形容詞「速い」を見事に使った短歌

短歌では、陳腐になりやすく使い方が難しい形容詞ですが、うまく使えば大きな効果をあげることができます。「未来」選者の佐伯裕子(さえき・ゆうこ)さんが、形容詞を巧みに織り込んだ歌を紹介します。今月号のテーマは「速い」。




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吉行淳之介の『私の文学放浪』を捲(めく)っていたら、三島由紀夫の初期作品への痛烈な感想が記されていました。「形容詞、形容句の氾濫と、漢字の美に寄りかかりすぎる趣味が、煩わしかった」というのです。若い日の三島は、意図して華麗な語や形容詞を押し出していました。そこが魅力でもあり、弱点でもありました。三島は年齢とともに、美句に「寄りかかりすぎる」印象を修正していったように思います。



今回のテーマ「速い」にしても、「速い」といわずに具体で表現したほうがよい歌ができそうなのです。歌会などでは、「比喩(ひゆ)や形容詞を使えば、そこから腐りはじめる」という注意を聞いたことがあると思います。でも、効果的に形容詞を用いた歌を鑑賞することで、また違った広がりが出てくるのではないでしょうか。



「速い」は、何らかの動く対象を見て発する言葉です。その速さは一定ではなく、対象によって、また感じる人によって千変万化します。「速い」とは、それぞれに過ぎていく「時間の短さ」の総称のようなものです。その特性を巧みに用いた歌を引いてみます。



ポプラ焚く榾火に屈むわがまへをすばやく過ぎて青春といふ
小池 光『バルサの翼』


焚き火に照らされる若い?が浮かびます。火を見つめて屈(かが)んでいる前を、素早く過ぎていったもの。あっというまに過ぎていったもの。「青春」とはそういうものだとうたっています。愛誦性(あいしょうせい)に富む一首に、より速い「すばやく」が、青春の儚(はかな)さを効果的に印象づけています。



■『NHK短歌』2017年10月号より

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