ウクライナで起きた大虐殺「ホロドモール」の切手がこわすぎる......!

郵便よりもメールやチャットでの連絡がぐんと多くなり、目にすることの減った切手。中には熱心に収集している人もいる、奥深い世界だ。

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『本当は恐ろしい!こわい切手』(ビジネス社)は、あえて「こわい」という感情に刺さるような、古今東西の切手をまとめて解説した1冊。

その切手が発行された歴史的・文化的背景も踏まえながら、より奥深い切手の世界へと導いてくれる。

目次は、以下の通り。

第1章 呪いの切手第2章 鬼の切手第3章 伝説の切手第4章 現代の闇の切手第5章 戦争の切手

今回は本書から、第二次世界大戦後に発行され「心霊切手」と話題になったものや、「ウクライナ人に対するジェノサイド」とされたウクライナ飢饉にまつわる切手など、各国の歴史や背景をうかがい知ることができる切手を2種、写真付きで紹介したい。

◼️上下逆にすると現れるヒトラー!?

最初は、「ヒトラーの亡霊が見える」と、物議を醸したことがあるという切手だ。

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1947年、フランス占領下のザールで発行された「心霊切手」

これは、第二次世界大戦後の1947年、フランスの占領下に置かれていたヨーロッパ有数の炭田地域であるザールで発行された。

描かれているのは、戦後復興を担う労働者が棒で高炉を撹拌している場面。しかし、左側の労働者の撹拌棒の先端と、その周辺を上下逆にすると......。

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切手の左側の労働者が持っている撹拌棒の先端とその周辺を、上下逆にした画像

炎と地面の形が顔の輪郭と目に。そして炎の中に入る撹拌棒の先端が髭のように見え、まるでヒトラーの亡霊がこちらを見ているかのように見えるという......!

さらにこの切手は、右側の労働者の両脚の間から見える、高炉の縁の部分も上下逆にするとヒトラーの顔のように見える部分があるのだとか。人によっては「気のせい」とも思えるような話だが......。見えるはずのないものが見えるほど、人々の心にヒトラーへの恐怖心が染みついていた証かもしれない。

なお、この切手の「ヒトラーの亡霊」はザールとフランスでちょっとした騒動になったものの、終戦直後で物不足の時代だったため、切手が使用禁止になることはなかったそうだ。

時は進み、2022年現在も、人々が「こわい」と恐れずにはいられない戦争が現在進行形で起きている。戦地となっているウクライナでは、1930年代にも「ホロドモール」という悲劇的な出来事があったことをご存じだろうか。

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2003年にウクライナが発行した、ホロドモール70周年の切手

これは、2003年にウクライナが発行した、ホロドモール70周年の切手だ。十字架の中に、頬がこけてやつれたような人物が描かれている。

ホロドモールとは、スターリンが重工業化の推進を名目にウクライナの農民から穀物を強制徴用し、結果として当時のウクライナの人口の1割強にあたる400~500万人が餓死したと推定される事件。2006年には、ウクライナ議会がホロドモールを「ウクライナ人に対するジェノサイド」と認定した。

「無謀な調達を強行するため、共産党の活動家には農家を強制的に捜索し、穀物を押収する権限が公的に与えられ、隠匿物質を調査するためと称して農民の家屋の床や壁が破壊され、種もみまで収奪される事例が相次いだ」

本書には、ホロドモールがいかに悲惨な結果をもたらしたかということが、具体的な数値とともに克明に描写されている。

本書に登場する「こわい切手」はどれも、1度見ると強烈に記憶に残る。単なるデザインだけでなく、それが発行された当時の世界情勢も知ることで、より興味深く見えてくるだろう。

■内藤陽介さんプロフィールないとう・ようすけ/1967年東京都生まれ。東京大学文学部卒業。郵便学者。公益社団法人日本文藝家協会会員。切手等の郵便資料から国家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し、研究・著作活動を続ける。主な著書に『解説・戦後記念切手(全7巻+別冊)』、『切手でたどる郵便創業150年の歴史(全3巻)』(日本郵趣出版)など多数。

<文・犬飼あゆむ/ライター>

※画像提供:ビジネス社

(BOOKウォッチ編集部)

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