日本馬が凱旋門賞制覇に近づいた伝説のレース3選

日本馬が凱旋門賞制覇に近づいた伝説のレース3選

日本競馬史上、最も凱旋門賞制覇に近づいたのがオルフェーヴル。2012年、2013年と2年連続で2着だった

◆日本競馬界の悲願・凱旋門賞

 10月2日、フランスのロンシャン競馬場で凱旋門賞が行われます。日本からは、、ステイフーリッシュ、タイトルホルダー、ディープボンド、ドウデュースの4頭が出走予定。

 凱旋門賞には、1969年のスピードシンボリ以来、延べ29頭が挑戦し、その厚い壁に跳ね返されてきました。

 芝の中長距離のカテゴリーにおいて、日本馬の実力は世界のトップレベルにあり、凱旋門賞は手が届かないレースではなくなっています。また、ドバイミーティングや香港国際競走など、凱旋門賞以外にも目指すべきレースが増えたこともあり、凱旋門賞というレース自体、究極の最終目標とはいえなくなってきました。

 それでも、初期のダビスタで特別な条件を満たせば挑戦できた唯一の海外レースが凱旋門賞であったように、漫画『風のシルフィード』のクライマックスが凱旋門賞であったように、日本の競馬ファンにとって、凱旋門賞制覇は日本競馬の悲願として深く刻み込まれています。

 そしてそれが、ある種の呪縛になっているのも事実。凱旋門賞を勝たないことには、日本競馬は次のステップに進めない感さえあります。果たして、今年の日本馬4頭は悲願を達成し、歩みを進めることができるのでしょうか?
 
 今回は、日本馬の凱旋門賞挑戦史において、勝利に近づいた3つのレースを取り上げてみたいと思います。

◆初めて手が届くレースとして意識した 99年エルコンドルパサー

 1969年のスピードシンボリ、1972年のメジロムサシ、1986年のシリウスシンボリとそれまで凱旋門賞に挑戦した3頭はいずれも二桁着順の大敗。日本馬にとって凱旋門賞は手の届かない存在として認識されていました。

 日本馬4頭目の挑戦となったのは1999年エルコンドルパサー。前年のジャパンカップを制して日本最強の座に就くと、翌年は凱旋門賞を目指してヨーロッパに拠点を置く長期の遠征を敢行します。フランス初戦のイスパーン賞こそクロコルージュに苦杯を嘗めますが、続くサンクルー大賞、フォワ賞を連勝。この2つのレースでドリームウェル、ボルジアといった最強クラスの相手を降したエルコンドルパサーにとって、残すライバルは欧州最強3歳馬のモンジューだけとなります。

 一騎討ちムードで迎えた本番は、逃げの手に出たエルコンドルパサーが直線で後続を2馬身、3馬身と引き離します。「エルコンドルが勝った!」そう思ったその刹那、モンジューが強襲。エルコンドルパサーも必死の抵抗をみせますが、半馬身だけ及びませんでした。

 それまで夢物語でしかなかった凱旋門賞を、初めて手が届くレースだと意識させてくれたエルコンドルパサー。これなら、そう遠くない将来に日本馬に凱歌が上がるはず。そう思ったファンは多かったことでしょう。まさか、そこから20年以上も勝てない日々が続くとは、当時のファンは知る由もありません。

◆競馬ファンが勝利を信じて疑わなかった 06年ディープインパクト

 エルコンドルパサーの挑戦から7年後、あのディープインパクトが凱旋門賞に参戦します。無敗の三冠馬にして、それまで11戦10勝。3200mの天皇賞(春)を超レコードで圧勝し、壮行レースとなった宝塚記念でも、雨でぬかるんだタフな馬場を物ともせず快勝。遠征に送り出す競馬ファンのムードも「(凱旋門賞を)勝てるかも」ではなく「勝てるだろう」に変わっていきました。
 
 2006年の凱旋門賞は、ハリケーンラン、シロッコとともにディープインパクトが三強を形成。強力メンバーが揃ったことで、8頭立ての少頭数となります。

 欧州調教馬しか勝っていないという事実が示す通り、凱旋門賞には厳しい「アウェーの洗礼」があります。多頭数で揉まれてしまい、馬群から抜け出せない危険がありましたが、頭数が減ったことでその心配も解消。風はディープインパクトに吹いているかのように思われました。

 しかし、レースでは残り400m地点でディープインパクトが持ったままの手応えで先頭に立ったものの、そこから伸びが鈍り、レイルリンク、プライドにつぐ3着(レース後にフランス競馬における禁止薬物が検出され失格)。日本競馬の悲願は持ち越しとなりました。
 
 実は、筆者も現地でレースを観戦していた一人。在籍していた月刊誌は月末締め切りでしたが、印刷所に無理を言って巻頭の1ページだけ締め切りを10月2日の深夜まで伸ばしてもらい、速報を挿入することになっていました。失意のまま、プレスセンターでカメラマンがディープインパクトの写真を送信している光景を眺めていましたが、あの虚無感を、今でもハッキリと覚えています。
 
◆誰もが勝利を確信した 12年オルフェーヴル

 ディープインパクトの敗戦から6年、再び、三冠馬が凱旋門賞に挑みます。

 阪神大賞典での世紀の大逸走、天皇賞(春)での惨敗から立ち直り、宝塚記念とフォワ賞を連勝したオルフェーヴルは、凱旋門賞では、同年の英愛ダービー馬キャメロットに次ぐ2番人気に支持されます。

 レースは後方2番手で最後の直線を迎えると、大外から持ったままの手応えで進出。残り300m地点で内の馬群を一飲みします。リードを広げにかかった姿に、日本中の誰もが勝利を確信しました。しかし、そこから内ラチ沿いまで急激に斜行してしまい失速。鞍上のスミヨン騎手も必死に追いましたが、急追してきたソレミアがクビ差交わしたところがゴールでした。

 最後の直線での盛り上がりからの落胆は、「悲哀の凱旋門賞2012」と銘打たれたYouTubeの動画をみると実感できます。まさに、これと同じ光景が、日本全国で繰り広げられていたことでしょう。この競馬をしても勝てないのか、それが全競馬ファンの思いでした。

 オルフェーヴルは翌年にも凱旋門賞に挑戦しますが、トレヴに5馬身差をつけられる完敗の2着。2014年以降は、日本馬が5着にも入れない状況が続いています。

「勝てるかも」と初めて意識した1999年、「勝てるはず」と送り出した2006年、「勝った」と思った2012年。紛れもなく、日本馬が凱旋門賞制覇に限りなく近づいた瞬間でした。

 今年の凱旋門賞の発走時間は日本時間で10月2日の23時5分です。

文/松山崇

【松山崇】
馬券攻略誌『競馬王』の元編集長。現在はフリーの編集者・ライターとして「競馬を一生楽しむ」ためのコンテンツ作りに勤しんでいる。

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