“史上最大級”に期待されるラグビー日本代表。アルゼンチン戦で勝つために守るべき「2つのポイント」

“史上最大級”に期待されるラグビー日本代表。アルゼンチン戦で勝つために守るべき「2つのポイント」

日本代表勝利のキープレーとなる「2インコリジョン」

ラグビー日本代表は2大会連続でワールドカップ決勝トーナメント進出を懸けて、日本時間8日20:00からアルゼンチン代表と対戦する。勝ったチームが決勝トーナメントへ進出できる一大決戦を迎えた日本代表は、勝利を得るためにどうすべきなのだろうか――。
◆『とんぼ』が流れるなか、ウォーミングアップ

 ラグビー日本代表がトゥールーズ市内の拠点で練習しているなか、長渕剛の『とんぼ』が流れていた。主力センターの中村亮土たちのリクエストにより、試合会場のBGMにも用いられている。からっとしたフランスの秋の風と、異質なコラボレーションを実現している。

 その曲が流れるなかで、選手たちは芝に尻をつけ、太ももの裏側や背筋を伸ばしてウォーミングアップをする。続いてアップテンポな海外の楽曲に切り替わると、メニューはテニスボールとラグビーボールを一度にパスし続けるアクティビティに転じる。

 練習を公開する冒頭15分間には戦術的なメニューはなく、ここから次戦への展望をくみ取ることはほぼ不可能だが、それでも明確にわかることはある。

 チームに活気があった。

◆決戦に向けていい緊張感で準備する日本代表

 さらに、過去3大会で計6トライをマークする松島幸太朗は「皆、あまり緊張せずにやれている」と補足した。

「練習中もミスがあまりないですし、意外と皆、落ち着いてやれているんじゃないかと」

 見据えているのは、もちろんプール最終戦だ。対戦するアルゼンチン代表とは勝ち点9で並んでいるが、得失点差によりアルゼンチン代表が上位にあたる。その一戦が、決勝トーナメント進出を決める大一番になるのは間違いない。勝ったほうがイングランド代表とともにプールDから8強入りできる。2大会連続での決勝トーナメント進出が期待される日本代表にあって、司令塔の松田力也は「絶対にプレッシャーはかかってくる」と当日の試合を見据えている。

「そのプレッシャーを全員が受け入れ、楽しんで自分たちにフォーカスしてやる。そのなかでいい判断をして、自分たちのやってきたことを全部出す気持ちでやれば、最後のボールの転がりであったりに繋がると思う」

◆アルゼンチンに勝つために必要なポイントは…

 かねて、かねて、日本代表は「絆」「勇気」「導く」という標語を掲げ、一丸となっての攻防で流れをつかもうとしてきた。さらに次戦で求められるのは、激しさと規律だ。

 特に激しさは、アルゼンチン代表が長らくモットーとしてきた概念になる。

 攻撃時の突進役とサポート役、防御時のタックル役が、勢いをつけて攻防の境界線に駆け込む。ボールを前に投げられないラグビーを制するべく、最前線のぶつかり合いで勢いをつける。そうしてアルゼンチン代表は、南半球有数の強豪となった。

 それだけでなく日本代表に問われる激しさは他にも多くある。立ったボール保持者を軸に作るモールを進ませない動き、高く蹴り上げられたハイボールの競り合いなどだ。これらはアルゼンチン代表の主な攻め手だ。きっとそれらへの対策を、日本代表は『とんぼ』の流れるグラウンドで入念に施していよう。

 もし、日本代表が鮮やかなトライを決めたとしても、本当に注目されるべきはそれを支えるハードワークになる。ボールを境目にした両選手のぶつかり合いこそ、つぶさに注目されるべき勝利のポイントとなることだろう。

◆求められる「2インコリジョン」とは

 体格差に劣る日本代表がアルゼンチン代表より激しく戦うには、ひとつひとつの局面に複数人で挑まなくてはならない。空中戦では、上空で球を競り合う選手を相手からガードする「エスコート」と呼ばれる仕事がマスト。さらにボールを持って迫ってくる相手には、長らく反復練習してきた2人がかりでのタックルを繰り出したい。

 その意を「2インコリジョン」というキーワードで福田健太が強調した。

「日本代表の持ち味はスピードをつけてどんどんアタックすること。そのアタックの機会を得るためには、ディフェンスの2インコリジョンが鍵になってくる。いままでと変わらない、いい準備ができたらと思います」

 サモア代表戦では28-22と勝利も、後半はやや当たり負けした。手ごわいアルゼンチン代表に対しては、最後の最後まで「2インコリジョン」を浴びせ続けたい。

◆忘れてはいけない「順法精神」

 ときにアルゼンチン代表は反則を多く犯す。ぶつかり合いを互角に持ち込めば、力んだ相手がラフな動きで笛を吹かれるシーンもあるかもしれない。最近では首から上へのタックルが、特に厳しく判定される傾向にある。故意でなかったとしてもイエローカード(10分間の一時退場処分)が出るケースが多く、今大会では両軍とも計2枚を記録している。補足すれば、80分間を通して反則数を1桁に抑えた試合数は、日本代表のほうが1つ多い。今大会で日本代表が2桁の反則を記録したのは前回のサモア代表戦だけだ。

 松島は、その反省を生かす。ポジションの性質上、グラウンドの「外」(タッチライン際)に立つことが多いのを踏まえ、こう展望する。

「前の試合では簡単なペナルティが多かった。試合中は、それを(防ぐように)僕たちが外から細かく(中央に立つ選手に)伝えていくことが大事になってくる」

 アルゼンチン代表戦では、規律を守る意識でアドバンテージを取りたい。激しさと規律。この2つの項目で問題を起こさなければ、個々の体格差を組織力で覆す展開へ持ち込めるのではないか。

◆アルゼンチン戦に向けた選手のメンタリティは?

 いまの日本代表は史上もっとも期待され、注目される状況下にあるといえよう。

 公開練習には多くのメディアが集まり、試合中継を担当するテレビ局の関係者は、「放送時間や国内の盛り上がりを考えれば、視聴率20パーセントは下らないだろう」と胸をはずませる。

 松島幸太朗は「不安よりかは個人的にはわくわくしている。早く試合がしたい気持ちです」と、内なる高揚感を淡々と口にする。

「自分に何が必要なのか、自分の仕事が何なのかを理解してゲームに入るイメージでいます。練習でも、『どういうシチュエーションが多くなりそうだ』と、相手のアタック、ディフェンスの仕方を予測しながらやっている。それで試合に入ったときに『予想通りだな』ということがあれば、こっちもいいプレーができる」

 周囲の緊張感が高まるなか、戦いの当事者たちは元気なうえに落ち着いている。激しさと規律のどちらも大事にできるメンタリティ。それを保って決戦に臨みたい。

<TEXT/ラグビーライター 向風見也>



【向風見也】

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年にラグビーライターとなり「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」「REAL SPORTS」「THE DIGEST」「Yahoo! ニュース」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。ワールドカップ期間中は現地情報をオンラインで届ける「ラグビー反省会特別編」を実施。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など

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