夏目漱石が絶賛したジェイン・オースティンの写実力

イギリスの国民的作家ジェイン・オースティンの『高慢と偏見』はどのような小説なのでしょうか。京都大学大学院教授の廣野由美子(ひろの・ゆみこ)さんは「ひと言で要約すると、女主人公エリザベスが、いろいろあって……最後は結婚しました、ということになります」と説明します。しかし、この作品は単純な恋愛小説ではありません。廣野さんは「その『いろいろあって』の内容が実に〈劇的〉だというところが、この小説の抜群のおもしろさなのです」とも指摘します。そのおもしろさは物語の幕開けから如実に表れています。




* * *




作品の冒頭部からすぐに、エリザベスの両親の会話が始まります。まずは、その部分を読んでみることにしましょう。


「あなた、ネザフィールド屋敷の借り手がやっと決まったって、聞きました?」

ある日、ベネット夫人が夫に向かって言った。

ベネット氏は、まだ聞いていないと答えた。

「でも、そうなのよ」と、ベネット夫人は返した。「だって、ロングさんの奥さんが、さっきまでここにいらして、すっかりそのことを話してくださったのですもの」

ベネット氏は返事をしなかった。

「借りたのが誰か、あなた、知りたくないのですか?」と、妻はいらいらして声を上げた。

「しゃべりたいなら、聞いてもかまわないよ」

呼び水としては、これでじゅうぶんだった。

「あら、あなたも知っておくべきですわ。

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