『カラマーゾフの兄弟』の脇役に見る時代の病

『カラマーゾフの兄弟』には魅力的な脇役が多数登場します。ドストエフスキーは、人生を半ば諦めている軍人スネギリョフと、その父をどこまでも守ろうとする息子イリューシャを通して「親子の愛情」だけでなく「時代の病」までを描いてみせました。ロシア文学者で名古屋外国語大学学長の亀山郁夫(かめやま・いくお)さんが、このエピソードの深層を語ります。




* * *




物語の第2部 第4編「錯乱」では、アリョーシャが町の小学生たちと知り合うといういささか唐突な(しかし将来的には大変重要な)挿話が描かれます。



アリョーシャは地主夫人ホフラコーワの家に向かう途中、小さなどぶ川を挟んで立つ9歳〜12歳ほどの小学生の一団を見かけました。手前に6人、向こう岸に1人。彼らの手にはそれぞれ石が握られ、やがて投げ合いが始まりました。6対1の投げ合いにアリョーシャは危険を感じます。向こう岸から飛んできた石がアリョーシャに当たり、そばにいた少年が「いまのは、おじさん、おじさんをわざとねらったんだよ。だって、おじさん、カラマーゾフでしょ」と言います。続いて向こう岸の少年の胸にしたたかに石が当たり、少年は退散していきます。追いかけていくアリョーシャに向かって少年たちは、あの子はクラソートキンという友達をいきなりナイフで刺したことがあるから気をつけるようにと警告します。

1 2 3 4 5 次へ

関連記事(外部サイト)