「差別されている人に思いやりを持つ」では、差別はなくならない。

 近年、ジェンダーやLGBTQへの関心が高まっている。LGBTQの専門家である神谷悠一さんが、大学でジェンダーとセクシュアリティに関する授業を受け持ったところ、教室の通路に臨時の椅子を並べるほど受講生が殺到した。 ところが、関心の高さにもかかわらず、神谷さんは「首をかしげてしまうこと」があるという。それは、学生のコメントやレポートの中の「ジェンダーについてもっと気をつけたい」「もっと多くの人が思いやりを持つようになったらいい」といった文章だ。ジェンダーやセクシュアリティの解決方法を「心の問題」にし、具体的に「どう思いやるのか」「どう気をつけるのか」まで書かない学生がとても多いのだという。多いときには全体の7、8割にものぼったそうだ。 神谷さんは「本当に授業で伝えたいことは伝わっていたのかな」と不安を抱いた。全15回の大学の授業ですらこうなのだから、単発の企業研修や自治体の講座はもっと伝わっていないのかもしれない......。そこで神谷さんが書いたのが、『差別は思いやりでは解決しない ジェンダーやLGBTQから考える』(集英社)だ。

◼️なぜ差別は「思いやり」では解決しないのか

 差別の一つに「アンコンシャスバイアス」がある。たとえば採用面接をして、終わった後に評価を見返すと、そんなつもりはなかったのに「男性」ばかりに高い点をつけていたというような場合だ。「アンコンシャス(無意識)」という名の通り、面接をしている当人は差別をしているという認識がない。「思いやり」でどうこうできることではないのだ。 また「思いやり」と同様に、よく使われる「周知を徹底する」という言葉も解決には結びつかないと神谷さんは言う。「周知を徹底する」とは現状の取り組みを「徹底する」ということであり、何か効果のある新しい取り組みを始めるわけではないからだ。差別問題について関心がない人は、何度「周知」を耳にしても関心がないままだろう。

◼️「思いやり」ではなく「法制度」を

 では、「思いやり」や「周知の徹底」のかわりに、どう差別を解決すればいいのだろうか。神谷さんによれば、その答えの1つが「法制度」だ。制度があれば、差別に関する知識が乏しい人でも「これは差別なのか」と納得し、ある程度の水準の対応ができるようになると神谷さんは言う。 もちろんマニュアル化するとマニュアル以上の柔軟な対応ができなくなる人が出てくる恐れもあるが、日本では最低限のマニュアルすら出来上がっていないのが現状だ。たとえば、日本にはハラスメントの「防止」法制はあっても「禁止」法制はない。また、男女雇用機会均等法第5条は、企業等の募集や採用の際の性別による差別を禁止しているが、「罰則」は設けていない。 本書では、現状の差別への対応の問題点と、これからどう法を整えていくべきかの指針をまとめている。「女性」vs.「トランスジェンダー」など、ぶつかると言われている問題はどう解決していけばよいのか。個人が行動できることは何なのか。「差別は思いやりで解決できる」と思っていた方、ぜひご一読を。

■目次第1章 ジェンダー課題における「思いやり」の限界第2章 LGBTQ課題における「思いやり」の落とし穴第3章 「女性」vs.「トランスジェンダー」という虚構第4章 ジェンダー課題における制度と実践第5章 LGBTQ課題における制度と実践

■神谷悠一(かみや・ゆういち)さん1985年岩手県生まれ。早稲田大学教育学部卒、一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。LGBT法連合会事務局長、内閣府「ジェンダー統計の観点からの性別欄検討ワーキング・グループ」構成員、兵庫県明石市LGBTQ+/SOGIE施策アドバイザー。これまでに一橋大学大学院社会学研究科客員准教授、自治研作業委員会「LGBTQ+/SOGIE自治体政策」座長を歴任。著書に『LGBTとハラスメント』など。

※画像提供:集英社

(BOOKウォッチ編集部)

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