酔ごころと歌ごころ

〈あな醜(みにく)賢しらをすと酒飲まぬ人をよく見ば猿(さる)にかも似る〉「酒を飲まないやつをよくみれば、猿にそっくりではないか」と酒を勧める一首もこの一連の中の歌。酒に寄せて人生を謳歌(おうか)する旅人の赤ら顔が時を越え、友人の酒飲み達の顔を借りて脳裏に浮かんできます。


酔ひにたりわれゑひにたり真心こもれる酒にわれ酔ひにたり
佐佐木信綱(ささき・のぶつな)『思草』



「酔った、酔った、真心こもる酒に自分は酔ったのだ」と酒に酔った感覚を詠んだ歌。真心とは杜氏(とうじ)の心か、料理人、もしくは酒を振る舞ってくれている人の心でしょうか。酔った酔ったと酔っ払ったように繰り返される言葉のリズムが楽しい一首で、気持ちよく酔った人の姿が立ちあがってきます。信綱は「時間がもったいないから」と言ってあまり酒を飲まなかったそうです。酒を愛飲する歌は少ないのですが〈雪室に酒をひやして室守が昔の恋をかたる夜半かな〉など、やや幻想的に、憧れを伴った形で酒の歌が詠まれます。そこには酒を愛でた古歌への憧れがあったのでしょう。



■『NHK短歌』2019年11月号より

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