店舗を減らし続ける「磯丸水産」。“天下を取った”浜焼き居酒屋の栄枯盛衰
2023年09月09日 08時53分SPA!

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化学メーカーで研究開発を行う傍ら、経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。
さて、今回は「磯丸水産」や「鳥良商店」といったヒット作を生み出した「SFPホールディングス株式会社」の業績について紹介したいと思います。
磯丸水産は、都心の駅前で安く浜焼きを楽しめる点や、24時間営業で夜勤明けの飲酒需要を取り込んだ点が成功に繋がっています。また、コロナ禍以降は近年注目されている“ネオ大衆酒場”という形態で業績拡大を目指すようです。今回は同社の沿革や、今後の方針について見ていきたいと思います。
◆2009年に「磯丸水産」1号店をオープン
SFPホールディングスはもともと、1984年に東京・吉祥寺で創業した手羽先唐揚専門店「鳥良」から始まりました。その後ゆるやかに成長して1994年には全店10店舗体制となり、組織再編を経て2008年には50店舗体制となりました。
同社が著しく成長したのは2009年に海鮮系居酒屋「磯丸水産」1号店をオープンしてからです。磯丸水産はすぐに人気店となったようで、翌2010年には10店舗を超えました。その後、磯丸水産は2015/9期に100店舗を突破し、2017/2期には155店舗体制となりました。
店舗数自体は他の居酒屋チェーンと比較して決して多い水準ではありませんが、東京の駅前一等地へ積極的に進出したため消費者の間でも高い認知度を獲得しています。
◆磯丸水産が成功した3つの要因
数字で見ていくとSFPホールディングスはピーク時には10%を超える経常利益率を記録しました。他の居酒屋チェーンの経常利益率がおおよそ5%未満であることを考えると、非常に高い水準です。
磯丸水産が成功した要因として(1)駅前一等地という立地戦略、(2)24時間営業体制、(3)浜焼きのエンターテイメント性の3点があげられます。
(1)に関して磯丸水産は東京や大阪の駅前一等地への出店を続けた結果、高い集客力と認知度に繋がりました。一方で一等地への出店についてはコスト面が気になるところですが、これについては(2)24時間営業体制をとり、他チェーンの店舗よりも多く売上を確保することで高い家賃をカバーしました。
深夜から朝にかけては夜勤明けの肉体労働者、飲食店勤務者を取り込み、昼から夕方にかけては昼飲み需要を取り込んでいます。また、時間帯によってメニューも変えており、海鮮丼を提供することで昼間は定食屋としても機能しています。
そして(3)浜焼きのエンターテイメント性も、消費者を惹きつけたといえるでしょう。浜焼き自体は珍しいものではありませんが、都市部で安く浜焼きができるお店という条件で絞ると数は限られます。
◆“磯丸メソッド”をフル活用した「鳥良商店」
2015年にSFPホールディングスはメインブランド「磯丸水産」、「鳥良」に加え、「鳥良商店」の1号店をオープンしました。鳥良商店は手羽先唐揚や焼鳥、鉄板焼きなどの鶏料理を主体とする居酒屋ですが、磯丸水産の成功法則に則り駅前一等地への出店や深夜・24時間営業(一部)を基本戦略としています。
鳥良商店も出だしは好調だったようで、翌年には10店舗体制となり、その後は新規出店や磯丸水産や鳥良からの転換という形で店舗数を増やしました。
磯丸水産のように店舗立地や営業時間体制も要因ですが、低価格ながら質の高い鶏料理を提供した点も成功につながった要因の一つといえます。また、単なる焼鳥屋ではなく鶏料理全般として訴求した点も消費者を惹きつけたのではないでしょうか。
◆競合の海鮮居酒屋も同様に苦戦
一方で磯丸水産に関しては、2017/2期以降、伸び悩みました。大局的な流れで言えば日本人の魚離れは進んでおり、特にお酒の席では魚よりも肉類が好まれるようになったことが伸び悩んだ要因として考えられます。
競合の状況を見ると海鮮系居酒屋「庄や」「大庄水産」などを運営する株式会社大庄は2008年以降、規模縮小が続いたほか、同じく海鮮系の「はなの舞」や「さかなや道場」などを展開するチムニー株式会社も2015年以降は減収が続きました。
◆売上の回復は道半ば。今後の戦略は?
コロナ禍では多分に漏れず宴会需要の自粛や休業により業績は大幅に悪化しました。2019/2期から2023/2期の業績は次の通りです。23/3期における磯丸事業と鳥良事業の店舗数はそれぞれ119店舗と37店舗となっており、売上の回復は道半ばのようです。
【SFPホールディングス株式会社(2019/2期~2023/2期)】
売上高:378億円→402億円→174億円→104億円→229億円
営業利益:29.1億円→25.5億円→▲53.4億円→▲79.2億円→▲7.5億円
今後の戦略について同社は主に(1)深夜営業再開の継続、(2)地方都市への出店、(3)“ネオ大衆酒場”の開拓の3点を掲げています。
ネオ大衆酒場とは近年みられる形式の酒場であり、古い大衆酒場のようなレトロ感を出しつつも明るく清潔感のある店舗形態が特徴の居酒屋のこと。「もつ煮込み」などの大衆酒場っぽい料理を提供するほか、色鮮やかなカクテルなどSNS映えを意識したドリンクを提供する店舗もあるようです。
なお、SFPホールディングスでは既に「五の五」などのネオ大衆酒場を出店し、磯丸・鳥良に代わる第二の成長軸として拡大を目指す方針を掲げています。「五の五」のメニューをみると料理やドリンクは一般的な大衆居酒屋そのものであり、映え要素はありませんが、明るく簡素な造りの店舗が特徴的です。
鳥良商店はコロナ禍で店舗数が激減し、磯丸水産はそれ以前から伸び悩んでいました。既存の主力ブランドは厳しい状況にあります。SFPホールディングスの今後はネオ大衆酒場の成否次第といえるでしょう。
<TEXT/山口伸>
【山口伸】
化学メーカーの研究開発職/ライター。本業は理系だが趣味で経済関係の本や決算書を読み漁り、副業でお金関連のライターをしている。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー Twitter:@shin_yamaguchi_
さて、今回は「磯丸水産」や「鳥良商店」といったヒット作を生み出した「SFPホールディングス株式会社」の業績について紹介したいと思います。
磯丸水産は、都心の駅前で安く浜焼きを楽しめる点や、24時間営業で夜勤明けの飲酒需要を取り込んだ点が成功に繋がっています。また、コロナ禍以降は近年注目されている“ネオ大衆酒場”という形態で業績拡大を目指すようです。今回は同社の沿革や、今後の方針について見ていきたいと思います。
◆2009年に「磯丸水産」1号店をオープン
SFPホールディングスはもともと、1984年に東京・吉祥寺で創業した手羽先唐揚専門店「鳥良」から始まりました。その後ゆるやかに成長して1994年には全店10店舗体制となり、組織再編を経て2008年には50店舗体制となりました。
同社が著しく成長したのは2009年に海鮮系居酒屋「磯丸水産」1号店をオープンしてからです。磯丸水産はすぐに人気店となったようで、翌2010年には10店舗を超えました。その後、磯丸水産は2015/9期に100店舗を突破し、2017/2期には155店舗体制となりました。
店舗数自体は他の居酒屋チェーンと比較して決して多い水準ではありませんが、東京の駅前一等地へ積極的に進出したため消費者の間でも高い認知度を獲得しています。
◆磯丸水産が成功した3つの要因
数字で見ていくとSFPホールディングスはピーク時には10%を超える経常利益率を記録しました。他の居酒屋チェーンの経常利益率がおおよそ5%未満であることを考えると、非常に高い水準です。
磯丸水産が成功した要因として(1)駅前一等地という立地戦略、(2)24時間営業体制、(3)浜焼きのエンターテイメント性の3点があげられます。
(1)に関して磯丸水産は東京や大阪の駅前一等地への出店を続けた結果、高い集客力と認知度に繋がりました。一方で一等地への出店についてはコスト面が気になるところですが、これについては(2)24時間営業体制をとり、他チェーンの店舗よりも多く売上を確保することで高い家賃をカバーしました。
深夜から朝にかけては夜勤明けの肉体労働者、飲食店勤務者を取り込み、昼から夕方にかけては昼飲み需要を取り込んでいます。また、時間帯によってメニューも変えており、海鮮丼を提供することで昼間は定食屋としても機能しています。
そして(3)浜焼きのエンターテイメント性も、消費者を惹きつけたといえるでしょう。浜焼き自体は珍しいものではありませんが、都市部で安く浜焼きができるお店という条件で絞ると数は限られます。
◆“磯丸メソッド”をフル活用した「鳥良商店」
2015年にSFPホールディングスはメインブランド「磯丸水産」、「鳥良」に加え、「鳥良商店」の1号店をオープンしました。鳥良商店は手羽先唐揚や焼鳥、鉄板焼きなどの鶏料理を主体とする居酒屋ですが、磯丸水産の成功法則に則り駅前一等地への出店や深夜・24時間営業(一部)を基本戦略としています。
鳥良商店も出だしは好調だったようで、翌年には10店舗体制となり、その後は新規出店や磯丸水産や鳥良からの転換という形で店舗数を増やしました。
磯丸水産のように店舗立地や営業時間体制も要因ですが、低価格ながら質の高い鶏料理を提供した点も成功につながった要因の一つといえます。また、単なる焼鳥屋ではなく鶏料理全般として訴求した点も消費者を惹きつけたのではないでしょうか。
◆競合の海鮮居酒屋も同様に苦戦
一方で磯丸水産に関しては、2017/2期以降、伸び悩みました。大局的な流れで言えば日本人の魚離れは進んでおり、特にお酒の席では魚よりも肉類が好まれるようになったことが伸び悩んだ要因として考えられます。
競合の状況を見ると海鮮系居酒屋「庄や」「大庄水産」などを運営する株式会社大庄は2008年以降、規模縮小が続いたほか、同じく海鮮系の「はなの舞」や「さかなや道場」などを展開するチムニー株式会社も2015年以降は減収が続きました。
◆売上の回復は道半ば。今後の戦略は?
コロナ禍では多分に漏れず宴会需要の自粛や休業により業績は大幅に悪化しました。2019/2期から2023/2期の業績は次の通りです。23/3期における磯丸事業と鳥良事業の店舗数はそれぞれ119店舗と37店舗となっており、売上の回復は道半ばのようです。
【SFPホールディングス株式会社(2019/2期~2023/2期)】
売上高:378億円→402億円→174億円→104億円→229億円
営業利益:29.1億円→25.5億円→▲53.4億円→▲79.2億円→▲7.5億円
今後の戦略について同社は主に(1)深夜営業再開の継続、(2)地方都市への出店、(3)“ネオ大衆酒場”の開拓の3点を掲げています。
ネオ大衆酒場とは近年みられる形式の酒場であり、古い大衆酒場のようなレトロ感を出しつつも明るく清潔感のある店舗形態が特徴の居酒屋のこと。「もつ煮込み」などの大衆酒場っぽい料理を提供するほか、色鮮やかなカクテルなどSNS映えを意識したドリンクを提供する店舗もあるようです。
なお、SFPホールディングスでは既に「五の五」などのネオ大衆酒場を出店し、磯丸・鳥良に代わる第二の成長軸として拡大を目指す方針を掲げています。「五の五」のメニューをみると料理やドリンクは一般的な大衆居酒屋そのものであり、映え要素はありませんが、明るく簡素な造りの店舗が特徴的です。
鳥良商店はコロナ禍で店舗数が激減し、磯丸水産はそれ以前から伸び悩んでいました。既存の主力ブランドは厳しい状況にあります。SFPホールディングスの今後はネオ大衆酒場の成否次第といえるでしょう。
<TEXT/山口伸>
【山口伸】
化学メーカーの研究開発職/ライター。本業は理系だが趣味で経済関係の本や決算書を読み漁り、副業でお金関連のライターをしている。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー Twitter:@shin_yamaguchi_
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