年末年始番組「コア視聴率」ベスト10。テレビ業界の現状が浮き彫りに

年末年始番組「コア視聴率」ベスト10。テレビ業界の現状が浮き彫りに

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◆年末年始番組をコア視聴率で切り取る

 年末・年始番組が終わった。民放各局が重視するコア視聴率を見ることで、テレビ界の現状の一端を浮かび上がらせたい。まず、ご存じの人も多いだろうが、各視聴率の説明をさせていただく。

■個人視聴率 現在の視聴率の標準。2000年3月末から全国で導入された。4歳以上の人のうち、どれくらいの人がその番組を観ていたかの割合を表す。

■コア視聴率 個人視聴率から13~49歳を切り取った数字。この年代は一般的に行動的で商品消費意欲も盛んなことから、数字が高いとスポンサーが歓迎する。

■世帯視聴率 何世帯でテレビを付けていたかの割合を表す。どんな人が観ていたのか分からず、5人家族で1人しか観ていなくてもカウントされてしまうため、スポンサー団体は1990年代から個人視聴率を導入するよう求めていた。

 さてプライム帯(19~23時)の年末・年始番組のコア視聴率ベストテンは次の通り(12月28日~1月3日の1週間、ビデオリサーチ調べ、関東地区)。

◆年末・年始番組の「コア視聴率」ベスト10

1 第73回NHK紅白歌合戦 第2部(NHK 12月31日21時00分〜23時45分) コア視聴率22・7% 26・0%(個人) 35・3%(世帯)

2 第73回NHK紅白歌合戦 第1部(NHK12月31日19時20分〜20時55分) コア視聴率19・3% 23・0%(個人) 31・3%(世帯)

3 芸能人格付けチェック! 2023お正月スペシャル(テレビ朝日 1月1日17時00分〜21時00分) コア視聴率8・8% 13・1%(個人) 19・6%(世帯)

4 ぐるぐるナインティナイン4時間半 後編(日本テレビ 12月29日21時55分~23時30分) コア視聴率7・4% 8・4%(個人) 13・5%(世帯)

5 アメトーーーーーーーーーーク年末5時間SP(テレビ朝日 12月30日18時00分~23時40分) コア視聴率7・3% 7・2%(個人) 10・6%(世帯)

6 月曜から夜ふかし元日SP2023(日本テレビ 1月1日21時00分~23時30分) コア視聴率6・8% 6・6%(個人) 10・0%(世帯)

7 とんねるずのスポーツ王は俺だ!! 5時間スペシャル(テレビ朝日 1月2日18時00分〜22時00分) コア視聴率6・2% 7・0%(個人) 10・7%(世帯)

8 輝く!日本レコード大賞(TBS 12月30日17時30分~22時00分) コア視聴率6・2% 7・0%(個人) 10・7%(世帯)

9 今年イチバン聴いた歌~年間ミュージックアワード2022(日本テレビ 12月28日19時~23時24分) コア視聴率6・1% 6・1%(個人) 9・6%(世帯)

10 VS魂 グラデーション 2023超豪華新春3時間SP(フジテレビ 1月3日18時00分~21時00分) コア視聴率5・8% 6・0%(個人) 11・3%(世帯)

◆紅白第2部はW杯の日本代表戦に迫る数字

 紅白の第2部のコア視聴率22・7%は現在の常識では驚異的といって良いほど高い。昨年1年間を通じてのコア視聴率ナンバーワンは同11月27日放送の『サッカーW杯 日本×コスタリカ』(テレビ朝日)の25.0%だが、それに迫った。同25日放送の『サッカーW杯 日本×コスタリカ』(NHK)のコア視聴率20.5%は超えた。

『紅白』はアンチも多いが、楽しみにしている人も多いことになる。この数字を見ると、いまだ国民的音楽番組と呼んで良い。民放の音楽番組を圧倒している。

 もちろん課題も数多い。『紅白』は1部も2部もコア視聴率と個人視聴率の差があまりない。これは50代以上の『紅白』離れを意味する。スポンサーが市民である公共放送なのだから、誉められた話ではない。

 昨年11月16日の出場者発表が影響したのは間違いない。韓国系アーチスト5組、ジャニーズ事務所勢が6組と明かされた時点で、50代以上の多くが猛反発した。自分たちの存在がないがしろにされたと考えた。それが数字で表れた。

 もっとも、その後になって50代以上も納得しそうな面々が特別企画で出ると発表された。加山雄三(85)、松任谷由実(68)、そして桑田佳祐(66)、佐野元春(66)、世良公則(67)、Char(67)、野口五郎(66)によるユニットなどである。『紅白』が特別企画での出場者を後出しジャンケン的に発表するのは毎年のことだ。

 だが、1度植え付けられた悪い印象は容易には拭えない。50代以上の多くは「若者限定の紅白になる」との思いを抱き続けていたのではないか。

 どうせ最初の出場者発表の時点で、特別企画で出る人も決まっているのだから(そうでないと全体の構成表も台本もつくれない)、1980年代までと同じく、すべてのアーチストを一度に発表したほうがいい。現状はただの話題づくりにしか見えない。

◆正反対の歌番組、軍配が上がったのは?

『レコード大賞』(TBS)のコア視聴率は『発表!今年イチバン聴いた歌』(日本テレビ)をかろうじて上回り、関係者は安堵したはず。『レコ大』は日本作曲家協会が主催し、音楽評論家や新聞の音楽記者たちの選考委員が受賞曲を選ぶ。片や『今年イチバン聴いた歌』はデータ主義。正反対の性格を持つ番組だからである。

『レコ大』は1959年の発足時から売り上げなどではなく、作品の質で決めることになっている。『レコ大』を売り上げで決めるようになったら、その時点で存在意義は消滅する。ヒットチャートの順番で賞を機械的に決めてしまえばいいからだ。

 一方、『今年イチバン聴いた歌』はデータ主義。サブスクで2022年に聴かれた曲を中心に構成された。『レコ大』のアンチテーゼとも言える。日テレは来年以降もこの番組を年の瀬に放送するようだ。

 これから先、視聴者はどちらの音楽番組に高い評価を与えるのか。音楽のプロによる選考か、データか。興味深い。

◆GACKTの連勝記録が強みの格付けチェック

『芸能人格付けチェック!』は相変わらず強い。正月は家族や友人と一緒にテレビを観る機会が増えるが、そんなときに観るのに向いているところも高視聴率に結びついている。少しくらい雑談しながら観ても置いてけぼりを食わない内容だからである。ドラマやお笑いのネタが披露されるバラエティでは、そうはいかない。

 GACKTの連勝も金看板と化した。半面、連勝が71にまで伸びたので、かつての白鵬(37)の63連勝時などと同じく、「勝ち続けて欲しい気持ちもあるが、そろそろ負けるところも観たい」という微妙な状態になってきた。番組側には「GACKTを本気で倒そうしているのか」というプレッシャーがかかり始めるだろう。

 ほかに『とんねるずのスポーツ王』(テレ朝)と『アメトーーク!SP』(同)、『ぐるナイSP』(日テレ)、『月曜から夜ふかしSP』(同)、『VS魂SP』(フジテレビ)がベストテン入り。 ここで気づく。年末・年始で高いコア視聴率を得たのは毎年おなじみの定番番組と人気レギュラー番組の拡大版ばかりなのだ。

 慣れ親しんだ番組を観たいからか、それしか観るものがないからか。おそらく、どちらも当てはまる。後者のほうが強いのではないだろうか。

 はっきり言えるのは「衝撃映像」を売り物にする番組と「クイズ」の衰退。どの番組も惨敗か低調だった。

「衝撃映像」は似たような映像が多いし、どんな状況で撮られた映像なのか背景が分からないこともマイナス。海外映像はやらせかどうか確認できない。「クイズ」はやり過ぎに尽きる。

◆大晦日の民放各局の視聴率は?

 次に『紅白』以外の12月31日のコア視聴率と個人視聴率を並べたい。主な番組に絞る。

■日本テレビ『笑って年越し!世代対決 昭和芸人 vs 平成・令和芸人 前編』(18時~21時)コア5・1%、個人4・7%。『同 後編』(21時~24時30分)コア3・7%、個人2・3%。

■テレビ朝日『ザワつく!大晦日 一茂良純ちさ子の会1部』(18時~20時)コア2・1%、個人6・9%。『同 2部』(20時~23時)コア2・1%、個人6・0%。

■TBS『THE鬼タイジ 大晦日決戦〜鬼と氷の女王』18時~23時45分)コア1・9%、個人1・8%。

■テレビ東京『第55回年忘れにっぽんの歌』(16時~22時)コア0・5%、個人3・7%。『孤独のグルメ2022大晦日SP』(22時~23時30分)
コア2・0%、個人3・4%。

■フジテレビ『逃走中~大みそかSPお台場大決戦!』(17時~23時45分)コア3・8%、個人3・2%。

『ザワつく!金曜日』の40代以下が低いものの、これはレギュラー版の傾向と一致する。この番組は50代以上に強い。メインの長嶋一茂(56)、石原良純(60)、高嶋ちさ子(54)が50代なのだから、当然そうなる。

◆元日は強いレギュラー番組が安定した数字

 次に元日。これも民放の主な番組に限定する。

■日本テレビ『ザ!鉄腕!元日!DASH!!』(18時~21時)コア4・1%、個人5・5%。『月曜から夜ふかし~2023元日スペシャル~』(21時~11時30分)コア6・8%、個人6・6%。

■TBS『ジョブチューン 元日ジャッジSP!』(17時~21時)コア3・5%、個人3・7%。『笑いの王者が大集結!ドリーム東西ネタ合戦2023』(21時~24時15分)コア4・5%、個人4・7%。

■テレビ朝日『芸能人格付けチェック』(17時~21時)コア8・8%、個人13・1%。『相棒season21元日SP』(21時~23時15分)コア3・2%、個人8・1%。

■テレビ東京『THEカラオケ・バトル新春SP』(17時55分~22時)コア1・2%、個人3・0%。『ものまね芸人216人がガチで選んだいま本当にスゴい!ものまねランキング2023』(22時~24時) コア1・2%、個人1・8%

■フジテレビ『ドリフに大挑戦!あけましていい正月だなSP』(17時~21時)コア3・0%、個人3・6%。『有吉の冬休み2023 密着77時間in沖縄』(21時~23時30分)コア3・3%、個人2・9%。

 やっぱり定番番組かレギュラー番組の拡大版ばかり。どちらも視聴率の底が読めるから局もスポンサーも不安が少ないのだろう。テレビ界の高度成長期は終わっているので、この傾向は今後も続くに違いない。強い定番番組、レギュラー番組を持つ局が年末・年始も勝つ。

<文/高堀冬彦>

【高堀冬彦】
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞東京本社での文化社会部記者、専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」での記者、編集次長などを経て2019年に独立

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