幸福論の抹殺とファシズム

三木清が雑誌「文学界」に連載したエッセイを一冊にまとめた『人生論ノート』では、21のテーマが論じられています。掲載順に紹介しましょう。



1938年 「死」「幸福」「懐疑」

1939年 「習慣」「虚栄」「名誉心」「怒」「人間の条件」

1940年 「孤独」「嫉妬」「成功」「瞑想」

1941年 「噂」「利己主義」「健康」「秩序」「感傷」「仮説」「偽善」「娯楽」「希望」



哲学者の岸見一郎(きしみ・いちろう)さんが、「幸福」についての三木の思想をひもときます。




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\r\n■幸福論の抹殺とファシズム\r\n


幸福について論じた一篇は、いきなり冒頭でこう指摘します。


今日の人間は幸福について殆(ほとん)ど考えないようである。試みに近年現われた倫理学書、とりわけ我が国で書かれた倫理の本を開いて見たまえ。只の一個所も幸福の問題を取扱っていない書物を発見することは諸君にとって甚だ容易であろう。


書かれたのは戦前の1938年。しかし倫理・哲学の書で幸福が真正面から扱われることは少ないという状況は今も同じです。



なぜ、少ないのか。すでに十分に幸福だから語る必要がないのか──。そうではありません。


むしろ我々の時代は人々に幸福について考える気力をさえ失わせてしまったほど不幸なのではあるまいか。


これは今読んでもどきりとする一文です。

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