「体制順応主義者の地獄」に生きる白紙の主人公

「体制順応主義者の地獄」に生きる白紙の主人公

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作家のキングスレー・エイミスはレイ・ブラッドベリの『華氏451度』の世界を「体制順応主義者の地獄(conformist hell)」と評しました。「体制順応主義」とは、社会のはぐれ者にならないよう体制に逆らわずに生きていくあり方を言います。では、「体制順応主義者の地獄」とはどんな世界なのでしょうか。そこに暮らす人はどんな生を送っているのでしょうか。主人公モンターグとその妻のありようから、名古屋大学大学院情報学研究科教授の戸田山和久(とだやま・かずひさ)さんが読み解きます。




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舞台となっている21世紀中盤のアメリカは、これまで2回の核戦争を経験し、いまもどこかの国と戦争が始まりそうな危機的状況にあります。主人公のガイ・モンターグは30歳、職業は禁じられた本を燃やす「ファイアマン」です。勤続10年、彼はこの仕事に大きな誇りと喜びを感じています。妻の名はミルドレッド。二人は社会が提供するモデルに完璧に適応している夫婦です。



小説の第一部「炉と火竜」の冒頭を読んでみましょう。


火を燃やすのは愉しかった。



ものが火に食われ、黒ずんで、別のなにかに変わってゆくのを見るのは格別の快感だった。

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