ノーベル文学賞のカズオ・イシグロという選択

<ブランドとしてはノーベル賞よりむしろ「格上」のイシグロを選んだのは、ポピュリズムが跋扈する世相に一石を投じ、なおかつ露骨な政治性を感じさせない絶妙なチョイス>

ノーベル賞というのは審査委員の主観の総計で決まるので、その時代の政治性と無縁ではありません。平和賞は特にその傾向が強いですが、文学賞にも似たような事情があります。その意味で、今回2017年のノーベル文学賞に関しても、同時代の政治的な環境を前提に、誰が受賞するかということがどんなメッセージになるか、つまり賞がもたらすメッセージ性を予想することを通じて誰が受賞するか、という下馬評が飛び交っていました。

今年の場合は、何よりもブレグジットやトランプ現象といったアンチ・グローバリズムや排外主義など、偏狭な感情論に支配された世相を前提に、「文学とはこれらに対抗するもの」というメッセージ性が期待されていたと言えます。事前の予想1位は、ケニアの抵抗文学者でアフリカ人の言語と文化のアイデンティティー擁護を訴えたグギ・ワ・ジオンゴ氏だったのは、ある意味で当然でした。

グギ・ワ・ジオンゴ氏が受賞すれば、1993年のトニ・モリソン氏(アメリカ)以来のアフリカ系作家、そしてアフリカのアフリカ系作家の受賞としては1986年のウォーレ・ショインカ氏以来となるはずだったからです。

そして、村上春樹氏も事前には「予想2位」につけていました。ですから、もしも村上氏が受賞していたら、恐らくは「壁」という問題にからめた解説なり評価がされた可能性が濃厚です。

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