風俗嬢の子どもは不幸なの? 友近が「ドキッとした」小説

 女手一つで育ててくれた母が、風俗嬢だったら。そしてその事実を、クラスメイトの口から知ったら......。

 千加野あいさんの『どうしようもなくさみしい夜に』(新潮社)は、風俗店で働く女性たちとその周囲の人々の葛藤を描いた連作短編集。収録されている5篇のうち、1篇目の「今はまだ言えない」は、2019年の第18回「女による女のためのR-18文学賞」友近賞を受賞した。選考委員のタレント・友近さんは、「読んでいて(候補作の中で)一番ドキッとしました」「『こういう生き方、あるなあ』と一番胸に迫ってきた」と、リアリティを評価した。

 「今はまだ言えない」は、風俗嬢の母を持つ少年・夏希が主人公。父は幼い頃に亡くなったと聞かされ、ずっと二人暮らしだったが、高校に入る直前に母が、「結婚したい」と言い出した。

◼️「気持ち悪い」とクラスメイトに泣かれて

 夏希が母の職業を初めて意識したのは、小学4年生のときだった。クラスで仲がよかった翔が、夏希の母の裸の写真と、店のプロフィールページを黒板に貼り出し、騒ぎになった。翌日、給食当番でよそったシチューを誰も食べたがらず、クラスメイトの1人が「夏希くんのせいで好きなシチューが気持ち悪くて食べられなくなった」と泣いた。後から、翔の父が夏希の母の常連客だったことがわかった。

 読者目線では「なんてひどいことを言うんだ......」と思ってしまうが、夏希自身は、翔の怒りが自分に向くのは「当然の流れ」、泣いたクラスメイトに対しては「心底申し訳ない」「僕が加害者なのだろう」と受け入れているのがまたつらい。

 母が学校に呼び出された帰り道、手をつながれて2人でアイスを食べていると、母が夏希に食べかけのアイスを「食べる?」と差し出してきた。夏希はとっさに「気持ち悪い!」と手を振り払った。

母は汚い。その息子である僕も、汚い。

 母への嫌悪と、でもその嫌悪を自分も向けられて当然なのだという諦め。割り切れない感情が、夏希の中にうず巻いていた。

◼️母が結婚するということは

 夏希が高校生になる頃、母が結婚したいと相談を持ちかけてきた。紹介された隆さんという男性は、おそらく70歳前後。夏希は、母は生活費を、隆さんは介護を望んでいるのだと納得する。「母と隆さんをつなぐものはきっと愛なんかじゃない」と。

 しかし、何度か食事をして話すうち、母が自分を1人残して隆さんに会いに行っていたことに、複雑な感情を抱くようになる。2人は本当に愛し合っているのか。心細かった夜に、2人は一緒に寝ていたのか......。

 3回目の食事の後、夏希は「ゆっくりしてて」と言って2人から離れた。足が向いたのは、「先生」のところ。夏希の中学の教師だったが、今は退職して駄菓子屋をしている女性だ。学校では、昔風俗嬢だったという噂が流れていた。快く迎え入れてくれた先生に、夏希は尋ねる。

「先生は」と口を開く。「先生をする前は、風俗で働いてたんでしょ」「プライバシーっていつの時代の言葉なのかしらね」「俺の母さんも、そうなんだけど」

 今まで誰にも言えなかったことを打ち明ける夏希に、先生が教えたことは......。

◼️風俗は「恥ずかしい仕事」?

 「今はまだ言えない」のほか、風俗嬢・結衣の視点から風俗という仕事を見つめる「雪解け」、大人になった翔が恋人・風香から風俗をしていると打ち明けられる「落ちないボール」、風香の困難を描く「ひかり」、そして再び夏希が語り手となる「折り鶴を開くとき」が、本書に収められている。

 「雪解け」では結衣が学生時代からの友人に嘘の職業を言ったり、「ひかり」では風香が客のストーカー被害に遭ったりと、風俗の仕事ならではの心苦しくなるエピソードがいくつも登場する。また、知らず知らずのうちに風香を見下していた態度に気づかされる翔など、風俗嬢以外の視点からも考えさせられることが多い。

 風俗嬢の子どもは不幸なのか? 風俗の仕事は恥ずかしいのか? 「ちゃんとした職業」って何? 物語の中でそれらの答えが出ることはない。なかには苦しいまま終わる話もあるが、それぞれが抱えるどうしようもなさに光を当てること自体に、意味があるのだと思う。

■千加野あいさんプロフィールちかの・あい/千葉県生まれ千葉県育ち。2019年、第18回「女による女のためのR-18文学賞」友近賞を受賞。

(BOOKウォッチ編集部)

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