何度でも出会える作家、夏目漱石

『100分de名著』2019年3月号は夏目漱石スペシャル。東京大学教授の阿部公彦(あべ・まさひこ)さんが、『三四郎』『夢十夜』『道草』『明暗』の4作品を通じ、漱石との“出会い”をガイドしてくれます。




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夏目漱石は食いしん坊でした。甘いものやこってりしたものが大好き。ステーキの味を覚えたのはロンドン留学の間でしょうか。お菓子にも目がなく、ジャムを舐(な)めるのも大好き。お腹に悪いから食べ過ぎないように、と鏡子夫人は戸棚の奥に菓子類を隠したそうです。美食というより、B 級グルメといったほうがいいかもしれません。



実は、漱石のこんな「食べっぷり」は、彼の作品を読むヒントにもなると私は思っています。文は人なりと言ったりしますが、人間というものは思わぬところで性格が出たり、特徴ある行動パターンを示したりする。だから、食べっぷりと書きっぷりが似ることもある。体の動きが俊敏な人は、考えるときも俊敏かもしれない。病気を抱えた人なら、その病気に応じた頭の使い方や、文章の書き方をしてもおかしくない。食いしん坊は食いしん坊らしい小説を、胃弱の人は「胃弱な小説」を書くかもしれないのです。



漱石の小説家としてのデビュー作となったのは『吾輩は猫である』でした。

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