「謎フレーズ探偵」でぶでぶひゃっかんでぶの歌 B

"ひゃっかんでぶの歌"の起源

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さて、今回はいよいよ大詰め、昭和50〜60年代に小学生の間で流行っていた、「でぶでぶひゃっかんでぶの歌」のルーツに迫ってみたいと思っている。
そこでまずは、前回の調査で浮上して来た、「でぶでぶひゃっかんでぶの歌」のそっくりさんの歌について、ちょっとおさらいをしておこう・・・・・・。


「そっくりさんの歌(仮)」

いろはにこんぺいとう
こんぺいとうはあまい
あまいはおさとう
おさとうはしろい
しろいはうさぎ
うさぎははねる
はねるはのみ
のみはあかい
あかいはほおずき
ほおずきはなる
なるはおなら
おならはくさい
くさいはうんこ
うんこはきいろい
きいろいはバナナ
バナナはたかい
たかいはじゅうにかい
じゅうにかいはこわい
こわいはおばけ
おばけはきえる
きえるはでんき
でんきはひかる
ひかるはおやじのはげあたま


ちなみにこの歌は、私の知人の親が、自分の親から教わった歌とのことなので、これまでご紹介して来た歌よりも、ずっと古い時代に流行っていた歌であることは間違いない。
もしかしたら、この歌を調査することで、「でぶでぶひゃっかんでぶの歌」のルーツにたどり着けるかもしれない。


まずはこの歌をパッと見て、皆さんが歌詞に疑問を感じそうな部分から、1つ1つ解析して行きたいと思う。
「うさぎははねる」までは、特に何の問題もないと思うのだが、次の「はねるはのみ」、「のみはあかい」のあたりから、特に若い世代の人たちには、意味が通じない人がちらほら出て来ると思う。
ちなみに、「のみ」とは昆虫の「蚤(ノミ)」のことで、ノミは動物の血を吸い、腹が赤く膨れるので、「のみはあかい」のである・・・・・・。


そして、「あかいはほおずき」、「ほおずきはなる」と続くのだが、ここで言う、「ほうずきはなる」とは、「ほうずきは生る」ではなく、「ほおずきは鳴る」と書く。
では、「ほおずきは鳴る」とはいったいどういうことだろうか。


じつは昔の子供は、丸いほおずきの果実をよく揉み解し、中身をドロドロの状態にしてから外へ捨て、空になった皮の部分を、水でよく洗ってから口に含み、舌で圧迫しながら、「ビィ〜、ビィ〜」と音を鳴らす遊びをよくしていたのだそうだ。


果実の内側の空気を、果皮に開いている小さな穴と、舌の間から押し出すことで音が鳴るという非常に単純な仕組みである。
ブーブークッションや音の鳴るペット用のおもちゃと、同じような仕組みと思えばいい。


ちなみに「果皮に開いている小さな穴」とは、軸が付いていた部分のことで、サクランボを想像してもらえれば分かりやすいかと思う。
ドロドロにした果肉を外へ捨てる時もこの小さな穴から出すことになる。


私が子供の頃は、もうそんな遊びをする子供はいなかったが、庭でほおずきを育てていた時、母が「昔の遊びにこんなのがあったよ」と、実際にやって見せてくれたことがあったのをよく覚えている。
まさかその時の経験が、この原稿を書く時に役に立つとは思ってもみなかった・・・・・・。


そして、それに続く歌詞は、「なるはおなら」、「おならはくさい」、「くさいはうんこ」、「うんこはきいろい」と、小学生の大好きワードが連発されて行く。


その後は、「きいろいはバナナ」、「バナナはたかい」と続いて行くのだが、現代の人たちは、「バナナはたかい」と言っても、あまりピンと来ないだろう。
それは私も同様である。


現在ではバナナはスーパーで手ごろな値段で買うことが出来るフルーツになったが、昔はバナナは高級フルーツで、庶民が日常的に買って食べるようなフルーツではなかったのだ・・・・・・。


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そしてここからが問題である。
歌詞は「バナナはたかい」から「たかいはじゅうにかい」、「じゅうにかいはこわい」と続いて行くのだが、「じゅうにかい」とはいったい何のことだろう。


そこでちょっと調べてみると、明治20年代に東京の浅草に、通称「浅草十二階」と呼ばれる建物があったことが分かった。
「たかいはじゅうにかい」とは恐らくこれのことだろう。


浅草十二階は正式には「凌雲閣」といい、高さ52メートルの赤レンガ造りの塔だったようだ。
で、なんでこのような塔が造られたのかというと、当時は高い所からの眺めを売りにした、望楼建築がブームになっていたのだそう。
凌雲閣の名前についても、「雲を凌ぐほど高い」という意味があったようだ。


通称の「浅草十二階」からも分かるように、凌雲閣は十二階建てで、10階までは赤レンガ造り、11〜12階の展望塔が木造になっていたという。
現在では12階程度の建物なら、別に驚くような高さではないが、当時としては12階の高さの建物はかなり珍しく、だからこそ、「たかいはじゅうにかい」、「じゅうにかいはこわい」と歌われたのである・・・・・・。


そんな凌雲閣も1923(大正12)年9月1日に発生した関東大震災により、建物の8階部分より上が崩壊してしまう。
そして凌雲閣はこの時すでに経営難に陥っていたそうで、復旧が困難だったこともあり、同年の9月23日に陸軍工兵隊により、なんと爆破解体されたという。


で、このことから分かることは、「そっくりさんの歌(仮)」は、この凌雲閣があった時代に作られ、すでに歌われていたということである。
凌雲閣は1890(明治23)年11月に建てられ、1923(大正12)年9月23日に爆破解体されている。


ということは、我々の想像以上に、この歌は古い時代から存在していたということになるだろう。
そして確認出来る限りでは、「でぶでぶひゃっかんでぶの歌」の、最も古いバージョンと思われるのが、この「そっくりさんの歌(仮)」なのである。
したがって、昭和50〜60年代に小学生の間で流行っていた、「でぶでぶひゃっかんでぶの歌」の元歌は、どうやらこの歌で間違いなさそうだ。


そして、もう1つ分かったことが、どうやらこの当時、「で〜ぶ、で〜ぶ、ひゃっかんで〜ぶ」の冒頭のフレーズは、太った子供を囃し立てる歌として、言葉遊びの歌とは別に歌われていたようなのだ。
それがどこかのタイミングで、言葉遊びの歌と合わさって、私たちの知る、「でぶでぶひゃっかんでぶの歌」となったらしい。


それにしても、こんなバカバカしい歌が、明治時代から存在していて、それが時代と共に少しずつ歌詞を変えながら、小学生の間で代々歌い継がれて来たなんて、ちょっとにわかには信じられないような話である。


そして今回の調査で1つはっきりと分かったことは、「いつの時代も小学生の頭のレベルは、少しも変わっていないのだなぁ」ということである・・・・・・。

(画像上、夏の暑い時期に、長期間花を付けるサルスベリ。画像下、立秋の頃から鳴き出し、8月の終わりに一気に数を増すツクツクボウシ)