「月の檻(おり)」官能的なムードにくらくら

今年の十五夜は9月15日でした。「月」を詠み込んだ穂村弘さんの歌を、「コスモス」会員の小島なおさんが紹介します。




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いよいよ月が未知の場所ではなくなってきている今日この頃。2007年には月周回衛星「かぐや」が打ち上げられ、月探査に成功したことが大きなニュースになりました。なんでも「かぐや」はNASAのアポロ計画以降、最大の月探査計画だったとか。しかしなによりもわたしが「かぐや」に惹かれるのは主衛星に付く二機の子衛星「おきな」と「おうな」。もちろん竹取物語にちなんだ名前。「かぐや」の名称はJAXAの一般公募によるらしいのですが、一体誰がこんな素敵な名前を付けてくれたのでしょう。物語のなかでは月へ帰る姫を泣く泣く見送った翁(おきな)と媼(おうな)。千年以上の時を越えて姫とともに月に旅立つことができたのです。まさに時をかける翁と媼。なんとも涙ぐましい。旅立ちから九年、いまはそれぞれの役目を終え三機とも月のどこかで静かに眠っていることを願うばかりです。

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水滴のひとつひとつが月の檻レインコートの肩を抱けば
穂村 弘『シンジケート』


肩を抱く、ということは恋人との場面でしょう。降る雨が水滴となって、恋人の着ているレインコートに貼りついている。その水滴のひとつひとつに夜空の月が映り込んでいるのです。それら無数の小さな月は、まるで水滴という小さな球体の檻に捕えられているようであると。「レインコートの肩を抱」くという現代的で優しい恋の動作と、「檻(おり)」という言葉の持つ暴力性。そのイメージの落差が生み出す官能的なムードにくらくらとさせられます。恋愛関係にある男女の心理にまで深く触れるような色気のある一首。



■『NHK短歌』2016年9月号より

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