40年以上前の名著から読み解く日本人の「健忘症と楽天主義」とは

40年以上前の名著から読み解く日本人の「健忘症と楽天主義」とは

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1976年の初版版発刊以来、日本社会学の教科書として多くの読者に愛されていた小室直樹氏による『危機の構造 日本社会崩壊のモデル』が2022年に新装版として復刊された。社会学者・宮台真司氏「先進国唯一の経済停滞や、コロナ禍の無策や、統一教会と政治の癒着など、数多の惨状を目撃した我々は、今こそ本書を読むべきだ。半世紀前に「理由」が書かれているからだ。」と絶賛されている。40年以上前に世に送り出された書籍にもかかわらず、今でも色褪せることのない1冊は、現代にも通じる日本社会の問題を指摘しており、まさに予言の書となっている。『【新装版】危機の構造 日本社会崩壊のモデル』では、社会学者・橋爪大三郎氏による解説に加え、1982年に発刊された【増補版】に掲載された「私の新戦争論」も収録されている。本記事は『【新装版】危機の構造 日本社会崩壊のモデル』より本文の一部を抜粋、一部編集をして掲載しています。なお掲載している内容は1976年に書かれたものです。

■「時間」認識の脆弱性

 現代の日本がはらむ危機はだがロッキード事件などの現象的な側面だけではない。先述したように、現代日本の危機の構造は想像を絶して深く、さらにその解決の糸口を現実的なものとしてつかむには絶望的な困難さを伴う。さらに厄介なことは、われわれ日本人の心情にはこのような危機の時代にあってすら、その事件の持つ意味を十分に認識し、さらに吟味することもないということである。この伝統的な日本人の健忘症と底抜けの楽天主義に支えられた政治感覚には驚かざるをえない。

 日本のマスコミの中途半端な姿勢にも同類の態度がうかがえる。ヘタをすれば日本の存立に直接かかわるかもしれない重大事であっても、冷静に起承転結を追う姿勢が弱い。一時期は大騒ぎをするが、時の経過とともに潮がひき、やがて彼方に忘れてしまうのである。同質の似たような事件が起こってやっと思い出されるのである。いや、思い出すことすら忘れられるのである。

 政治的な事件には陰影が伴う。見える部分よりも隠された部分が多い。隠された部分は見えざる部分ではあるが決して見えない部分ではない。そして重要な部分とは、この見えざる部分にひそんでいる。われわれの関心はこの部分をこそ照射すべきなのに、実は逆になっている。逆立ちした政治認識というべきものだ。政治は天災のごとき自然現象ではない。政治は常時直接的なもののはずである。「忘れたころにやってくる」ものではない。こういったあたりまえのことを身近なところから再認識すべきではないか。近きよりいちいち疑ってみただけで、政治環境の歪さとわれわれの政治的健忘症の溝に横たわった累々たる諸問題が浮かび上がってくる。

 不況対策ははたして政府施策のままで十分なのか。高度経済成長路線を断絶し、国民経済を奈落の底にまで落としめた狂乱物価に再び襲われることはないのか。「土地は必ず値上りする」という神話は崩れたというが、庶民の手が届くまでに住宅問題は緩和されるのか。新たなる中東戦争が勃発し(この可能性は現在のところ常にあるといえる)、オイル・ショックが起こったらどう対処するのか。「油断」はしていないか。油だけではない。農産物の確保は長期的展望を持っているのか。小麦や大豆の輸入は安定しているのか。PCB汚染*は解決したのか。マグロは食卓から消えないか。世界的に有名になった「ミナマタ*」の問題はどうか。公害問題はもう解決してしまったのか。

 天下の東大の入試を中止させた大学問題*は、学生たちは。企業爆破を狙う狼や大地の牙*を凌しのぐ過激派の行動が企てられることはないか。現在、公開されている一般の図書館で入手できる資料をもとに、プルトニウムさえ用意できれば小型の原爆が製造可能だというショッキングな報告もある。「核ジャック」という恐るべき過激行動の可能性を示唆したものといえないか。

*PCB汚染ー1968年、カネミ倉庫製の食用油にPCB(ポリ塩化ビフェニル)が混入したことが原因で、大規模な中毒事件が起きた。この事件をきっかけに、PCBの製造・使用が禁止になる。

*ミナマター1953年頃から熊本県水俣市を中心に発生した公害病。新日本窒素肥料(現チッソ)水俣工場から流れたメチル水銀が原因で、近海の魚介類を摂取することで生じた。

*大学問題ー1960年代後半に、学園の民主化や大学改革を掲げて学園紛争が起きた。医学部に端を発した東大紛争により、同大学の1969年の入試は中止となった。

*大地の牙ー1970年代半ばに活動したテロ組織、東アジア反日武装戦線の一グループ。ほかに「狼」「さそり」グループがある。1974年に三井物産、大成建設の爆破事件を起こした。

※本記事は『【新装版】危機の構造 日本社会崩壊のモデル』より本文の一部を抜粋、再編集して掲載しています。

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