実家が全焼、夫が70人と不倫…あえて「自分の不幸」を発信する人々の理由

実家が全焼、夫が70人と不倫…あえて「自分の不幸」を発信する人々の理由

「自分の不幸」発信する理由

実家が全焼、夫が70人と不倫…あえて「自分の不幸」を発信する人々の理由

夫が70人もの女性と不貞行為をし、離婚協議中のego@離婚協議中さん(30代)

貧困独身フリーターの残酷な給料日。経営していたBARがつぶれた。ほかから見れば不幸体験を売りにしたコンテンツがいま、人気を集めている。特に関心を集めているコンテンツ作成者に取材を急遽実施。彼らから見えてくる“社会のニーズ”とは。その実態に迫る!

◆母は蒸発、父は自殺した男が発信する理由

「小学生のとき、実家が全焼。母は蒸発し、父はアルコール依存症で自殺しました」

そんな過去を打ち明けるのは、「実家が全焼したサノ」の名前でブログなどを手掛けるサノさん(33歳)。大手広告代理店に勤めている。大阪に生まれ、大学院まで関西で過ごす。これまでホストやバーの経営など、いろんなことを経験してきた。

そんなサノさんはTwitterのフォロワー数が7万人超で、一つの投稿が32万いいねを獲得するなど、多くの人から親しまれている。

◆打ち明けて展開することで人生が面白いほうに転ぶ

投稿内容は自分の身近にあったちょっとツラいことや切ないこと。ブログも投稿しており、そこでは「父が亡くなった話」などと重めの過去を打ち明けている。なぜか。

「僕にとっては日常を情報発信しているだけですが、よく切ないと言われます。実家の全焼や、父が亡くなったりしたときは悲しかったですけど、いま同じ気持ちにはならないです。感情の整理がついているから。

実家が燃えた話をすると大きく拡散され、結果いまがあります。一つの話で終わるのではなく、打ち明けて展開することで人生が面白いほうに転ぶと学んだんです」

◆誰かがクスッと笑ってくれればいい

情報発信を続けるモチベ―ションはほかにもあるという。

「自分のエピソードで誰かがクスッと笑ってくれればいいなと。みんなが笑ってくれれば、自分自身がちょっといい気分にもなれますから。災難だったねと言われますが、整理できたいまは不幸という実感はないです」

【実家が全焼したサノ】
’19年5月にTwitter「@sano_sano_sano_」を開設。身近な切なかったことを投稿している。140文字を超える場合はブログに投稿。書籍も販売中

◆「底辺」を語る配信者

38歳独身で恋愛経験ゼロ。高卒で低身長―。そんなプロフィールを押し出している動画配信者にも話が聞けた。YouTubeのチャンネル「ただフリの日常~人生ドキュメンタリー」を運営する、ただフリさん。1週間に一度、自分の日常を投稿している。

現在のチャンネル登録者数は2.16万人で「底辺の給料日ルーティン」と題した動画は70万回再生を超える。

だが、開始当初は現在のような「底辺な日常」を発信していたのではない。

「洋服のレビューなど、いろいろな動画をアップしていました。しかし、食事などの日常の様子や、人生経験を語る動画のほうが反応として一番良かったんです。本格的に仕事としてYouTubeをやっていこうと思い、いまの内容に落ち着きました」

◆「ネガティブな部分も含めて楽しんでもらえたら」

人気チャンネルとして順調に伸びる一方、自虐的な要素も多いだけにネガティブな反応やコメントも少なくない。それでも「底辺の日常」というテーマで動画を撮り続ける理由は何なのだろうか。

「悪口を含めて、そういう楽しみ方もあるのかって。弱みが武器になると思っているので、ネガティブな部分も含めて視聴者の方に楽しんでもらえたらと思います」

批判的なコメントを書いたり、そのやり取りを見て楽しんだりする視聴者も一定数いると話す。ツッコみたくなる要素をあえて入れるなど、視聴者目線で楽しめる動画を考えたときに「底辺」という切り口に辿り着いたと、ただフリさんは打ち明ける。

【ただフリの日常~人生ドキュメンタリー】
婚活パーティに参加する様子も動画で定期的にリポートする。参加した経緯やカップリングの結果など、正直な感想を話す。たまに、過激な発言で炎上

◆シュールな50代独身女性の一日を配信

シュールな50代独身女性の一日を自分で配信する人もいる。家の中に物をほぼ置かない。惣菜をパックのままテーブルに並べ、食べる。ぬいぐるみを枕元に置いて寝る―。

「50代独身女性のゆきちゃん」で活躍するゆきさんは、都内で接客業に従事している。’20年末からYouTubeで動画配信を始めたという。

「YouTuberのてんちむさんに憧れがあったんです。コメントがいっぱい来ていて羨ましいなと。動画を見ていたら、自分の生きてきた証しを残したくなったんです」

◆最高で137万回再生を記録

視聴者の男女比は半々で、年齢層は35~60歳が中心。一番再生回数が多い動画は、137万回再生を記録している。インフルエンサーとして案件の依頼も多い。だが動画で稼ごうとは思っていないという。なぜ人気を集めているのか。ゆきさんが考察する。

「視聴者の方は自分の生活と比較して見ているはず。『自分は、まだ良い生活をしているんだな』と思うのでしょう。生活のキレイな部分を見せるんじゃなくて、ありのままの自分を見せていきたいんです」

◆「コメントが励みでやってこられた」

女性のコメントが多く、「ゆきさんが励み」という同世代のファンもいる。アンチコメントも目を通し、印象的なものは動画内で取り上げる。「そういう意見もあるよね」と、上から目線にならないようテロップで返す。

「両親も他界していまは私ひとり。でもコメントをもらえると、落ち込んだ気持ちも和らぐ。コメントが励みでやってこられたって感じですね」

【50代独身女性のゆきちゃん】
50代独身女性の自宅での生態を公開する。元気があれば料理を作り、疲れると惣菜とカップ麺。チル系ナンバーに乗せたシュールな日常が長尺で綴られる

◆不倫に狂う夫に苛まれた人生を、投稿が好転させた

取材を続けていると、夫が70人もの女性と不貞行為をし、離婚協議中の当事者にも話を聞けた。ego@離婚協議中さん(30代)だ。

「夫が裏垢で70人と不倫していたのが発覚した日の話」のシリーズを’21年12月に投稿サイト「note」で無料公開すると、128万超に。ツラい内容をなぜ自ら打ち明けるのか。

「情報発信のきっかけは、自分の中で抱えていたものをTwitterに預けたかったから。頭の整理の意味合いもありました。それと自分の体験は、パートナーに不倫をされた渦中の人からすると、すごく参考になるかもしれない。困っている人に届いたら嬉しいという思いがありました」

◆夫を「人畜無害で面白みのない人」と感じていたが……

自分の夫を、「趣味も全くなく、人畜無害で面白みのない人」と感じていたという。しかし’21年3月、何げなく寝ている夫の携帯を見てみると、「裏垢男子」と称し夫が、Twitter上で不特定多数の女性との性行為動画をアップしていたのだった。

《余が大好きなエロ動画を紹介するぞよ。(中略)気に入ったエロ動画はどんどん紹介させていただきたく早漏》(原文ママ)

自分の知る夫とキャラ違いの文面だけに、アカウントが乗っ取られているのではと疑ったものの、動画の裸体は夫のものだった。その日のうちに先輩や親友などの前で、夫と事実確認を行った。同年8月には、離婚の意思を固めた。

◆同じ境遇の女性から相談多数

彼女の元には現在、同じ境遇の30代女性から多数DMが寄せられる。DMは一日10件、ピーク時はその3倍。返信は大変だが、不倫をされた妻=サレ妻境遇の人の話はできるだけ聞いていきたいという。

「ある程度自己開示することで、周りの人たちが応援してくれるようになり、今後の生活に対する不安が和らいできました。いまはこの先の人生をポジティブに捉えています」

不幸な経験が、誰かの糧や、ストレス解消に役立っているのかもしれない。

【ego@離婚協議中】
70人と不倫した夫のサレ妻投稿が人気のブロガー。夫の裏垢発覚から離婚へと進む際、妻がとるべき行動を機知に富んだ文面でnoteやTwitterにて投稿

◆誰かの救いになっていた「底辺チャンネル」

非正規雇用として働く給与事情や持病の治療など細かくルーティンを動画配信するA氏。匿名が取材の条件だったが、その理由は動画優先の生活を送りたくないからだという。動画投稿を始めたきっかけは何か。A氏が打ち明ける。

「数年前に入院したとき、似たような方のルーティン動画をよく見ていたんです。明確な目的があったわけではなく、YouTubeの広告で入院費を回収できたらという軽い気持ちで始めました。日常を撮影する形ならば、企画力がなくてもできるのではとも思ったのです」

◆借金は返し終わったが……

淡々と1日の様子を撮影し続けた結果、徐々に再生回数が伸び続け、現在は登録者数3万人のチャンネルへと成長し、収益は月3万円ほど。「底辺」を自称するYouTuberの動画には、度の過ぎたコメントなどもつきやすい傾向にあるが、応援の反応がほとんどを占める。

本来の目的である借金は返し終わったとA氏。動画配信を続ける理由をこう打ち明ける。

「『動画を見て救われました』と自殺を考えていたと打ち明ける視聴者からそんなコメントを頂きました。僕自身、社会になかなか馴染めないタイプで、生きづらさを感じていて。今は、会社以外の自分の居場所をつくれば、自分も救われるかなという気持ちでYouTubeをやってます。視聴者の方が同じように思ってくれたのは印象深いですし、すごく嬉しいんです。これからも無理のない範囲で続けたい」

あくまでも自分のペースで配信を続けたいA氏。YouTuberといえば、再生回数や収益化の拡大を目指して配信する印象が強く、そっちに注力する人も多いはず。ただ、必ずしもそれだけではなく、リアルな自分自身を映し出すことによって、得られるものもある。

◆不幸コンテンツが受け入れられる社会とは?

不幸コンテンツが注目を集めるのは、1億総発信時代だからこそと主張する専門家がいる。消費文化やマーケティングに詳しい原田曜平氏だ。

「SNSが普及する以前、本人が生の声で発信するチャンネルはあまりなかったかと思います。テレビのような編集されたコンテンツが主流だった。例えば、24時間テレビではどんなテーマでもきれいなところだけを映してきました。

そんななかで、誰しもが情報発信をできるようになったため、ネット上で本人の口からよりリアルな体験を聞けるようになった。覗き見欲求と相まって、そうした新鮮さがフィットしたのではないかと考えられます」

◆自分より少し不幸な人を見ることで安心感が生まれている?

SNSのコンテンツはネガティブな内容に限らない。例えば、芸能人が普段の生活を発信することにより、ファンに喜ばれているケースは少なくない。一方、見ず知らずの素人による不幸なコンテンツが人気を集める理由は何なのか。

「社会全体として勝ち組・負け組という概念が浸透している。自分がいつ下に巻き込まれるかわからない。そんな不安を感じやすくなっています。正直なところ、自分より少し不幸な人を見ることで一種の安心感が生まれている部分もあるのではないでしょうか」

◆自己肯定感は下がっていく一方の現代

不安が生まれやすいのはなぜか。時代背景に原因があると原田氏は解説する。

「上に行きたいという上昇志向は昔もありました。なんなら昔の人のほうが強かったのではないでしょうか。ただ、昔は比較対象が少なく価値観も多用ではなかった。狭い世界でいいポジションに立ちやすく、それで満足できるんです。

でも、現代は異なります。ネットの広がりでライバルが全国にいることになっているのです。自分よりあの漫画について、もっと詳しい人がいる。もっと自分より面白いツイートをする人がいる。こんな状況では根拠のない自信はすぐになくなり、自己肯定感は下がっていく一方です」

不幸コンテンツが人気の裏にはネット総時代のメリットとデメリットがあった。

◆不幸コンテンツは長く続かない!その理由は?

「動画だと特に、金銭面な不幸エピソードを紹介するコンテンツは短期的な人気が出やすい。一方、長続きさせるのが難しい」

そう言い切る専門家もいる。チャンネル登録者数100万人を超える「あるごめとりい」を運営する西江健司氏は、未解決事件やミステリーなどの動画を公開している。

金銭的な不幸エピソードを切り売りするジャンルの難易度が高い理由を西江氏はこう解説する。

「YouTubeで広告収入が発生すると3000万回再生されたら、1本の動画で30万円以上の収益を得ることが可能。貧乏をアピールしているにもかかわらず、『でも、YouTubeで多くのお金を稼いでいる』と感じる人も。結果、リアリティがなくなってしまう。人気と反比例して、コンテンツの寿命が短くなる」

◆不幸体験と収入が反比例するジレンマ

不幸系コンテンツの配信者がお金を持ってしまうことでどんなことが起きてしまうのか。西江氏が続ける。

「少し悲しいですが、不幸系コンテンツを見たがる人は、現実世界に自分より不幸な人がいるという認識の上で、彼らの動画を見たがっているのが実情でしょう。だから、お金をかけて動画編集をきれいに見せたり、露骨に広告を挟んだりすることもしづらいんです。

動画投稿をすることで、自分が裕福になったりする未来線があるのに、お金がないことを切り売りするジャンルはそこで矛盾を生んでしまう。そんなジレンマを抱えているコンテンツなのです」

最大の武器である不幸体験と引き換えにして得る収入が長続きしないとは、なんとも不条理な話だ。

【原田曜平氏】
’22年4月から芝工大の教授を務める。専門は、消費文化やメディアの行動研究、若者分化。「Z世代」などの流行語大賞でノミネートされている

【西江健司氏】
pamxy代表。元TBS局員でバラエティ番組を担当していた。お笑い芸人コンビのナイツなど芸能人の動画コンテンツもコンサルとして手がけている

取材・文/週刊SPA!編集部

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