただ仕事って感じ。初めて自己判断で取材した気がします」という言葉を紹介している。

 「ウェブが身近にあって、テレビが遠のいていく時代。ドキュメンタリーという手法とは別に、若い世代に伝えるやり方が何かあるんじゃないかな」とも。

 同局は2021年、創立50年を迎えた。執行役員報道局長の「次の50年も原発に向き合っていくしかない。宿命みたいなものかな」という言葉で結んでいる。

??映画館で見る機会が増えたドキュメンタリー

 隈元さんは最近、映画館でドキュメンタリーを見る機会が増えたという。とくに東海テレビ放送が多くの話題作を作っている。「名張毒ぶどう酒事件」を題材に、事件後の58年間で3代のディレクターが関連のテレビ番組8作、映画3作を作った。プロデューサーの阿武野勝彦さんは、ドキュメンタリーを作っても「放送環境は残念ながら良くない。ローカル放送で、全国放送されても、ど深夜。映画なら少し大きなスクリーンで全国に見てもらえるかな、と思ったのがきっかけです」と話している。

 最近では、日本映画専門チャンネルが「東海テレビドキュメンタリー傑作選」を放送している。評者はたまたま同局が自らの報道現場に切り込んだドキュメンタリー「さよならテレビ」(18年)を見て、衝撃を受けた。スポンサーの意向を受けた情報ニュース番組、派遣人材の切り捨てなど現場の実態を描いていた。社内から罵声を浴びながらも撮り続けたスタッフに敬意を表した。

 隈元さんは「テレビ人が映画館にも出ていく『さよならテレビ』の時代が来たということだろう」と書いている。

 このほか、富山市議会の政務活動費の不正を暴いた富山県のチューリップテレビ、阪神・淡路大震災の震災直後に神戸市で開局した多言語ラジオ「FMわぃわぃ」、ハンセン病差別を告発する番組を作り続けてきた岡山県の山陽放送、文化庁芸術祭大賞を受賞するなど多くの秀作ドキュメンタリーを作ってきた山口放送などの取り組みが印象に残った。

 どの放送局も作り手の顔がくっきりと見えてきた。東京キー局の番組の垂れ流しと言われて久しいローカル局だが、彼らの意地が感じられた。とは言え、隈元さんは「つなぎ役としての東京(首都圏)の存在価値も高まっていく。民放系列局の力を生かすドキュメンタリー番組枠を東京キー局が維持してきたからこそ、ローカル局が制作力を磨き、全国、世界に向けて発信する道が開けた」とキー局の役割も評価している。

 ネット世代からは「オワコン」と言われ、視聴時間が減ってきた地上波テレビ局だが、本書を読み、ローカル局にはまだ地域の問題と正面から向か合う膂力があることを知った。

 著者はがんで闘病中だという。「放送関係の本は売れない」となかなか版元が見つからない中で、関係者の尽力により本書が刊行されたことを付け加えておきたい。テレビが見られ続ける中で、なぜ「放送関係の本は売れない」のか。新たな疑問も生まれた。

 BOOKウォッチでは、『地方メディアの逆襲』(ちくま新書)『報道現場』(角川新書)『二重らせん 欲望と喧噪のメディア』(講談社)『政治介入されるテレビ』(青弓社)などを紹介済みだ。

(BOOKウォッチ編集部)

関連記事(外部サイト)