パルコが地方都市から次々と撤退。“若者の消費”を支えたバブル期から40年
2023年03月15日 08時52分SPA!

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パルコが相次いで地方都市から撤退しています。2019年5月31日に宇都宮、2020年2月29日に熊本、2023年2月28日に津田沼の店舗を閉鎖しました。2024年2月29日には新所沢、2025年2月に松本からの撤退を計画しています。
パルコが撤退する要因は大きく2つあります。1つは集客に苦戦していること。もう1つは建物の老朽化が進み、大規模な修繕費の捻出が困難なことです。コミュニティ型のパルコは地方都市の集客装置として機能し、その場所を中心として周辺の施設や店舗の消費が促進されていました。地方都市の消費スタイルが変化しようとしています。
◆営業収益は2019年度の7割ほど
パルコは大丸松坂屋百貨店を運営するJ.フロントリテイリングが、2020年2月に公開買付を実施し、完全子会社化しました。パルコは上場廃止となり、現在はJ.フロントリテイリングの傘下にあります。
パルコの2021年度の営業収益は前期比17.4%増の574億8800万円。営業収益はコロナ禍から回復しているように見えますが、2019年度と比較すると7割の水準に留まっています。
旗艦店である渋谷パルコの修繕工事を行うため、2016年8月7日に一時閉店。2019年11月22日にリニューアルオープンしました。パルコとしては珍しく、グッチやロエベなどのハイブランドのテナントが入居しました。
リニューアルオープンの影響で2019年度の営業収益は大幅に伸張しましたが、新型コロナウイルス感染拡大と緊急事態宣言の発令で外出や営業時間に制限が課されます。2020年度の営業収益は急激に縮小しました。
◆都市型とコミュニティ型で集客力が…
パルコには2つのタイプが存在します。都市型とコミュニティ型です。大都市圏と地方都市でターゲットやニーズは異なります。その場所に相応しい店舗を展開するため、2種類に分割しました。
都市型とコミュニティ型のテナント取扱高を比較すると、集客力の違いがよくわかります。都市型の2021年度の平均取扱高は128億6100万円。コミュニティ型は68億8900万円でした。
◆コロナ前もテナントの取扱高は100億円に届かず
コロナ前の平均を見ても、コミュニティ型は100億円に届いていません。パルコの従業員数は2019年度の634人から2021年度に691人へと増加しています。経営資源を集客力が強く、取扱高の多い店舗に集中しようと考えるのは当然でしょう。
建物の老朽化も頭の痛い問題です。新所沢店のオープンは1983年6月、津田沼が1977年7月、松本が1984年8月です。
パルコは実業家・堤清二氏が率いる西武グループの一角として各都市に出店した経緯があります。バブル絶頂期の若者の消費を支え、映画や劇場を併設して文化の発信拠点としても機能しました。全国へと拡大したパルコも40年近い年月が経過し、リニューアルを行う時期がやってきました。2019年11月にリニューアルオープンした渋谷パルコは、214億円が投じられています。コミュニティ型パルコの収益性を鑑みると、大型の投資に見合うものではありません。
◆新所沢パルコの跡地は高層マンション?
地方都市からのパルコの撤退に戸惑う声は絶えません。所沢市は新所沢駅周辺の商業振興などに関する調査・研究を行うための「新所沢駅周辺まちづくり特別委員会」を設置しています。新所沢パルコの閉鎖が決定した後は、対象エリアの将来像についての議論が加速しています。
2022年11月21日に行われた委員会会議において、藤本正人所沢市長は「所沢市としてはパルコが撤退するという話を伺い、撤退しないでほしいという活動をしてきました。文書でも要望を行いましたが、住民もパルコ撤退を前提とした運動ではなく、撤退しないでほしいという消費者運動を巻き起こしていただければと思っていましたし、そのように働きかけた部分もあります」と話しています(新所沢駅周辺まちづくり特別委員会会議記録(概要)より抜粋)。
しかし、パルコは撤退が決定してしまいます。それを市長は認めた上で、新所沢が文化的でおしゃれな街であり続けるためにできることをやるとしています。このような発言からも、所沢市がパルコを重要な消費の中心地として捉え、若者を集める集客装置だと認めていることがわかります。
議事録によると、パルコの執行役員は閉鎖後の跡地利用について、高層マンションを建てるという構想を話しました。しかし、所沢市はこれに反対。商業施設には商業が必要であるとの考えを伝えています。新所沢店の跡地利用の青写真は未だ描けていません。
◆跡地利用が進まない宇都宮パルコ
2019年に閉店した宇都宮パルコは建物が解体されないまま、現在も残っています。宇都宮パルコの裏手にはオリオン通り商店街があり、周辺の店舗にも経済効果を与えていました。かつては109もあり、賑わいの創出に一役買っていましたが、2005年に閉店しています。現在はオリオン通り周辺に若者を集める目立った施設はありません。
宇都宮パルコは建物の再利用が求められていますが、形状が特殊なことなどから、計画は進んでいません。パルコ以外のファッションビルや百貨店も、集客に苦戦しているところは少なくありません。今後は地方都市の不採算店を中心に閉鎖する動きは加速する可能性があります。
<TEXT/中小企業コンサルタント 不破聡>
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
パルコが撤退する要因は大きく2つあります。1つは集客に苦戦していること。もう1つは建物の老朽化が進み、大規模な修繕費の捻出が困難なことです。コミュニティ型のパルコは地方都市の集客装置として機能し、その場所を中心として周辺の施設や店舗の消費が促進されていました。地方都市の消費スタイルが変化しようとしています。
◆営業収益は2019年度の7割ほど
パルコは大丸松坂屋百貨店を運営するJ.フロントリテイリングが、2020年2月に公開買付を実施し、完全子会社化しました。パルコは上場廃止となり、現在はJ.フロントリテイリングの傘下にあります。
パルコの2021年度の営業収益は前期比17.4%増の574億8800万円。営業収益はコロナ禍から回復しているように見えますが、2019年度と比較すると7割の水準に留まっています。
旗艦店である渋谷パルコの修繕工事を行うため、2016年8月7日に一時閉店。2019年11月22日にリニューアルオープンしました。パルコとしては珍しく、グッチやロエベなどのハイブランドのテナントが入居しました。
リニューアルオープンの影響で2019年度の営業収益は大幅に伸張しましたが、新型コロナウイルス感染拡大と緊急事態宣言の発令で外出や営業時間に制限が課されます。2020年度の営業収益は急激に縮小しました。
◆都市型とコミュニティ型で集客力が…
パルコには2つのタイプが存在します。都市型とコミュニティ型です。大都市圏と地方都市でターゲットやニーズは異なります。その場所に相応しい店舗を展開するため、2種類に分割しました。
都市型とコミュニティ型のテナント取扱高を比較すると、集客力の違いがよくわかります。都市型の2021年度の平均取扱高は128億6100万円。コミュニティ型は68億8900万円でした。
◆コロナ前もテナントの取扱高は100億円に届かず
コロナ前の平均を見ても、コミュニティ型は100億円に届いていません。パルコの従業員数は2019年度の634人から2021年度に691人へと増加しています。経営資源を集客力が強く、取扱高の多い店舗に集中しようと考えるのは当然でしょう。
建物の老朽化も頭の痛い問題です。新所沢店のオープンは1983年6月、津田沼が1977年7月、松本が1984年8月です。
パルコは実業家・堤清二氏が率いる西武グループの一角として各都市に出店した経緯があります。バブル絶頂期の若者の消費を支え、映画や劇場を併設して文化の発信拠点としても機能しました。全国へと拡大したパルコも40年近い年月が経過し、リニューアルを行う時期がやってきました。2019年11月にリニューアルオープンした渋谷パルコは、214億円が投じられています。コミュニティ型パルコの収益性を鑑みると、大型の投資に見合うものではありません。
◆新所沢パルコの跡地は高層マンション?
地方都市からのパルコの撤退に戸惑う声は絶えません。所沢市は新所沢駅周辺の商業振興などに関する調査・研究を行うための「新所沢駅周辺まちづくり特別委員会」を設置しています。新所沢パルコの閉鎖が決定した後は、対象エリアの将来像についての議論が加速しています。
2022年11月21日に行われた委員会会議において、藤本正人所沢市長は「所沢市としてはパルコが撤退するという話を伺い、撤退しないでほしいという活動をしてきました。文書でも要望を行いましたが、住民もパルコ撤退を前提とした運動ではなく、撤退しないでほしいという消費者運動を巻き起こしていただければと思っていましたし、そのように働きかけた部分もあります」と話しています(新所沢駅周辺まちづくり特別委員会会議記録(概要)より抜粋)。
しかし、パルコは撤退が決定してしまいます。それを市長は認めた上で、新所沢が文化的でおしゃれな街であり続けるためにできることをやるとしています。このような発言からも、所沢市がパルコを重要な消費の中心地として捉え、若者を集める集客装置だと認めていることがわかります。
議事録によると、パルコの執行役員は閉鎖後の跡地利用について、高層マンションを建てるという構想を話しました。しかし、所沢市はこれに反対。商業施設には商業が必要であるとの考えを伝えています。新所沢店の跡地利用の青写真は未だ描けていません。
◆跡地利用が進まない宇都宮パルコ
2019年に閉店した宇都宮パルコは建物が解体されないまま、現在も残っています。宇都宮パルコの裏手にはオリオン通り商店街があり、周辺の店舗にも経済効果を与えていました。かつては109もあり、賑わいの創出に一役買っていましたが、2005年に閉店しています。現在はオリオン通り周辺に若者を集める目立った施設はありません。
宇都宮パルコは建物の再利用が求められていますが、形状が特殊なことなどから、計画は進んでいません。パルコ以外のファッションビルや百貨店も、集客に苦戦しているところは少なくありません。今後は地方都市の不採算店を中心に閉鎖する動きは加速する可能性があります。
<TEXT/中小企業コンサルタント 不破聡>
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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