まんしゅうきつこさんの『捨てられないTシャツ』

まんしゅうきつこさんの『捨てられないTシャツ』

まんしゅうきつこ●漫画家・イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)、『ハルモヤさん 1』(新潮社)がある。『週刊SPA!』にて「湯遊白書」を連載中。

 個人で毎週こつこつ配信しているメールマガジンで、2年近く前に『捨てられないTシャツ』という連載を始め、それがこのほど単行本にまとまった。完全に思いつきの、どれくらい続けられるかもわからない企画だったが、始めてみたら思いのほか楽しくて、「なぜこのTシャツが捨てられないのか」という思い出話を聞いたり、ときには持ち主本人に書いてもらったりしているうちに、70枚のTシャツと、70人のヒストリーが集まった。

 Tシャツというささやかなきっかけを通じて知った、たくさんの人間のリアルはほんとうに興味深かったが、同じくらい興味深かったのが、70枚のうち「欲しい」と思えるTシャツが1枚もなかったこと! ファッション雑誌に出てくるようなトレンディなTシャツも、アメリカンな香りの古着Tもほとんどなくて、かわりに登場するのは買うどころか貰っても微妙……というデザインばかり。

 でも、そういう「ダサT」が、こころをぐっとつかまれるような物語と合わさると、突然すばらしく輝いて見えてくる。そこにTシャツというものの魅力があるのだなと、いまごろになって気づいたのだった。

 とても高価なブランド物の新品Tシャツをファッションモデルが着てみせても、そこにはなんの物語も存在しない。とてもダサいTシャツを着たひとがいて、でもそのひとが語ってくれる人生や体験が最高に魅力的だったら、ダサいはずのTシャツだって最高にかっこよく見えてくる。

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