「会社をすぐ辞める20代」に共通する、キャリア志向よりも強い“お客様感覚”
2023年01月28日 08時52分SPA!

※写真はイメージです
◆なぜ若者は“ホワイト企業”を去るのか
「職場がホワイトすぎて辞めたい、と仕事の“ゆるさ”に失望して離職する若手社会人が増えている」という日経新聞の記事が大きな反響を集めた。以前から「若者がホワイトすぎて辞める」ということは指摘されていたが、果たしてどうなのか。
パーソルが20代社員を対象にした調査結果によると、仕事選びの重視点として「色々な知識やスキルが得られること」が最も高く、そのうえ上昇傾向にある。一方で「休みが取れる/取りやすいこと」「仕事とプライベートのバランスがとれること」は減少した。この調査結果を鑑みると、若者がホワイトな職場を去るのは眉唾ではないかもしれない。
それではなぜ若者は厳しさや成長を求めるようになったのだろうか。『先生、どうか皆の前でほめないで下さい: いい子症候群の若者たち』(東洋経済新報社)の著者であり、金沢大学融合研究域融合科学系教授の金間大介氏に話を聞いた。
◆コスパ・タイパにこだわる若者
なぜ仕事に意欲的になったのか聞くと、「そもそも、パーソル総合研究所の調査では『上の年代と比べ、従来の企業従属型ではなく主体的なキャリア形成を目指す価値観を身に付けている』と解釈していますが、やや早計です。それならば、もっとチャレンジ精神を持った若者が世に溢れているべきですが、実際に『やる気に満ち溢れている若者は増えたな』と感じている人は少ないのではないでしょうか」とまず矛盾点を指摘。
そして、ホワイトな職場を去るようになった経緯について、「知識やスキル、能力の取得に対する“ファスト化”にあると思います」と今の若者の価値観から解説する。
「2022年9月に『ファスト教養:10分で答えが欲しい人たち』(集英社)という本が出て、若者を中心とした教養の取得に対するファスト化が話題になりました。簡単に言うと、『手っ取り早く仕事に役立つ教養を身に付けたい』という若者の増加を主張しているのですが、僕も全く同感です。
入門書や専門書を何冊も読んだり、大学の講義に参加したりすることはコスパが悪い。しかし、『〇分でわかる□△解説』といった動画は多いですし、『詳しい人にさっと教えてもらえれば十分』という考えが強くなっています。いわゆるコスパやタイパを計算した行動が目に付くようになりました。僕はファスト化の対象は教養だけではなく、スキルや能力にまで及んでいると考えています」
◆若者は効率的かつ即効性の高いものを求める傾向に
どうやら最近の若者は効率を求める心理が顕著らしく、「ネットには『〇〇を身につけて転職に成功!』といった情報は多いです。こういった情報を鵜呑みにして、『この資格を取れば、できる仕事が増える、給与アップや労働環境の改善につながる』と考える学生は一定数存在します。とはいえ、すぐに給与アップにつながるような資格は難易度が高く、ほんの一部にすぎないのですが……」と話した。コスパやタイパへの意識が高すぎるあまり、効率的かつ即効性の高いものを求める傾向があるようだ。
◆“会社は自分を成長させてくれるもの”という価値観が蔓延
また、若者の特徴的な価値観として、「今の若者は『スキル向上の機会は会社や上司が用意すべきもの』と捉え、それらを用意せずにこき使う職場を“ブラック”、逆に仕事量が少なく、新たに身に付く機会を与えない職場を“ゆるブラック”と評します」と説明。どこかお客様感覚の強さを感じるが、その背景として「大学が影響している可能性が考えられます」と話す。
「昨今、シラバス(学期が始まる前に学生に公開する講義概要)には、『この講義で身に付くこと』『この演習で得られるスキルなど』といった項目が加わるようになってきました。現職の大学教員が言うことではありませんが、たかが1単位や2単位の講義で得られるものなど知れています。
にもかかわらず、そういったことを学生に提示することが、大学としての職務と考えるようになりました。そのこと自体を『悪いこと』と捉える人は少ないと思います。しかし、結果的には『学生は大学や会社などのシステム側は自分に何を与えてくれるか』という視点を強くしているのではないでしょうか」
効率良くスキルが獲得できないこと、上司や会社が成長の機会を与えないことなどに対する焦燥感から、ホワイトな職場を去ってしまうのだろう。
◆上司や先輩の正しい接し方とは
若者はやる気があるのではなく、「コスパの良い成長の機会を与えられたら頑張ります」という、向上心がありながらも後ろ向きな姿勢が強いことがわかった。一筋縄ではいかなそうではあるが、上司や先輩としてはどのように接すと良いのだろうか。
「『無理しないでね』『今日はもういいよ』といった気遣いは大切です。しかし、この姿勢が続くと『本当はこういうことがやりたいのに』と思っていても、そのことを言い出す機会を失い、“ゆるブラック”認定されて会社を去ってしまうかもしれません。おそらく、こういった意欲のある若者こそ、本来であれば最も辞めてほしくないはず。
時には、優しく接するだけではなく、仕事への思いとか、『今日はちょっと残業してくよ。来年までにやってみたいことがあって』といったことをさりげなく語ってみると良いかもしれません」
後輩の指導には優しくしつつも厳しくすることが求められるようになった。まずは若者の心理や価値観を知っておく必要がある。
取材・文/望月悠木
【望月悠木】
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki
「職場がホワイトすぎて辞めたい、と仕事の“ゆるさ”に失望して離職する若手社会人が増えている」という日経新聞の記事が大きな反響を集めた。以前から「若者がホワイトすぎて辞める」ということは指摘されていたが、果たしてどうなのか。
パーソルが20代社員を対象にした調査結果によると、仕事選びの重視点として「色々な知識やスキルが得られること」が最も高く、そのうえ上昇傾向にある。一方で「休みが取れる/取りやすいこと」「仕事とプライベートのバランスがとれること」は減少した。この調査結果を鑑みると、若者がホワイトな職場を去るのは眉唾ではないかもしれない。
それではなぜ若者は厳しさや成長を求めるようになったのだろうか。『先生、どうか皆の前でほめないで下さい: いい子症候群の若者たち』(東洋経済新報社)の著者であり、金沢大学融合研究域融合科学系教授の金間大介氏に話を聞いた。
◆コスパ・タイパにこだわる若者
なぜ仕事に意欲的になったのか聞くと、「そもそも、パーソル総合研究所の調査では『上の年代と比べ、従来の企業従属型ではなく主体的なキャリア形成を目指す価値観を身に付けている』と解釈していますが、やや早計です。それならば、もっとチャレンジ精神を持った若者が世に溢れているべきですが、実際に『やる気に満ち溢れている若者は増えたな』と感じている人は少ないのではないでしょうか」とまず矛盾点を指摘。
そして、ホワイトな職場を去るようになった経緯について、「知識やスキル、能力の取得に対する“ファスト化”にあると思います」と今の若者の価値観から解説する。
「2022年9月に『ファスト教養:10分で答えが欲しい人たち』(集英社)という本が出て、若者を中心とした教養の取得に対するファスト化が話題になりました。簡単に言うと、『手っ取り早く仕事に役立つ教養を身に付けたい』という若者の増加を主張しているのですが、僕も全く同感です。
入門書や専門書を何冊も読んだり、大学の講義に参加したりすることはコスパが悪い。しかし、『〇分でわかる□△解説』といった動画は多いですし、『詳しい人にさっと教えてもらえれば十分』という考えが強くなっています。いわゆるコスパやタイパを計算した行動が目に付くようになりました。僕はファスト化の対象は教養だけではなく、スキルや能力にまで及んでいると考えています」
◆若者は効率的かつ即効性の高いものを求める傾向に
どうやら最近の若者は効率を求める心理が顕著らしく、「ネットには『〇〇を身につけて転職に成功!』といった情報は多いです。こういった情報を鵜呑みにして、『この資格を取れば、できる仕事が増える、給与アップや労働環境の改善につながる』と考える学生は一定数存在します。とはいえ、すぐに給与アップにつながるような資格は難易度が高く、ほんの一部にすぎないのですが……」と話した。コスパやタイパへの意識が高すぎるあまり、効率的かつ即効性の高いものを求める傾向があるようだ。
◆“会社は自分を成長させてくれるもの”という価値観が蔓延
また、若者の特徴的な価値観として、「今の若者は『スキル向上の機会は会社や上司が用意すべきもの』と捉え、それらを用意せずにこき使う職場を“ブラック”、逆に仕事量が少なく、新たに身に付く機会を与えない職場を“ゆるブラック”と評します」と説明。どこかお客様感覚の強さを感じるが、その背景として「大学が影響している可能性が考えられます」と話す。
「昨今、シラバス(学期が始まる前に学生に公開する講義概要)には、『この講義で身に付くこと』『この演習で得られるスキルなど』といった項目が加わるようになってきました。現職の大学教員が言うことではありませんが、たかが1単位や2単位の講義で得られるものなど知れています。
にもかかわらず、そういったことを学生に提示することが、大学としての職務と考えるようになりました。そのこと自体を『悪いこと』と捉える人は少ないと思います。しかし、結果的には『学生は大学や会社などのシステム側は自分に何を与えてくれるか』という視点を強くしているのではないでしょうか」
効率良くスキルが獲得できないこと、上司や会社が成長の機会を与えないことなどに対する焦燥感から、ホワイトな職場を去ってしまうのだろう。
◆上司や先輩の正しい接し方とは
若者はやる気があるのではなく、「コスパの良い成長の機会を与えられたら頑張ります」という、向上心がありながらも後ろ向きな姿勢が強いことがわかった。一筋縄ではいかなそうではあるが、上司や先輩としてはどのように接すと良いのだろうか。
「『無理しないでね』『今日はもういいよ』といった気遣いは大切です。しかし、この姿勢が続くと『本当はこういうことがやりたいのに』と思っていても、そのことを言い出す機会を失い、“ゆるブラック”認定されて会社を去ってしまうかもしれません。おそらく、こういった意欲のある若者こそ、本来であれば最も辞めてほしくないはず。
時には、優しく接するだけではなく、仕事への思いとか、『今日はちょっと残業してくよ。来年までにやってみたいことがあって』といったことをさりげなく語ってみると良いかもしれません」
後輩の指導には優しくしつつも厳しくすることが求められるようになった。まずは若者の心理や価値観を知っておく必要がある。
取材・文/望月悠木
【望月悠木】
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki
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