『走れメロス』の主人公は誰か

太宰治(だざい・おさむ)の代表作の一つ『走れメロス』。批評家、随筆家の若松英輔(わかまつ・えいすけ)さんは、「この作品の主人公は誰か」と問いかけます。




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\r\n■メロスは主人公か?\r\n


「走れメロス」は、太宰治のいくつかある代表作のうちで、もっとも多く読まれた作品の一つです。さて、この作品の主人公は、誰だと思いますか?



題名に名前が出てくるぐらいですから、やはりメロスでしょうか。実際、物語を読み進めると、登場場面も多く、メロスがいちばん派手に動き回っています。だからこれはメロスの物語なんだ、と思っている人が多いかもしれません。しかし、小説家は、物語の真の姿を、設定の奥深くに潜(ひそ)ませていることがあります。さらにいえば、物語が書き手の手を離れて動き出すこともある。ですから読者は、表面的に言葉をなぞっているだけでは、その真の姿にたどり着けないこともある。「走れメロス」もそのような作品だ、と今の私は考えています。



主人公とは、物語の中でもっとも大きな変化を経験する人物のことであり、その人物がいなければ物語が進まず、展開しない存在です。

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