枕営業の女性起業家から ヤクザに雇われた地下ディーラーまで、 怪しげなベンチャーバブルの世界

忘れていた取材の熱だ。気がつけば一歩踏み出し、右腕を背後からがっちりつかまれていた。

「ブンヤ、あせるな」

 富子が怖い声で制止し、腕をぐっと引き寄せる。

「話はまだ終わっちゃいない」

 うっせえ、有馬はつかむ手を振り払い、富子に指を突きつける。

「どっかに美味いネタはないかと、こんないけ好かねえ金ピカの場所にもぐり込んだんだ。極道に雇われた地下ディーラーなら取材対象としてバッチリだ。これを見逃したら物書きじゃない」

「だからブンヤ、落ちつけって」

 富子は諭すように言う。

「あいつのここ」

 指先で己の鼻の下を撫でる。

「おかしいでしょ」

 有馬は凝視する。イケメンの鼻の下──。薄いピンク色に爛れている。もしかして。

「コカイン、か?」

 そう、と富子は重々しくうなずく。

「プレッシャーに耐えかねてやってんのよ。雇い主のヤクザさんに格安で流してもらってさ」

「それで効果はどうよ」

「最初こそ気分がハイになり、プレッシャーからも解き放たれ、恐れを知らぬ大胆な売り買いで上々の運用実績を挙げていたらしいけど……」

 ふう、とわざとらしくため息を吐き、かぶりを振る。

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