枕営業の女性起業家から ヤクザに雇われた地下ディーラーまで、 怪しげなベンチャーバブルの世界

やっぱこんな場違いなとこ、来なきゃよかった。

「さあ、そろそろお時間ですっ」

 マイクを持った田代が叫ぶ。

「牧口会長、ありがとうございましたあっ」

 拍手と歓声が飛ぶ。小柄な牧口が両手を掲げて応える。汗みずくのピアニストが髪を振り乱し、『炎のランナー』を激しく、情熱的に奏でる。

 田代は大きく手を振り、いちだんと声を張り上げる。

「会長、お気をつけて、ニューヨークまでよい旅を。大統領によろしくお伝えくださいっ」

 うへえっ、とセレブ連中から奇声が上がり、指笛が鳴る。われらがグレートショー、日本のために頑張ってえ、と若い女の黄色い声が飛ぶ。ボディガードと側近、秘書、顧問弁護士に囲まれ、去って行く笑顔の牧口。ショー、ショー、グレートショー。大声が響き渡る。

 いい頃合いだろう。帰るか。有馬はボロの革靴を踏み出した。が、すぐにその場で固まる。富子の様子がおかしい。オイルを垂らしたようにぎらつく瞳が一点を見つめて動かない。有馬はサクセスジャンキーの、その熱っぽい視線の先を追う。

(続く)

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