日本で課長に昇進する平均年齢は38.6歳、中国では28.5歳、タイは30.0歳。何が違うのか?

日本で課長に昇進する平均年齢は38.6歳、中国では28.5歳、タイは30.0歳。何が違うのか?

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元ミクシィ社長でシニフィアン共同代表の朝倉祐介さんが、大学時代の恩師である、東京大学大学院経済学研究科・経済学部の柳川範之教授に、最近話題になった経済産業省「未来人材ビジョン」を中心に聞いていくインタビューシリーズ全4回。この第1回では、日本企業で当たり前のように思われている前提について考えます。

朝倉祐介さん(以下、朝倉) 柳川先生は大学時代の恩師です。今日はありがとうございます。

柳川範之さん(以下、柳川) 朝倉さんは私のゼミに、2年間ほぼ全出席で熱心に聴講(注:他学部所属のところ、単位取得につながらない形で本人の希望を受け入れてもらい参加)してくれてました。今日こうやって話ができるのをとっても有難く思っています。

朝倉 柳川先生のことはご存じの方も多いと思いますが、少し変わったご経歴をお持ちなので、自己紹介をしていただいてもよいでしょうか。

柳川 私の経歴はかなり変わっているので、なるべく長くならないよう手短に……。

中学校は普通に日本で卒業したのですが、同時に父がブラジル勤務になったので、ついていったんですね。リオにいわゆる日本人学校の高校はなかったし、現地の学校に入ろうにもポルトガル語ができなかったので、日本の問題集や参考書を船便で送ってもらって、独学で勉強していました。「勉強していた」というと聞こえはいいですが、実のところリオのビーチで寝転がってました(笑)。

朝倉 寝転がっていた(笑)。

柳川 ビーチがきれいですからね(笑)。結局、ブラジルに4年半いて帰国し、同級生より1年半遅れて大検(大学入学資格検定試験)で大学進学の資格をとったのです。でも、また父がシンガポール赴任になったので、これにもついていくことにして、慶應義塾大学の通信教育課程に入りました。

朝倉 たしかに通信課程という手がありますね。

柳川 慶應の通信は、入試はないので入るのは簡単だけど、出るのが難しいんです。ある意味で、大学教育の理想形と言えるかもしれない。それでシンガポールにもテキストを送ってもらって、ここでもほぼ独学でした。シンガポールはブラジルみたいな良いビーチはなかったのですが、マンションにプールがあったので、そこで寝転がって勉強するふりをしていました(笑)。

当時は会計士になろうと思って勉強していたのですが、そのうちだんだん経済学が面白くなってきて、学者になろうと思い、東大の大学院に進んだんです。そのときはちゃんと試験を受けて、そこから先は真っ当なルートになるんですけど。

朝倉 会計士から経済学者に志望を変えられたというのは初めて知りました。

柳川 実は大学院に入学する以前から、伊藤元重先生の授業を潜りで受けに行っていたんです。だんだん調子に乗って伊藤先生に質問しに行くと、「どこのゼミなの?」と聞かれたので、「ゼミには入ってなくて、実は東大生でもなくて」と言ったら、「私のゼミに来ない?」と言っていただいて。朝倉さんは正式な聴講生だったけど、僕の場合は完全な「潜り」で伊藤ゼミに1年半ぐらいいたという、だいぶ普通じゃない経歴です。

朝倉 僕も中学を卒業後、一般的な高校に進学しなかった点で近いところはありますが、「東大の先生」というイメージとは大きく異なるバックグラウンドですよね。とはいえ、たまに東大の先生でも変わったご経歴の方がいらっしゃいますよね。有名なところでは安藤忠雄先生とか。そういう土壌があるのは、東大の懐の広さかなと思います。

僕が柳川先生のゼミを聴講していたときは、マーティン・ウルフが書いたグローバリゼーションに関する英文テキストが課題になっていて、そうかと思うと、教養課程の授業ではたしか大学2年のときゲーム理論を教えておられて、幅広い分野をカバーされているなという印象がありました。

柳川 そうかな。マーティン・ウルフ、たしかにやってましたね。

■衝撃的に遅い! 日本企業内の昇進年齢

朝倉 さて、ここから「未来人材ビジョン」についてお聞きしていきます。2022年5月に出された「中間報告」は、柳川先生のユニークなバックグラウンドも少し反映されているような印象も受けました。元ゼミ生としては、「40歳定年説」や「学びなおし」については、柳川先生が昔からずっとおっしゃっていたことだなと感じるのですが、改めて、この「未来人材ビジョン」はどういう目的で設置されたのか、教えてください。

柳川 いま岸田政権では「人への投資」を前面に打ち出しています。労働生産性をどう引き上げるか、人的資本に投資をいかにきちんと投資していくか、が真剣に議論されています。というのも、各々の人たちの能力を高めていかないと、2050年には現在の3分の2まで人口減少していく日本経済はこの先厳しくなる一方です。1人当たりの稼ぐ力を高めていかないと、GDPも上がっていかない。

そういう機運が半年ぐらい高まってきているなかで、経済産業省としても、柱となるビジョンをつくっていこうという意図で、この「未来人材ビジョン」を打ち出したんだろうと思います。主体が経産省なので、企業の人材育成に重きが置かれていますが、当時の経産省の荻生田(光一)大臣が以前に文部科学相だったこともあって、企業だけじゃなく初等・中等・高等教育や、さらには社会人の学びを繋げていくべきだろうという考え方で、しっかりした考察と提言をしようという目的意識があったのではないでしょうか。

研究会のメンバーは多くなかったけど、日立の東原敏昭会長のような財界の大企業の経営者や、DeNAの南場智子会長のようなベンチャーの経営者、ユニークな教育をされている高校の先生や大学の教育学の先生などに参加いただいて、それ以外にもさまざまな企業にヒアリングして、これからの人材育成のあり方を考えていきました。

朝倉 「未来人材ビジョン」の中間報告では、「問題意識」として、労働生産性の低さや、生産年齢人口の減少、それも外国人労働者で補充できない問題などが、かなりシャープに書かれていて、このままいくと大変だ…! という身につまされる思いがしました。

私自身も知りませんでしたが、企業の昇進年齢に国によってこんなに違いがあるんだなと。日本だと課長に昇進するのが38.6歳、部長44.0歳。これに対して、中国では課長28.5歳、部長29.8歳、タイは課長30.0歳、部長32.0歳と、圧倒的に速い(下記図を参照)。中国やタイは若年層の比率が高いとはいえ、若い時から意思決定を任せてもらえる社会と、日本のようにそうじゃない社会として、顕著な差が出てるなというのを感じました。しかも、タイには部長の年収でも負けていましたよね。

柳川 報告書のかなりの部分は現状の課題を指摘していて、研究会が当然の前提としていたところをデータで裏付けた側面が強かったです。ただし、多くの人がうっすら思っていたことを、しっかりデータで打ち出したので、想像以上に大変な状況であることがわかって、多くの方に注目していただけたのではないでしょうか。経産省の優秀な若手官僚の方たちがしっかり作ってくださった。

これまで、「日本って年功序列で、ヒエラルキーの階段をゆっくり登っていかなきゃならないし、30〜40代になっても大きな意思決定ができない組織だ」となんとなく思ってはいたけど、中国やタイとデータで比較されると、改めてその実態に愕然とするということがいっぱいあった、ということなんですよね。(第2回に続く)

※本インタビューは、Voicy「論語と算盤と私とボイシー」にて、2022年9月26日〜30日に公開された内容を再構成したものです。

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