ロシア文学者・亀山郁夫氏の“カラマーゾフ体験”

今なお世界中に読者を持つドストエフスキーの作品『カラマーゾフの兄弟』。ロシア文学者で名古屋外国語大学学長の亀山郁夫(かめやま・いくお)さんも、高校2年生の時に初めてこの作品に触れ、大きなショックを受けたそうです。亀山さんが高校生時代を振り返って語ります。




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『カラマーゾフの兄弟』は、19世紀ロシアの文豪フョードル・ミハイロヴィチ・ ドストエフスキーが、59年の生涯の最後に書き上げた長編小説です。私がこの小説を最初に読んだのは高校2年生の終わりで、一つ上の先輩が書いた『カラマーゾフの兄弟』の読書感想文がある新聞社主催のコンクールで全国2位となり、がぜんライバル意識を掻きたてられたのがきっかけです。というのも、私は中学3年生の夏にドストエフスキーの『罪と罰』を読み、主人公のラスコーリニコフに一種の憑依に近い体験をしていたことがあって、ドストエフスキーは自分にしかわからない、という妙な自信を抱いていたことが原因です。ですから、同じ作家の小説をほかの人が読んで読書感想文を書き、全国で認められることを、何か許しがたいことのように思ったのでした。いま思えばそれは若い私の驕りだったわけですが、とにもかくにも、そんな私のプライドがこの長編に挑戦する一つのきっかけになったことはたしかです。

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