日本でも人気急上昇のNewJeans、「グレーゾーン」な歌詞が呼んだ波紋
2023年01月27日 08時52分SPA!

「NewJeans」オフィシャルサイトより
◆人気急上昇グループの歌詞に波紋
昨年7月22日にMV「Attention」を公開し、韓国でデビューした5人組ガールズグループ、NewJeans(ニュージーンズ)。日本でも昨年12月28日に日本テレビ系の音楽特番で同曲を披露し、1stシングル「OMG」はオリコンチャートで初登場1位を獲得。雑誌『SPUR』(集英社 1月23日発売)の表紙も飾るなど、今年大ブレイク間違いなしのニュースターです。
ところが、そんな彼女たちにある“疑惑”が浮上しています。昨年8月1日にMVが公開された「Cookie」の歌詞が性的な意味なのではないかと海外のファンが指摘しているのです。実際に動画の翻訳字幕を見ると、かなりあけすけな内容にドキッとさせられます。
<私が作ったクッキー やわらかすぎる?>
<やっぱり香りから違う?> <一口じゃ足りない?>
<私が作ったクッキー うちにだけある遊びにおいで> などなど。
Cookieがスラングで性器をあらわす場合もあることからこれらの表現が憶測を呼び、所属事務所のADORが声明を発表する事態にまで発展しました。
◆事務所の主張はCookie=CDとのことだが…
ADORの主張は以下の通り。
“CDを焼く”=“クッキーを焼く”というコンセプトで楽曲タイトルをつけたこと、さらにCookieを性的な意味で用いることは当たり前とまでは言えないとの専門家やネイティブスピーカーの意見がほとんどであったこと。
以上からNewJeansの「Cookie」は健全なコンテンツであるとの認識を示しています。
所属事務所による公式な見解が発表されたのであれば、それが楽曲に対する正式な解釈ということになります。
◆実際は「ほぼクロ」のグレーゾーン?
ただし、そうは言ってもエンターテイメントの世界。額面通りに受け取るわけにもいきません。作品は雄弁です。艶めかしい振り付けやアンニュイでうつろなボーカル、シックで大人っぽい衣装などを総合した暗喩の娯楽として見れば、やはりそこにギリギリのラインを狙った企みがあったのではないかと感じるのですね。
実際、現役の通訳であるキム・テフン氏は自身で作成した動画でこう語っています。
「曲に出てくる歌詞の“cookie”は、女性の性器を意味している。これは真実だ。英語を楽に話せる人にこの曲を聞かせて、扇情的かどうかを尋ねたら、100人なら100人が扇情的だと言うだろう」(韓国情報サイト『Danmee』2022年8月26日)
こうした指摘からも、「Cookie」がほぼクロのグレーゾーンに踏み込むことで話題性を生んだ背景が理解できるのではないでしょうか。
◆「全員10代のメンバーに歌わせる」倫理的な問題
さて、問題は本格的に日本で活動した場合です。「Cookie」の日本語訳が表示されたとき、視聴者はどのような反応を示すでしょうか? 裏の意味を知らなかったとしても、<香りから違う?>とか<一口じゃ足りない?>というテロップが出れば、大体はそういうことなのだろうと理解するはずです。
さらに海外での議論でもあったように、NewJeansのメンバーが全員10代であることも問題だと考える人たちも出てくるでしょう。
たとえばケイティ・ペリーの「Birthday」も恋人の誕生日を祝う内容に性行為をほのめかす隠喩を仕込んであります。“でっかい風船を持ってきて!”(<It’s time to bring out the big baloon>)はコンドームのことですし、<birthday suit>は生まれたときに着ていたもの、つまり裸のことですね。
しかし、この曲を歌ったときケイティ・ペリーは20代後半でした。自分の考えていること、やっていることをはっきりと理解できる年齢です。
一方「Cookie」を歌うNewJeansはみんな10代。中には14歳のメンバーもいます。こうした点が倫理的な面から批判される恐れがあります。
◆無視できない「楽曲の卓越性」
けれども、だからといって「Cookie」をすべて否定しなければならないかと言われると、そこはキッパリとNOを突きつけたい。音楽として圧倒的に素晴らしいからです。
使う音やフレーズを極限まで絞ることで、曲を特徴づける要素が明確になっている。引き算、割り算の発想なのですね。やたらめったらアイデアを詰め込まないのでサウンドに空間ができる。それゆえムダに張り上げなくても声が伝わる。全体のボリュームを落とすことで親密さが生まれるのです。
そしてゆったりと歌う部分、細かい符割で半分ラップのように攻め込む部分、ここのつなぎ目をほとんど感じさせないところが圧巻です。シームレスで流れ行くような軽さで、一生懸命作った雰囲気を感じさせません。
米紙『New York Times』による2022年のベストソングで11位に選んだジョン・カラマニカ氏も「派手ではない穏やかさが良い」(『THE F1RST TIMES』2022年12月10日) と評していました。
「Cookie」はそれぐらい素晴らしい曲なのです。“またK-POPのゴリ押しかよ”と嘆く人にこそ是非聞いてほしい。このようなエレガンスが長らく日本の音楽シーンから失われていると感じるからこそ、多くを学べると思います。
◆危うい隠喩なしにシックなサウンドはあり得たか?
そのうえで、歌詞を含めたトータルの表現については別個に考えていく必要がある。これも確かなことです。
危うい隠喩なしにシックなサウンドはあり得たのだろうか? その点については筆者の宿題にしたいと思います。
議論を喚起するパワーとデザイン性に優れた音楽。
いずれにせよ、NewJeansは大きなインパクトを与えているのです。
文/石黒隆之
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4
昨年7月22日にMV「Attention」を公開し、韓国でデビューした5人組ガールズグループ、NewJeans(ニュージーンズ)。日本でも昨年12月28日に日本テレビ系の音楽特番で同曲を披露し、1stシングル「OMG」はオリコンチャートで初登場1位を獲得。雑誌『SPUR』(集英社 1月23日発売)の表紙も飾るなど、今年大ブレイク間違いなしのニュースターです。
ところが、そんな彼女たちにある“疑惑”が浮上しています。昨年8月1日にMVが公開された「Cookie」の歌詞が性的な意味なのではないかと海外のファンが指摘しているのです。実際に動画の翻訳字幕を見ると、かなりあけすけな内容にドキッとさせられます。
<私が作ったクッキー やわらかすぎる?>
<やっぱり香りから違う?> <一口じゃ足りない?>
<私が作ったクッキー うちにだけある遊びにおいで> などなど。
Cookieがスラングで性器をあらわす場合もあることからこれらの表現が憶測を呼び、所属事務所のADORが声明を発表する事態にまで発展しました。
◆事務所の主張はCookie=CDとのことだが…
ADORの主張は以下の通り。
“CDを焼く”=“クッキーを焼く”というコンセプトで楽曲タイトルをつけたこと、さらにCookieを性的な意味で用いることは当たり前とまでは言えないとの専門家やネイティブスピーカーの意見がほとんどであったこと。
以上からNewJeansの「Cookie」は健全なコンテンツであるとの認識を示しています。
所属事務所による公式な見解が発表されたのであれば、それが楽曲に対する正式な解釈ということになります。
◆実際は「ほぼクロ」のグレーゾーン?
ただし、そうは言ってもエンターテイメントの世界。額面通りに受け取るわけにもいきません。作品は雄弁です。艶めかしい振り付けやアンニュイでうつろなボーカル、シックで大人っぽい衣装などを総合した暗喩の娯楽として見れば、やはりそこにギリギリのラインを狙った企みがあったのではないかと感じるのですね。
実際、現役の通訳であるキム・テフン氏は自身で作成した動画でこう語っています。
「曲に出てくる歌詞の“cookie”は、女性の性器を意味している。これは真実だ。英語を楽に話せる人にこの曲を聞かせて、扇情的かどうかを尋ねたら、100人なら100人が扇情的だと言うだろう」(韓国情報サイト『Danmee』2022年8月26日)
こうした指摘からも、「Cookie」がほぼクロのグレーゾーンに踏み込むことで話題性を生んだ背景が理解できるのではないでしょうか。
◆「全員10代のメンバーに歌わせる」倫理的な問題
さて、問題は本格的に日本で活動した場合です。「Cookie」の日本語訳が表示されたとき、視聴者はどのような反応を示すでしょうか? 裏の意味を知らなかったとしても、<香りから違う?>とか<一口じゃ足りない?>というテロップが出れば、大体はそういうことなのだろうと理解するはずです。
さらに海外での議論でもあったように、NewJeansのメンバーが全員10代であることも問題だと考える人たちも出てくるでしょう。
たとえばケイティ・ペリーの「Birthday」も恋人の誕生日を祝う内容に性行為をほのめかす隠喩を仕込んであります。“でっかい風船を持ってきて!”(<It’s time to bring out the big baloon>)はコンドームのことですし、<birthday suit>は生まれたときに着ていたもの、つまり裸のことですね。
しかし、この曲を歌ったときケイティ・ペリーは20代後半でした。自分の考えていること、やっていることをはっきりと理解できる年齢です。
一方「Cookie」を歌うNewJeansはみんな10代。中には14歳のメンバーもいます。こうした点が倫理的な面から批判される恐れがあります。
◆無視できない「楽曲の卓越性」
けれども、だからといって「Cookie」をすべて否定しなければならないかと言われると、そこはキッパリとNOを突きつけたい。音楽として圧倒的に素晴らしいからです。
使う音やフレーズを極限まで絞ることで、曲を特徴づける要素が明確になっている。引き算、割り算の発想なのですね。やたらめったらアイデアを詰め込まないのでサウンドに空間ができる。それゆえムダに張り上げなくても声が伝わる。全体のボリュームを落とすことで親密さが生まれるのです。
そしてゆったりと歌う部分、細かい符割で半分ラップのように攻め込む部分、ここのつなぎ目をほとんど感じさせないところが圧巻です。シームレスで流れ行くような軽さで、一生懸命作った雰囲気を感じさせません。
米紙『New York Times』による2022年のベストソングで11位に選んだジョン・カラマニカ氏も「派手ではない穏やかさが良い」(『THE F1RST TIMES』2022年12月10日) と評していました。
「Cookie」はそれぐらい素晴らしい曲なのです。“またK-POPのゴリ押しかよ”と嘆く人にこそ是非聞いてほしい。このようなエレガンスが長らく日本の音楽シーンから失われていると感じるからこそ、多くを学べると思います。
◆危うい隠喩なしにシックなサウンドはあり得たか?
そのうえで、歌詞を含めたトータルの表現については別個に考えていく必要がある。これも確かなことです。
危うい隠喩なしにシックなサウンドはあり得たのだろうか? その点については筆者の宿題にしたいと思います。
議論を喚起するパワーとデザイン性に優れた音楽。
いずれにせよ、NewJeansは大きなインパクトを与えているのです。
文/石黒隆之
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4
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