終わりなきロヒンギャの悲劇

<暴力が待つ故郷への帰還か泥の孤島への強制移住か――ミャンマーからの避難後も翻弄される少数民族の未来は>

「バングラデシュからミャンマー(ビルマ)に帰るのだろうか」という友人の言葉を聞いた途端、アブドゥラ(仮名、31歳)は立っていられないほどの恐怖に襲われた。心臓の音が大きくなり、額を大量の汗が伝い始める。手足が震え、視界がゆがみ、その後の記憶はない──。

18年11月15日のことだ。その日はバングラデシュ政府が定めた、ロヒンギャ難民の帰還の開始日だった。

ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャであるアブドゥラは現在、バングラデシュ南東部のコックスバザールにある難民キャンプで避難生活を送っている。17年8月末、彼の故郷であるミャンマー西部のラカイン州でロヒンギャに対する大規模な迫害が起きた。アブドゥラの村もミャンマー軍に焼き払われ、自身も気を失うまで兵士たちに殴られた。妻と義妹3人は性的暴行を受けた。命からがら隣国バングラデシュに逃れた後も体調はなかなか回復せず、半年以上も難民キャンプで寝たきりの生活を送った。

アブドゥラが故郷に帰るという言葉を耳にしたとき、よみがえったのはあの日の記憶だ。燃え盛る炎、激痛、泣き叫ぶ人々、流血したまま床に倒れた妻。

背景写真 REUTERS

気が付くと、難民キャンプの自分の小屋に横たわっていた。

1 2 3 4 5 6 7 次へ

関連記事(外部サイト)