息、生きること

「未来」選者の大辻 隆弘(おおつじ・たかひろ)さんの講座「私が出会った現代短歌」。2019年5月号の題は「息」です。



※大辻 隆弘さんの「辻」の字は、正しくは1点しんにょうです。




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今月の題は「息」です。すこし難しかったかもしれません。



吐息、ため息、寝息、鼻息……。息にはさまざまな種類があります。それらはみな人間の身体と深く結び付いています。したがって「息」という言葉が入ると、たとえば次の歌のように、どこか生々しくなまめかしい雰囲気を伴うことになります。

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ゆうぐれはあなたの息が水に彫るちいさな耳がたちまちきえる
加藤治郎『ハレアカラ』


あなた、というのは作者の恋人なのでしょう。向かい合って座っている恋人がストローでコップの水にフーッと息を吹きかける。すると、その表面が息によって小さくくぼむ。そのくぼみが耳のように見えた。そんな情景が思い浮かびます。



その耳は、石に彫琢されているかのように確かな形で作者の脳裏に焼き付く。「彫る」という動詞によってそんな硬質な映像が立ちあがります。

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