日本人は「政治に興味ない」「専門的に生きている」──外国人のお笑い座談会より



ナジーブ 仕事から帰ってきて、何も考えない、ばかな笑いがいいということだと思う。

1つおすすめしたいドキュメンタリー映画があるんですけど、山形国際ドキュメンタリー映画祭で見た、在日朝鮮人が日本のアダルトビデオ業界で活躍する作品。『IDENTITY』という作品だけど、監督が面白い人で、本当は作品名を「冬の素股(すまた)」にしたかったと。

(一同爆笑)

ナジーブ 私も爆笑したんだけど、もう1つ笑ったのが、今は帰化して日本人になった人がAVの撮影のために東京から広島に行くシーン。新幹線の窓から富士山を見て、「あー、富士山を見ると、やはり日本人でよかった」と、カメラに向かって、冗談でなく真面目に言ってるんですね。

パックン その在日は日本で生まれた人?

ナジーブ はい、日本で生まれた人。その人は自分を日本人だと思いたい。でも映画全体を通して、全然日本人として扱われていない。アイデンティティーの矛盾がある。

パックン それを聞いただけで、僕はすごく悲しい。

ナジーブ もちろん悲しいですよ。悲しみの爆笑です。たぶん私も、今シリアが内戦になってて、日本の国籍を申請することになる。でも70歳のおじいさんになってもおそらく、日本人として認めてもらえないと思う。

パックン そういう事情をネタにできるはずなんですよ。そしてそれは許されるはずなんですよ。今日の(昼間のパックンマックンの)舞台でも話したんですけど、みんな――周さんは違うかもしれないけど――お箸上手ですねと言われる。26年日本に住んでてお箸使えないやつがいるか!と思う。

周 当たり前だよ。(お箸の使い方は)私が(日本人に)教えたようなものだよ!

(一同爆笑)



「笑わせること以外のアジェンダを持つとその分面白くなくなる」

パックン 実体験として、外国人の顔だから日本人と認めてもらえないというネタは、おそらくできる。でも、もっと普通に、今日起きた政治の話をネタにできないのはなぜなんだ、と。社会情勢、世界情勢を笑いにする人が日本になんでいないんだって、不思議に思うんですよ。

チャド それを不思議に思わない理由、2つあります。一般的な日本人が政治に興味あったら(芸人が)勝手にやってる。つまり、政治に興味がない。興味ある人はもちろんいるけど、マスではないんやろなと。

もう1つは、芸人からすると、そこに手を出すリスクというか、アーティストのつもりでやってるのに、社会を変えようとか、笑わせること以外のアジェンダを持つとその分だけ面白くなくなってしまう。こっちのほうが大きな理由。興味があるし時事ネタもできる芸人いっぱいいるんですけれど、お笑いという本業になると、政治ネタをやらないほうにロマンを感じるんです。

パックン なるほど。

編集者 もしオーストラリアでお笑い芸人をやっていたとしても同じ?

チャド ガチで言うと、変えていこうと思っている。オーストラリアに行って、お前らやってること、まだまだやぞと。僕は日本のお笑いが世界で一番ダントツに進んでると思ってます。

パックン 日本のお笑いに学べと。

ナジーブ 私も(日本に政治ネタがないことが)不思議じゃないと思っている理由があります。日本人は専門的に生きています。

パックン ほぉ、それぞれが専門家ということ?

ナジーブ もしもシリアで電気屋さんに行って水道のことを頼んだら、絶対「できるぞ」と言う。でも(日本の)家の近所のベーカリーで、バゲットがないので尋ねたら「うちはバゲットはやってない」と自慢げに言うんですよ。パン屋さんなのにバゲットを売らない。バゲットを否定するわけじゃないが、専門の狭さをアピールする。

レバノンで出会ったある日本人がいて、アラブのスイーツを勉強していた。帰国したら自分の故郷、広島の田舎でお店を開きたいと言っていた。それはアラブスイーツのお店ですかと聞いたら、いや、マムールの店だと。マムールという、アラブスイーツの1つの種類。広島の田舎で? アラブのスイーツの店でしょ? いや、マムールだけです。私はマムールの神様になるぞ、みたいな。

パックン 餅は餅屋。

チャド 自分が知らないことは、その道のプロに任せる。

ナジーブ だから、コメディーの人は政治の人とは違う、それよりはコメディーの腕を磨いてください、となる。



森友学園が盛り上がったのは「人間模様だから」

パックン それで今、納得したのは、日本人はジョークを持たない、日本にはジョークの文化がない。アメリカ人はたぶん、みんなジョークを1つは持ってるんです。でも日本人は、餅は餅屋の文化だから、「芸人じゃないから、ここですぐには(ジョークを)言えない」。

チャド と、言うてまうんやろな。でもそれ関東の人だけやで。

(一同爆笑)

周 政治の話は毎日、ニュースとか情報番組とかで一応あるじゃない。でも情報番組で大きく扱うかというと、やらない。日本人は重いネタは好まない。

チャド 確かに、ワイドショーで政治の話はたくさんある。あれはどういうことですか。

パックン 森友学園とか(盛り上がった)。

周 あれは政治だからではなく、人間模様だからじゃないか。

パックン あの題材は話題にできる。僕らもちょこちょこ笑ってる。マックンの娘はドラムがすごく上手いんだけど、将来の夢はと聞くと、獣医さんと答える。「じゃあ加計学園に行くんだね」と言うと、笑いが取れるんですよ。これだけで。

チャド え、誰の娘ですか?

パックン え、そこ?

(一同爆笑)

パックン マックンという相方がいまして。吉田眞、と言うんですが......。

旬な政治であれば、それをお笑いのネタにできるはず。舞台でもやってる。今週収録で来週オンエアのお笑い番組にちょこちょこ入れていいはずなのに。

周 ちょこちょこならいいんですよ。

チャド 森友学園の問題で、なんであれだけ盛り上がったかというと、やはり人間模様だからだと思う。『働くおっさん劇場』って知ってます? 松本人志さんが10年くらい前にやってた番組。定点観測して、そのおっさんが嘘ついてるなとか、いま無理してるなとか、そういう人間模様。まぁ、要するにあれを見てほしいということなんですけど、とにかく日本のお笑いは人間の本質を追求している。

パックン いやぁ、今日チャドさん呼んでよかった。そういうところは僕は目を付けていなかった。組織の人間として忖度するとか、人の自由を制限するとか、そういう話になるかと思っていた。ウーマンラッシュアワーの村本(大輔)さんと話して、あることを話したら仕事が飛んだとか、そういうのは取材で聞いて。このメンバーだと、そこじゃないんだね。チャドさんは、お笑いの本質的な違いと感じるんですね。

じゃあ周さん、検閲があるから、中国人は政治ネタを裏でやってるんですよね。プロの芸人に限らず、裏(日常)でも日本人が政治ネタをやらないのはなぜだと思いますか。

周 やっぱり、現状に満足してるんじゃないの。不満がもしあっても、他の国、他の人と比べて、まだましだと。だから海外にも行きたくない。

パックン 社長にもなりたくない。

周 今がいい。それが一点。もう1つは、頑張っても、文句言っても変わらない(と思っている)のがあるんだね。中国人は抑圧されていて不満がある。だからどこで爆発させるかというと、友人との飲み会などで爆発させる。



政治に対して一般人が声を挙げた経験がそんなにない?

パックン あまり不満はないし、政治は変わらないだろうと。デモにも参加しないしね。ナジーブさんはどう思います?

ナジーブ 何も変わらないと思う日本人が不思議です。私たちシリア人は、もっと抑圧的な政権があるのに、変わると思って頑張っている。

たぶん、日本の政治にはユニークな歴史がある。日本は戦後、制度ががらっと変わったのに、偉い人たちは変わらない。日本の20世紀の教育についてのドキュメンタリーで、インタビューしたことがある。おじいちゃんが言ったんです。私たちは戦前、最後の日まで、天皇が神様で、最後の1人が死ぬまで戦うと言ってたのに、次の朝「今日からは平和主義」だったと。偉い人たちは同じ人たち。それがすごくユニークだと思う。だから政治が変わっても、おいしい思いをするのは同じ人だと、日本人は思ってるんじゃないか。

パックン これは僕が東工大で受け持った授業でも言ったんですけど、日本は現代の民主主義国家としては珍しく、革命を起こしていないんです。民主主義を自らの力で獲得したわけじゃなく、お偉いさんたちが決めて民主主義になった。ヨーロッパに視察団を送って、学んで明治憲法を作った。その後GHQが来たけれど、(戦前と)今の民主主義はそこまで変わらないです。百姓が一揆をして政権を倒したわけじゃない。

つまり、政治に対して一般人が声を挙げた経験がそんなにないんじゃないか。僕は歴史学者じゃないから分からないけれど。

編集者 政治ネタ、テレビや舞台は厳しいけれど、ネットだったらあるんじゃないでしょうか。

チャド マキタスポーツさんがそのへんのことを面白く語ってたわ。昔はみんなが会社とかで表現できないことを、お笑い芸人がテレビでやってた。今やったら、自分で発散するSNSとかのツールがあるので、テレビにお笑いを求めていない。

パックン なるほどね。テレビにお笑いを求めていない。じゃあ、そろそろ最後の質問になりますけど、日本のお笑いは政治をネタに取り入れることに挑戦したほうがいいと思います?

ナジーブ 絶対そう。いま真面目な問題を取り上げるのは、硬いニュース番組ばかりで、おじいちゃん、おばあちゃんしか見ていない。

パックン 確かに、討論番組なんて若者は見ていない。若者に伝えるには、お笑いという人気メディアを通してやるのがいい。若者に政治に関心を持ってもらう、これはアメリカのお笑いの役割の1つでもある。

チャド でも今は若い人、そもそもテレビを見てない。

パックン じゃあ、YouTubeでやればいい?

チャド 方法は何であれ、どうにでも伝わる。

パックン 周さんはどう思います?

周 求めても、無理じゃないですか。

パックン 無理? この4人の力ではどうにもならないと。

周 やりたければ、パックンとか、チャドさんが頑張ってくれたらいい。でも日本のお笑いを変えるのは、僕は無理だと思うんですよ。新しい風を吹き込むのはいいと思うけど。

チャド 世界のことを知ろう、世界情勢を知ろうって言ったって、食いつく人はいないです。

パックン ちょっと待って。この特集の前提を否定しないでよ!

(一同爆笑)

◇ ◇ ◇

この後も話は続き、「それでも日本人には海外に目を向けてほしい。グローバル化が進み、日本だけでやっていける時代ではない」「そういうロジックでなく、なんかもうちょっとロマンのある理由はない?」「結婚して子供を作ればいいじゃん」「え、それ?」であるとか、日本にはお笑いに限らず、世界に広げられるコンテンツがたくさんあるのにポテンシャルを発揮できていないといった真面目な話であるとか、とっておきのジョークを披露し合うとか、楽しい夜は更けていった。

それでも当日、パックンはこんなふうにバシッと座談会を締めたのである。

パックン 日本人がもう少しお笑いに寛大になって政治ネタが増えたら、意見交換が増え、刺激もちょっと増えて、もっと政治に参加もできるようになる。もしかしたら、お笑いから世の中を改善する流れも作れるかもしれない。そしてその流れを作る第一歩が、このニューズウィーク日本版の特集です!

(一同拍手)

チャド いや、でも......日本人、今も意外と寛大ですよ。

ナジーブ カンダイだって言うけど、本当に寛大なのか、単に関西大学の出身なのか。

パックン いま締まったよ! 続けるな!


座談会・前編:「日本のお笑いって変なの?」をパックンが外国人3人と激論しました


※8月13&20日号(8月6日発売)は、「パックンのお笑い国際情勢入門」特集。お笑い芸人の政治的発言が問題視される日本。なぜダメなのか、不健全じゃないのか。ハーバード大卒のお笑い芸人、パックンがお笑い文化をマジメに研究! 日本人が知らなかった政治の見方をお届けします。目からウロコ、鼻からミルクの「危険人物図鑑」や、在日外国人4人による「世界のお笑い研究」座談会も。どうぞお楽しみください。




ニューズウィーク日本版編集部

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