「死」から始まる人生論

『人生論ノート』の連載で三木清(みき・きよし)が最初に取り上げたテーマは「死」でした。その冒頭、年齢のせいか近頃は「死というものをそんなに恐しく思わなくなった」と語り、「以前はあんなに死の恐怖について考え、また書いた私ではあるが」と書き添えています。これは未完に終わった『哲学的人間学』のことを指しているのでしょう。その中で三木は「一般に死の問題は人間学に於て決定的に重要な意味をもっている」と指摘しています。哲学者の岸見一郎(きしみ・いちろう)さんが、生と死についての三木の考えを解説します。




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「死について」を著した時、彼は41歳でした。現代であれば働き盛りですが、当時の日本人の平均寿命は男女ともに50歳未満。40歳は初老です。「死の恐怖はつねに病的に、誇張して語られている」。けれど、これくらいの年齢になると精神が老熟して「死は慰めとしてさえ感じられる」と書いています。



それにしても、なぜ初回のテーマに「死」を据えたのでしょうか。死は哲学における重要なテーマの一つですが、当時の人々にとって、それは身近な話題でもありました。前年(1937)に勃発した日中戦争が拡大の一途を辿り、初老どころか20歳を越えては生きられないと思っていた若者もたくさんいたはずです。こうした時代背景に加えて、三木自身が遭遇した近親の死も大きな動機となっていることがうかがえます。

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