森保監督の続投は正解だったのか。継続路線に見る「説得力のある主張」

森保監督の続投は正解だったのか。継続路線に見る「説得力のある主張」

所属クラブで好調を維持する三笘(写真中央)

日本中が2023ワールド・ベースボール・クラッシック優勝の余韻に浸り、侍JAPANフィーバーに沸くなか、森保一監督率いるSAMURAI BLUEは、2026年に開催されるFIFAワールドカップに向け、新たに船出する。3月24日(金)にはウルグアイ代表と、28日(火)にはコロンビア代表と対戦。どちらも南米の強豪国で、カタール大会でできたこと、できなかったことをおさらいするには格好の相手と言える。果たして、新生森保ジャパンはどのような戦いを見せてくれるのだろうか。
◆ベテランに代わって若手を招集

 今回のウルグアイ戦、コロンビア戦に向けて招集された日本代表のメンバーは、カタール大会のメンバーを主としている。そのなかで吉田麻也(シャルケ)、長友佑都(FC東京)、酒井宏樹(浦和レッズ)といった前々回のロシア大会からメンバー入りするベテラン勢には、一旦お休みしてもらったという選考になった。その枠に中村敬斗(LASKリンツ)、半田陸(ガンバ大阪)、バングーナガンデ佳史扶(FC東京)らの初選出組など若手選手が招集されている。

 こういったメンバーを招集した森保監督は、基本的なチームのコンセプトはカタール大会と変わりなく進め、その質を上げていくことを目指すようだ。メンバー発表会見の席で、「ロシアからカタールの4年間で培ってきたこと、攻撃、守備すべてにレベルアップしなければならない」と述べた森保監督は、まず選手個々の成長を促していくことになるだろう。また、ワールドカップで勝つための基準を「世界のトップを基準」と定めることを同時に宣言した。

◆継続路線でさらなるレベルアップを

 そう定めたなかで、新生日本代表はどのような戦いを見せてくれるのだろうか。それについても森保監督は「良い守備から良い攻撃につなげていくこと」と、具体的に言及している。これについては4年前の就任当初から言い続けていることで、今後も継続してトライしてクオリティを上げていくことになる。

「カタールのワールドカップではカウンターが相手の嫌がるカウンター攻撃ができたと思いますが、ボールを握った際にもっと相手が嫌がる攻撃ができるという場面のクオリティを上げていかなければならない」

 カタール大会までの反省を踏まえて、今後は自分たちがボールを支配したときにおける“攻撃の質向上”に取り組むという意気込みを語っている。加えて、「速攻から遅攻に移るときのプレス回避からどうやってプレーするかというところ」を課題として挙げている。

◆世界で戦うために必要な「使い分け」

 また、守備に関しては「使い分け」が必要と主張している。

「ワールドカップで勝っていくために、日本が日本の良さとして持つ相手が嫌がる粘り強い守備というところは必要だと思います。そのうえで、ブロックを作って粘り強く守備をするということと、攻守が切り替わった瞬間に高い位置から相手のボールを奪うというところを使い分けられるようにしたいと思っています」

 こちらもこれまでと同様で、相手、試合状況、試合展開、時間帯などによって戦術を使い分けられるようになることを目指している。

◆主張には説得力があり、続投した効果が見えた

 森保監督のコメントから、カタール大会での反省を踏まえて次に目指すべき姿を定めたことがわかる。それはこれまでの日本代表と違いきっちりとPDCAができており、指揮官を続投した効果のひとつと言える。

 また、主張する内容についても説得力があった。識者によっては、自分たちで主導権を握るためにボール保持率を上げるポゼッションサッカーを目指さなければならないと主張する人もいる。それは極論であって、世界トップの主流は、ボールを保持する時間を長くするポゼッションサッカーも、素早くゴールへボールを運ぶカウンターサッカーも両方を高水準でできる。まさに、相手や状況に応じて使い分けられるようになることが、次のワールドカップで勝ち上がるために必要なことになる。

 カタール大会ではその使い分けがうまくはまらず、クロアチアに敗れたわけだが、森保監督は4年間で個と組織の両方の質を上げることで勝てるという結論を導き出した。

 その戦術の使い分けは、やはり相手ありきのこと。ドイツやスペインのように個で優れた選手が多い場合は、後方に引き人数を割いて守備を固めることになる。一方、コスタリカのような相手には、自分たちが主導権を握ってボールを支配する展開になる。

◆ウルグアイとコロンビアは「これ以上ない相手」

 相手が劣るアジア予選では、もちろん日本のボール保持率が高くなる試合展開になる。加えて、本大会出場国が増枠する次大会では、同等あるいは劣るレベルの相手と対戦する試合が増える。4年前のアジア予選でも、ゴール前に人数を割いて守備を固めてくる相手に苦戦した。その予選が今年から始まることを考慮すると、ポゼッションサッカーの質を高めることは急務になる。

 また、森保監督も言及したように、後方に引いてブロックを固める粘り強い守備はカタール大会でも成果を出した。そのことを踏まえても、まずはポゼッションサッカーの向上を目指すべきである。

 今回対戦するウルグアイやコロンビアは、どちらかと言えばカウンターを得意とする。同地区には世界最高レベルでポゼッションサッカーを展開できるブラジルが君臨しており、それを相手に勝つためにカウンター攻撃を磨いてきた過去が両国にはある。もちろん、個々のクオリティも高い。

 そのことからも日本代表が展開するポゼッションサッカーの質を測るには、「これ以上ない相手」になる。

◆久保の欠場で高まる三笘への期待

 今回の日本代表ではカタール大会で招集されなかった新戦力の活躍も期待されるが、やはりカタール大会以後に目覚ましい活躍を見せている選手が注目される。スペインで好調ぶりを見せる久保建英(レアル・ソシエダ)はコロナの検査で陰性が確認できず、残念ながらウルグアイ戦には出場できないだろう。そのこともあり、イングランドで決定機を演出し続けている三笘薫(ブライトン)へ期待が集まる。

 戦術の使い分けを目指して、ポゼッションサッカーの向上が急務なわけだが、それを測るうえで三笘のポジションがひとつのキーポイントになる。ドリブルで切り崩すことを得意とする三笘には、ある程度スペースが必要になる。ワールドカップのときはチームが全体として引いていたこともあるが、三笘自身のポジションも後ろめにして前方へ広大なスペースをつくる戦術だった。

 しかし、スペースを消し、引いて守る相手にはそうはいかない。

◆三笘を最大限生かすには

 また、三笘のポジションを後ろめにすることはゴールまでの距離が遠くなることであり、直接的にチャンスにつながらないことがある。三笘の能力を最大限に生かすためには、やはりできるだけゴールに近い位置でボールを持たせるようにしたい。

 結局、これまでの日本代表はポゼッションサッカー展開時に三笘をストロングとして生かしきれないまま、4年後の宿題となっている。

 ウルグアイ戦で三笘のポジションが前めであれば、その宿題に正面から取り組もうとしていると考えていいだろう。もしも後ろめだった場合には、三笘にとって日本代表は不遇の地となる可能性が高い。

 三笘を高い位置で躍動させるためには、やはりスペースが必要になる。とはいえ、広大なスペースはいらない。最低限、相手と1対1になる形をつくればいい。その形をチームとしてつくりあげることができるかが当面の課題になると言える。

◆右サイドに相手を引き寄せたい

 ポイントは「横への速い展開」だ。左サイドに位置する三笘とは逆の右サイドでボールを保持して相手を引き寄せると、必然的に左サイドにスペースができあがる。そのスペースが消え去らないうちに、三笘へボールを渡してチームとしてチャンスをつくるのが理想だ。

 右サイドで密集をつくるのは久保や堂安律(フライブルク)、鎌田大地(フランクフルト)といった中盤に加え、右サイドバックが担う役割になる。このことからも右サイドバックの新戦力として招集された半田、菅原由勢(AZアルクマール)、橋岡大樹(シント=トロイデン)らも注目したいところだ。

 森保監督はボトムアップ型だ。チーム戦術にも選手の主張が採用されることがある。

 三笘も自分自身が最も生きる形を理解しているだろうし、久保、鎌田、堂安にしても効果的な方法や、やりやすい形を理解している。

◆守備的戦術の根源は…

 さて、これまでは吉田がキャプテンとして取りまとめ、長友が一体感をつくり出してチームを築き上げてきた。今回はこれまで中心となっていた選手がいない。それは不安要素にもなり得るが、新しく構築していくという意味ではチャンスと捉える必要がある。吉田や長友らはうまくチームをまとめて結果を出したという意味で、貢献度が高い。しかし、やはりディフェンスの選手なのだ。これまではチームの中心があまりにもディフェンスに偏りすぎていた。それが攻撃的なアイデアの欠如につながり、守備的な戦術の優先になってしまったのではないかと邪推してしまう。

 いずれにしても新しく生まれ変わろうというこのタイミングで、今後の日本代表を担う前述の選手らはしっかりと監督に主張し、自分たちがやりやすく活躍できえう形を構築していってほしい。また、ボトムアップ型の森保監督なら、うまく吸い上げて新たな形を見出してくれると期待する。

<文/川原宏樹 撮影/NORIO ROKUKAWA>



【川原宏樹】

スポーツライター。日本最大級だったサッカーの有料メディアを有するIT企業で、コンテンツ制作を行いスポーツ業界と関わり始める。そのなかで有名海外クラブとのビジネス立ち上げなどに関わる。その後サッカー専門誌「ストライカーDX」編集部を経て、独立。現在はサッカーを中心にスポーツコンテンツ制作に携わる

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