読めばおなかが空いてくる。「食べ物」にまつわる本

 いちごの季節もそろそろ終わり、スーパーの果物売り場には早くもスイカが並んでいる。フルーツに限らず、野菜や魚も、旬のものを食べると元気になれる気がする。そこで今回は、「食」を通じて新たな本との出合いを見つけるべく、BOOKウォッチ編集部のメンバーが「おいしい作品」を選んだ。

◼️文字だけで、このシズル感

『ヒカルの卵』

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森沢明夫 著/徳間書店

 過疎化が進む小さな村で、街おこしのために「卵かけごはん」の専門店を出店する養鶏農家の主人公。人生においてチャレンジすること、周りの仲間を大切にすることの大切さを教えてくれる作品だが、何よりも作品の中に出てくる「卵かけごはん」が、文字だけなのにすごくおいしそう......!「かつて、こんない美味しい卵かけご飯を食べたことはない。卵とご飯それぞれの甘みと旨味が、なんとも言えず舌に優しくて、しかも、香りまで華やかだったのだ。」 おいしさがガツンと伝わってくる表現がお見事。(O)

◼️人間の欲とは、感情とは

『西洋骨董洋菓子店』

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よしながふみ 作/新書館

 小学生のころ、滝沢秀明さん、椎名桔平さん、藤木直人さんが出演するドラマを見て、原作を読んでみたいと本屋に行ったら、売っていたのはBLマンガコーナー。買うのをためらったが、少年雑誌を上に乗せてカモフラージュして、1巻を買った。作中に出てくるスイーツがどれも魅力的で、特にブッシュ・ド・ノエルがやけに美味しそうだった。 よしながふみ作品では、ほかにも『きのう何食べた?』など、食べ物や食事シーンが多く出てくる。人間の「欲」を、食べ物を通して表現しているのだなと感じるようになったのは、大人になってからだった。(O)

『アーモンド』

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ソン・ウォンピョン 著/祥伝社

 「アーモンド」とは「扁桃体(へんとうたい)」のこと。外部の刺激で赤信号が灯り、あらゆる感情が生まれる。主人公の「僕」は生まれつきアーモンドが小さく、感情がわからない。母さんは僕にアーモンドをたくさん食べさせた。そうすれば、頭の中のアーモンドも大きくなると考えたからだ。 「怪物」と呼ばれた僕は、通り魔事件で家族を失った。そんな時にもう一人の「怪物」と出会い、世の中や人間をもう少し理解したいと思うようになる。 僕が「喜・怒・哀・楽・愛・悪・欲」を覚えさせられるシーンがある。並べて見ると、「感じる」のは必ずしもいいことばかりではない。時にしんどくもある。同時に、「感じる」のはものすごく人間らしいことなのだなと思った。文章が素晴らしく、とにかく惹き込まれる作品。2020年本屋大賞翻訳小説部門第1位。世界13ヵ国で翻訳。(M)

書評はこちら→「2020年本屋大賞」翻訳小説部門1位の韓国ヤングアダルト作品

◼️「食」をめぐる謎解きにワクワク

『戦場のコックたち』

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深緑野分 著/東京創元社

 料理人の祖母の影響で、合衆国陸軍のコック兵となった19歳のティム。味オンチだが、頭の冴えるエドら仲間たちとともに、忽然と消えた粉末卵や、不要なパラシュートを集める兵士など、日常の謎を解いていく。個性豊かなキャラクターたちに愛着が湧くと同時に、戦争の描き方も妥協がない。登場人物たちと一緒に戦争の日々を駆け抜けている感覚になる。(H)

「料理人季蔵捕物控」シリーズ

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画像は同シリーズの『雛の寿司』。和田はつ子 著/角川春樹事務所

 江戸・日本橋にある料理屋「塩梅屋」の使用人・季蔵が主人公の連作時代小説シリーズ。第1巻をふと買ってから、夜寝る前に続きを読むのが癖になり、作中の料理を食べる夢を見た記憶がある。 季蔵は元武士だが、いわくがあって料理人になっている。主人の長次郎が殺されてから、季蔵は長次郎の影の仕事を引き受けることになり、様々な事件を解決していく。禁欲的ながら剣の腕も冴える季蔵と長次郎の娘・おき玖との微妙な関係、身近な江戸料理も毎回登場し、季蔵の裏稼業の展開とも絡む、極上のエンタメ時代小説。(S)

◼️食を通して社会を知る

『知っておきたい「味」の世界史』

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宮崎正勝 著/KADOKAWA

 人間の味覚を構成する「甘味」「塩味」「酸味」「苦味」「うま味」。これらの「味」で国や人々が動き、争い、成長を遂げてきたことを学ぶことができる。 大学時代、社会科の教職課程を取っていた時に出合った本。「食べ物はこんなにも人を変えてしまうのだな...」と人間の深層心理を教えてくれた。ちなみに「味」だけではなく、同じシリーズで「食」「酒」も出ており、いずれも食欲だけではなく、知識欲がそそられる。(O)

『捨てない未来 キッチンから、ゆるく、おいしく、フードロスを打ち返す』

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枝元なほみ 著/朝日新聞出版

 料理家として食と向き合う中で、フードロスや貧困といった社会の矛盾に気づいた枝元なほみさん。フードロスの問題はキッチンにいる女性たちに押しつけられがちだが、「なめんなよ!」と枝元さんは言う。「台所で今できることから」という視点をやめて、社会システムのゆがみを直さないことには解決しない。本書では、そのために何ができるのか、歴史学者の藤原辰史さんと語り合っている。 BOOKウォッチのインタビューで、「子どもたちに未来を残していくには、私たちが絶望しちゃいけない」と語っていたことが、強く印象に残っている。(N)

枝元なほみさんインタビューはこちら→「大丈夫。私たち、ちゃんとやっていける!」枝元なほみさんから50代の女たちへ

 欲望を掻き立てられたり、感情を揺さぶられたり、新しい世界が開けたり。本から広がる食の世界、五感を研ぎ澄ませて味わってみては。

(BOOKウォッチ編集部)

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