“完璧”な上白石萌音の音楽に対し、森七菜は“抜けだらけ”?それでも溢れ出る魅力

“完璧”な上白石萌音の音楽に対し、森七菜は“抜けだらけ”?それでも溢れ出る魅力

森七菜『深海』Sony Music Labels Inc.

いま人気の若手女優2人が新譜を発表しました。7月13日に上白石萌音がニューアルバム『name』を、そして森七菜が8月31日に初のフルアルバム『アルバム』をリリース。

 歌への向き合い方からそれぞれのキャラクターが浮かび上がってきます。

◆手堅い上白石萌音の音楽

 まず上白石萌音。こちらは実に手堅い仕上がりです。彼女の清潔感や聡明さをそのまま音に託したような作りで、安心して聞ける作品になっています。

「懐かしい未来」(作詞・作曲 森山直太朗)は“超”王道Jポップのバラード。静かなピアノの伴奏で語りかけるように歌ったあと、サビではストリングスとともに壮大に歌い上げる。とはいえ、押す一方ではなく呼吸のメリハリで歌詞に深みを与えるあたりが心憎い。<悠遠の風のように走れ 懐かしい未来へ>なんていうちょっとカッコ良すぎるフレーズも、おおげさになりすぎずいい塩梅です。

 また今作ではジャズっぽいフィーリングにも挑戦しています。「ジェリーフィッシュ」は素早い転調と込み入ったメロディの難曲。それでも彼女は軽やかに乗りこなしている。バンドのリズムを引き立てるべく、歌のボリュームを抑えめにしているのですね。音楽IQの高さがうかがえます。

 そしてスタンダードナンバーの「Tea for Two」では美しい英語も披露。発音が安定しているので音程がフラフラしない。個人的には歌いだしのアレンジがちょっとせわしなく感じるのですが、それでも堂々と大名曲と向き合っています。

◆「完璧な仕上がり」だけど…
 
 アルバム『name』は“正しい”作品です。美しい発声、丁寧な言葉づかい、折り目正しい音楽。道徳の教科書の付録にしたいぐらい完璧に仕上がっています。“役者・上白石萌音”に世間が抱くイメージを補強する音楽活動だと言えるでしょう。

 ただし気になる点も。全ての要素が同じ方向を向きすぎていて、意外性や抜け感に乏しい。穴のなさに距離を感じてしまうのですね。

◆上白石萌音とは対象的な森七菜の音楽

 その点、森七菜の歌は異なります。表現の細やかさと音楽性では上白石萌音には遠く及びません。けれども森七菜には原始的な力がある。曲をまとめるとか感度の高さを示すのではなく、ただその音程にたどり着くために声を出す。やむを得ない辛さが彼女の高音にはある。それに胸を打たれるのですね。

『アルバム』収録曲「bye-bye myself」(作詞・作曲 森山直太朗)の<最後の守りだ 締まって行こうぜ>という部分によくあらわれています。唐突な野球用語の歌詞ですからユーモアを交えたいところですが、ここで森七菜は必死に食らいつくのです。

 しかしその差し迫った感じが小手先のおかしみ以上の説得力を持つ。歌手としての限界が聞き手との間の壁を壊すわけです。

 同様に「スマイル」(オリジナルはホフディラン 作詞・作曲 渡辺慎)のカバーも斬新です。ひねくれたりとぼけた風に歌いたくなる曲想でもぶれていません。余裕のない歌が字句を額面通りに打ち付ける。丸腰のやけっぱちが結果として曲の中に隠れていたひたむきさを引き出しています。

 特に<いつでもスマイルしようね>で呼吸の勢いがあまって音楽を壊しそうになる瞬間。そして<すぐスマイルするべきだ 子供じゃないならね>での演説みたいな“するべきだ”と、表拍をぶん殴るように説き伏せる“子供じゃないならね”にハッとさせられます。

 このヨタヨタしながらも馬力のある歌はバラードで効きます。映画『ラストレター』の主題歌「カエルノウタ」(作詞・岩井俊二 作曲・小林武史)は不安定なのに力強い。“いい曲”だけで終わらせない違和感を残せるという点で、上白石萌音にはない魅力があるのではないでしょうか。

 いずれも意図的ではないからこそ生まれる驚きがあるのですね。

◆リミッターを外した上白石萌音を見てみたい

 これが今後の上白石萌音に求められるものなのだと思います。すでに世間は聡明で器用で熱心な彼女を知っています。ただ優等生的なイメージをアップデートしつづけるだけでは、いずれ物足りなくなるでしょう。

 たしかに心地いいサウンドで伸びやかに歌う姿には癒やされます。温かく見守りたい気にさせられるし、演技でも歌でも微笑ましいという言葉がぴったりくる存在です。

 だからこそコンフォートゾーンから抜け出して、余裕を失ったときにどう反応するかも見てみたくなります。リミッターを外し、好感度を度外視した上白石萌音とはどんなものなのか? 

 “デキる”人には要求も高くなってしまうのです。

文/石黒隆之

【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4

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