【14歳から知っておきたい】キング牧師を動かした勇気ある女性の「小さな抵抗」とは?

【14歳から知っておきたい】キング牧師を動かした勇気ある女性の「小さな抵抗」とは?

Photo: Adobe Stock

全世界で700万人に読まれたロングセラーシリーズの『アメリカの中学生が学んでいる 14歳からの世界史』(ワークマンパブリッシング著/千葉敏生訳)がダイヤモンド社から翻訳出版され、好評を博している。本村凌二氏(東京大学名誉教授)からも「人間が経験できるのはせいぜい100年ぐらい。でも、人類の文明史には5000年の経験がつまっている。わかりやすい世界史の学習は、読者の幸運である」と絶賛されている。その人気の理由は、カラフルで可愛いイラストで世界史の流れがつかめること。それに加えて、世界史のキーパーソンがきちんと押さえられていることも、大きな特徴となる。
アメリカで黒人差別の撤廃を求めたキング牧師も、その一人だ。また、キーパーソンを掘り下げることで、また新たな歴史人物を知ることもできる。今回は、キング牧師が名を馳せるきっかけとなった、ある一人の女性の勇気あふれる抵抗運動を紹介しよう。著述家・偉人研究家の真山知幸氏に寄稿していただいた。

■キング牧師とローザ・パークス

 “I have a dream”(私には夢がある)

 1963年、約25万人を率いた「ワシントン大行進」において、キング牧師による歴史的な名スピーチが行われたことは、あまりにも有名だ。

 キング牧師は、暴動ではなく、あくまでも非暴力によって、人種差別と立ち向かった。

 しかし、キング牧師が世に知られるきっかけとなったのが、ある女性の勇気ある行動だったことは、あまり知られていない。

 その女性の名は、ローザ・パークス。はたしてどんな抵抗運動を行ったのだろうか。

■何の変哲もない1日から始まった

 1955年12月1日、アラバマ州モンゴメリーで、その瞬間は訪れる。モンゴメリーは白人が約7万5000人に対して、黒人は約4万5000人。黒人差別が顕著な地域として知られていた。

 モンゴメリーに住む当時42歳のパークスは、市バスに乗車していた。仕事帰りの夕暮れ時のことだ。着席したのは「黒人席」。いつも通りのごくありふれた行動である。

 そのうち、白人の乗客たちがどんどん乗ってきた。やがて、白人席が満席になってしまう。

 白人席がいっぱいになったときは、黒人席に座る黒人が白人に席を譲る――。それが暗黙のルールだった。つまり、この場合はパークスが立ち、白人に席を譲ることになっていた。

■席から動かずに逮捕される

 だが、パークスは動かなかった。見かねた白人の運転手から「席を空けてくれ」と言われても応じていない。

 苛立った運転手は「お前を逮捕させるぞ」と脅したが、それでもパークスは「かまいませんよ」とひるまなかった。

 運転手からの通報を受けて、白人の警官が二人やってくる。そのうちの一人にパークスはこう言った。

「あなたたちは、皆どうして私たちをいじめるのですか?」

 警察は「規則は規則だ」と冷たく言い放ち、パークスを捕らえた。

 一体、自分はどうなってしまうのか。パークスにも見当がつかなかった。自分の中から沸き上がった衝動的な行動を、のちにこう振り返っている。

「その日、私はいったいどんな結果になるのか、まったく見当がつきませんでした」

 パークスは駆けつけた警察官によって、市条例違反で逮捕された。

 その日のうちに釈放されるものの、このパークスの小さな抵抗が、アメリカ社会に大きな波紋を呼ぶことになる。

■祖父の代から続いた人種差別

 まず、話題になったのが「なぜパークスは席を立たなかったのか」ということだ。

「疲れていたのではないか」「年だったからではないか」などいろんな憶測が飛んだが、もちろん、そのいずれでもなかった。

 パークスは、幼少期からの差別に疲れ切っていたのだ。

 あちこちで隔離政策が行われ、水飲み場さえ「白人用」と「黒人用」に公然と分けられていた。幼いパークスは、こう不思議に思っていたという。

「白人用の水は、黒人用の水よりおいしいのだろうか」

 自分の祖父の代から続いている黒人差別。それがパークスの身にも降りかかり、すでに40年の月日が過ぎていた。

 パークスがバスで白人に席を譲るのを拒絶したのは、そんな人種差別の積み重ねがあってのことだった。理不尽な扱いを受けることに、もうこれ以上、耐えられなかったのだ。

■バスの利用者は黒人のほうが多かった

 パークス逮捕のニュースを受けて、まず立ち上がったのが、働く黒人女性たちだった。

 彼女たちを中心とした差別撤廃の政治組織と、地元の有力な牧師らの黒人指導者が結託する。

 議論を重ねた結果、「市の黒人をあげて、バスの乗車を拒否しよう!」という運動を行うことになった。

 というのも、モンゴメリーの人口は白人のほうが多いものの、バスの利用者は3分の1が黒人だ。黒人たちで協力し合ってバスの利用をストップすれば、バス会社に経済的なダメージを与えられるというわけだ。

 しかし、そのためには、黒人たちが「もうバスには乗らない」と足並みをそろえなければならない。

 みなを牽引するリーダーが必要だ……ということで、選ばれたのが、のちに「キング牧師」として名を馳せる、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアだった。

 キング牧師は当時まだ26歳で、無名だった。それにもかかわらず、なぜリーダーに選ばれたのか。「引っ越してきたばかりで敵がいなかったため」「有力者に押し付けられた」「指導力に注目された」など、諸説あり定かではない。

 いずれにしても、キング牧師にとって、抵抗運動を指導するのは初めてのことだ。やり遂げられるか不安でしばし逡巡したが、それでもキング牧師は引き受けることを決意する。

 非暴力活動として「バス・ボイコット」を成功させるべく、ビラを配りながら呼びかけて、みなに協力を求めた。

■キング牧師が目にした驚きの光景

 運動のスタート日は12月5日に決まった。

 緊張していたのだろう。その日、キング牧師は妻とともに、いつもより早く目覚めている。

 キング牧師が想定していた成功のラインは、街の黒人のうち60%が参加すること。半数以上の黒人が協力してくれれば、バス会社にダメージは与えられる。

 もし、それ以下であれば効果は限定的で、運動は早々と頓挫してしまうだろう。

 初日の反響は、すぐに明らかになる。ちょうどキング牧師が住む家の窓から見える位置に、バスの停留所があったからだ。

「マーティン、早くいらっしゃい!」

 窓から外を覗く妻が叫ぶので、キング牧師が窓に駆け寄る。そこには、乗客がガラガラのバスの姿があった。

 キング牧師は、この日のことをこう振り返っている。

「この始発バスは、いつも仕事に出かける黒人労働者で満員であることを、私は知っていた。私はこの目でみたものをほとんど信じることができなかった」

 上々の滑り出しだ。あとは、できるだけこの活動を継続することが大切。

 キング牧師は、運動を指導するのは初めてながらも、見事に黒人たちをまとめることに成功した。

■抵抗運動に対する卑劣な暴力

 キングやパークスの非暴力主義によるボイコットに対して、白人市民会議や白人至上主義団体として知られるクー・クラックス・クラン(KKK)らは、暴力で、運動を押さえつけようとする。

 黒人教会は爆破され、キング牧師の自宅にも爆弾が投げ込まれた。パークスも「お前なんか、殺されてしまえ」と電話で何度も脅迫されている。

 それでも、キング牧師の指導の下、黒人たちは抵抗をやめなかった。自家用車の相乗りを呼びかけて、職場への徒歩通勤や徒歩による買い物を積極的に行いながら、声をかけ合った。

 そんな一致団結した「バス・ボイコット」が実に1年以上、継続された。心ある白人の協力もあって、バス会社は倒産寸前にまで追いつめられることになる。

■ついには裁判所を動かした

 1956年11月13日、連邦最高裁判所は次のような判決を下す。

「公共の交通機関における差別は憲法違反である」

 黒人たちの連携が時代を動かした瞬間だ。

 12月21日をもって、バス・ボイコット運動は終了。黒人のバスの利用が再開された。

 その後も、キング牧師やパークスは黒人差別と戦い続ける。その積み重ねが1963年の「ワシントン大行進」へとつながっていく。

 もちろん、キング牧師による非暴力運動のきっかけを作ったパークスも、行進に参加。「私には夢がある」と語るキング牧師の名演説を聴いて、自身の勇気ある行動を改めて思い起こしながら、心を震わせたことだろう。

 その翌年には、人種差別禁止する「公民法」が成立。キング牧師には、ノーベル平和賞が授与された。

■一人では偉人になれない

 キング牧師の場合は、たった一人の女性の行動から、運動の指導者として世に出ることになった。そして『アメリカの中学生が学んでいる 14歳からの世界史』でも触れられているように、非暴力の思想は「インド独立の父」、マハトマ・ガンジーから受けた影響も大きい。

 偉人と呼ばれる人物も、一人で何かを成し遂げたわけではない。『アメリカの中学生が学んでいる 14歳からの世界史』で、歴史の流れのなかで関連人物を抑えておくと、より重層的に世界史を理解することができるはずだ。

【参考文献】
ローザ パークス『ローザ・パークス自伝』(高橋朋子訳・潮ライブラリー)
M・L・キング『自由への大いなる歩み』(雪山慶正訳・岩波新書)
リローン・ベネット『マーティン・ルーサー・キング 非暴力への遍歴』(中村妙子訳・新教出版社)
上坂昇『キング牧師とマルコムX』(講談社現代新書)

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