漱石の異色作『夢十夜』を読むヒント

『夢十夜』は、第1回で読んだ『三四郎』とほぼ同時期に書かれた作品です。タイトル通り、第一夜から第十夜まで、登場人物やシチュエーションのそれぞれ異なる夢のなかの出来事が綴られる十の作品群で構成され、そのうち四編が「こんな夢を見た」という書き出しで始まります。



不思議な作品なので、納得できない、どう読んだらいいのかわからないと不安になったり、「これ、小説なの?」とか「あれ? これで終わり?」とびっくりした人も多いかもしれません。しかし、実はこの作品を楽しむコツは、まさにこの不安やおどろきとかかわっている、と東京大学教授の阿部公彦(あべ・まさひこ)さんは言います。そんなことも含め、今回は漱石の作品のなかでも異色の『夢十夜』とどんなふうに接したらいいか、そのはじめの一歩となるような「読むためのヒント」について考えてみましょう。




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『夢十夜』と『三四郎』を両方読んでみると、二つの作品の読み心地がまったく違うことに気づかれるでしょう『三四郎』はかなり小説らしい小説として書かれています。小説の約束事とでもいうべきルールを守って書かれている。小説の約束事とは何か。あまり意識しないかもしれませんが、小説にはいくつもの「暗黙の了解」があります。

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