汚れた身なりで手術、器具は使い回し…19世紀の「手術」の衝撃実態を変えたすごい外科医

汚れた身なりで手術、器具は使い回し…19世紀の「手術」の衝撃実態を変えたすごい外科医

Photo: Adobe Stock

唾液はどこから出ているのか?、目の動きをコントロールする不思議な力、人が死ぬ最大の要因、おならはなにでできているか?、「深部感覚」はすごい…。人体の構造は、美しくてよくできている――。外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、Twitter(外科医けいゆう)アカウント10万人超のフォロワーを持つ著者が、人体の知識、医学の偉人の物語、ウイルスや細菌の発見やワクチン開発のエピソード、現代医療にまつわる意外な常識などを紹介し、人体の面白さ、医学の奥深さを伝える『すばらしい人体』が発刊された。坂井建雄氏(解剖学者、順天堂大学教授)「まだまだ人体は謎だらけである。本書は、人体と医学についてのさまざまな知見について、魅力的な話題を提供しながら読者を奥深い世界へと導く」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。

■アメリカで起こった有名な食中毒

 メロンの一種「カンタロープメロン」を原因食品とする食中毒がアメリカで発生し、33人が亡くなった有名な事例がある。2010年のことである。

 原因となったのは、リステリアと呼ばれる細菌だ。正確には、「リステリア・モノサイトゲネス」という。

 リステリア感染症は、大腸菌やカンピロバクターなどに比べると頻度が低く重症化もまれなため、あまり知られていない。

 だが厚生労働省は、「これからママになるあなたへ〜食べ物について知っておいてほしいこと〜」というリーフレットで、リステリア感染症について注意を呼びかけている(1)。

■妊婦も要注意

 妊婦が感染すると、流産の原因になったり、新生児に影響が現れたりすることがあるためだ。

 リーフレットでは、「リステリア食中毒の主な原因食品例」として、ナチュラルチーズ(加熱殺菌していないもの)、肉や魚のパテ、生ハム、スモークサーモンを挙げ、「妊娠中に避けた方がいい食べ物」と記されている。

 また、「冷蔵庫を過信せず、食べる前に十分加熱しましょう」という重要な注意書きもある。

■低温環境でも増殖

 リステリアは、冷蔵庫内の低温環境でも増殖できるからである。

 むろん、注意すべきは妊婦に限らない。

 高齢者や、免疫機能が低下している人にも重篤な病気を引き起こすことがあり、注意が必要となる。

 生野菜や果物はよく洗い、生の加工食品などは期限内に食べる(開封後は期限によらず速やかに食べる)ことが大切だ。

■外科医と細菌

 リステリアは、19世紀に活躍したイギリスの外科医、ジョゼフ・リスターを記念して付けられた名前だ。

 なぜ、外科医と細菌が関係するのだろうか?

 実はリスターは、世界で初めて「消毒」という概念を生み出し、術後の細菌感染症を激減させたパイオニアだからである。

■手術器具を使い回す…

 リスターが医師になった19世紀中頃、多くの患者が手術後に感染症で命を落としていた。

 細菌が感染症の原因になるとは知られていなかった当時、医療に「清潔さ」はなかった。

 外科医は汚れた身なりで手術を行い、器具は使い回しであった。今では考えられないことだ。

 術後の傷が化膿し、それが全身に広がって患者の命を奪うのは、当然のなりゆきである。

■リステリンの由来

 リスターは、防腐剤や下水の防臭剤として使われていた石炭酸(フェノール)を消毒液として初めて使用し、外科学に新たな理念をもたらしたのである。

 実は、誰もがよく知る口腔洗浄液「リステリン」も、リスターの名前に由来する。

 リステリンは140年以上の歴史を持ち、開発当初は手術用の消毒液として使われていたからだ(『すばらしい人体』第3章参照)。

 リスターは、外科医として初めて男爵の称号を与えられた人物でもある。医学史上、最も有名な外科医の一人と言っても過言ではない、偉大な人物なのである。

(※本原稿はダイヤモンド・オンラインのための書き下ろしです。)

【参考文献】
(1)厚生労働省「リステリアによる食中毒」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000055260.html)

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『すばらしい人体』には、「人体の面白さ」から「医学の歴史」までが紹介されています。ぜひチェックしてみてください。

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