息、生きること

が、それも束の間、その耳は、息がやむとすぐに消えてしまうのです。まるで恋人同士の危うい、刹那的な関係を象徴するかのように。



息を吸ったり吐いたりするのは動物だけです。したがって次の歌のように、「息」という言葉が無生物に使われると、その無生物はまるで生物であるかのような様相を呈します。



とほどほに息づくごとき星みえてうるほふ夜の窓をとざしぬ
佐藤佐太郎『立房』


昭和21年秋の歌です。秋の夜空に、ちりばめられたような星が輝く。星たちはまるで息をしているかのように、かすかな明滅を繰り返している。この歌の上の句「息づくごとき」という比喩はそのような状態を表しているのでしょう。本来、星は無生物であり、その光は無機質なものです。が、この歌では、そんな命無きものが遠く息づいている。そこが実に新鮮です。



そればかりではありません。佐太郎は下の句でも、夜の窓ガラスに「うるほふ」という動詞を使っています。しっとりとした肉感的な雰囲気がそこに立ちあがります。一日の終わりに星や窓ガラスに温もりを感じる。安息や充溢感を感じながら、佐太郎は窓を閉ざし眠りに就くのです。



■『NHK短歌』2019年5月号より

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