「三笘不在」をポジティブに捉えられる理由。“帰ってきた”南野に期待したい

「三笘不在」をポジティブに捉えられる理由。“帰ってきた”南野に期待したい

久しぶりの招集となった南野拓実

昨年末にFIFAワールドカップ2022カタール大会での戦いを終えたサッカーの日本代表は、現在2026年にアメリカ、カナダ、メキシコの3カ国で共催する次のワールドカップに向けて着々と強化を図っている。先月はドイツ代表とトルコ代表を相手に快勝し、順調に強化できていることをファンやサポーターに示した。
 そんななか、来月からはワールドカップ予選が始まり、年明け1月にはアジア王者を決めるアジアカップが開催される。絶対に負けられない戦いを迎える日本代表にとって、最後の親善試合となるカナダ戦(13日19:35キックオフ)とチュニジア戦(17日19:10 キックオフ)では、どういった強化が必要になるのだろうか――。

◆ヨーロッパ遠征は快勝したものの…

 先月にヨーロッパで行われたドイツ戦では4—1、トルコ戦では4—2で勝利。申し分ない試合内容で強豪国から勝ちを得たことで、次のワールドカップに期待する人たちがさらに増えたはずだ。その2年8カ月後とまだ先の話になるが、予選は来月から始まる。また、タイトルの懸かったアジアカップは来年1月に開催される。言い換えれば、カタールでのワールドカップのなごりを消し去り、約2年間はアジアでの戦いに集中しなければならないタイミングがやってきた。

 最大の目標はワールドカップでの優勝であり、そのために強化しているのは大前提ではある。しかし、目の前に控えるアジアでの戦いに勝たなければ、世界への挑戦権も得られないがゆえに、これからの戦いは決して軽視することはできない。

 それは森保一監督も十分に理解している。

「北中米ワールドカップアジア予選、そしてアジアカップという戦いのなかでは、相手がより守備を固めて我々に対して対策をしてくるということは予想できるところかなと思っています。まずは我々が強いチームになるということは、ただ攻撃的に守備的にということではなくて、相手に勝つために速攻もできれば遅攻もできる。真ん中から攻めることもできれば、サイドを使って攻めることもできる。いい守備からいい攻撃につなげるために、相手を受け止めながら攻撃を仕掛けてチャンスをつくる、得点機会をつくる。そういうところでいろいろなバリエーションを持つことができていれば、相手が前からハイプレッシャーをかけてきても、引いて守ってきても、どちらの相手でも我々の持っているオプションのなかで戦いを優位に進めて勝つ確率を上げることを目指していかなければいけないと思います」

◆「アジア勢との戦い」を見据えた2試合

 このように最終的な目的のためにどう強化すべきかを明確にしたうえで、今回のカナダ代表、チュニジア代表との親善試合ではアジア対策も踏まえて戦うことを話している。

「アジアの戦いに向けての準備という部分では、カナダは監督が代わってどういう戦いをするかというのは未知数なところですが、個々の能力が高いことはカタールのワールドカップ前に親善試合をしたときにも把握できていることではあります。ただ、戦術的にはわからない。チュニジアを分析すると、非常に堅い守備から攻撃をしかけてくるチーム。その部分においてはアジアでの戦いとも共通する相手と思っていますので、チュニジアとの戦いはよりアジアでの戦いをイメージしながら、我々の経験値を上げていける、次の戦いに向けての準備もできるかなと思っています」

 カナダ代表については「未知数」と明言を避けているが、ワールドカップでの戦い方をベースにマッチメークしたことは明白で、どちらも堅守速攻を得意とするアジア勢と類似するチームとなり、今後の戦いを見据えてたうえでの親善試合となる。

◆三笘の不在は誰が埋める?

 今回はコンディション不良により、鎌田大地と堂安律の招集が見送られた。その後、三笘薫、前田大然も同様に不参加が決定。さらにGK前川黛也の離脱も発表されている。新生森保ジャパンで主力として活躍してきた鎌田や三笘のコンディション不良は心配されるが、今回の親善試合によるチーム強化という意味ではポジティブに捉えたほうがいいだろう。

 アジアでの戦いを見据えると、相手は日本対策として後方に引いてゴール前を固める戦術をとってくることだろう。加えて、縦方向への推進力を持つ伊東純也と三笘という日本のストロングポイントを発揮させないために、サイドに人を配置してスペースを消してくることが予想される。そうやって最終ラインに5人を並べてスペースを埋めてくる守備をする相手に対して、攻略できるバリエーションをつくることが今回の課題といえるからだ。

 不在である三笘の位置を務めるのは、おそらく中村敬斗、旗手怜央になるだろう。あるいは追加招集された奥抜侃志も考えられる。彼らがどのような違いを見せてくれるのかが、今回の注目されるポイントのひとつとなる。

 三笘の位置とは異なるが、その後ろを支えつつコンビネーションを期待される左サイドバックには、直前の負傷でワールドカップに出られなかった中山雄太が復帰している。ワールドカップ以後、層の薄さを感じさせていた左サイドバックだが、新生森保ジャパンの新たな戦力として違いを見せることが期待されている。

◆トップ下の適任は?

 今回の親善試合における最大の注目ポイントはトップ下になる。スペースを埋める守備をしてくる相手を攻略するときには、どうしても選手個人のインスピレーションやイマジネーションに頼らざるを得ない。頭がひとつふたつ抜け出るほど高い圧倒的なフィジカルで勝っていれば別の戦術も考えれるが、残念ながら今の日本代表にそのような選手は存在しない。それゆえに、相手が追いつけないスピードでのコンビネーションや相手の予想だにしない裏をつくプレーで守備を崩さなければならない。

 この点においては、日本代表選手内で久保建英が最も優れている。今回不在の鎌田も優れているが、よりゴールに近い位置でその仕事ができるのが久保であり、実際に所属チームではその力を発揮している。伊東を右に据えると仮定すれば、今回はトップ下での出場機会が多くなるだろうが、鎌田不在のためその出場機会はこれまでよりも増えることが予想される。

 同じくトップ下では、ワールドカップ以来の復帰となる南野拓実にも期待が寄せられている。南野は鎌田、久保とは違ったタイプである。新たなバリエーションという意味では、活躍を期待したい選手のひとりである。

◆久保と“帰ってきた”南野にかかる期待

 久保も南野も狭いスペースでもプレーできる希少な選手だ。しかも、久保はそこから決定的なパスを出せるタイプで、南野はそこでパスを受けてゴール方向を向いて決定機をつくれるタイプと、それぞれに得意とする型に違いがある。それを踏まえると、中盤の底を遠藤航1人に任せる4—1—4—1のシステムを採用して、久保と南野を同時起用するほうが可能性を感じる。

 実際に森保監督も同じことを考えているようで、南野の起用について質問されたときに「トップ下」あるいは「インサイドハーフ」と答えている。

 これからのアジア勢との戦いにおいて、複数人が絡むコンビネーションが大事になる。これは一朝一夕で培われるものではない。何より選手間の相性が大事になる。今回の親善試合では、先述した久保と南野の同時期用のほかにもさまざまな選手を試して、相性のよさを測ってもらいたいものだ。

<TEXT/川原宏樹 撮影/松岡健三郎>



【川原宏樹】

スポーツライター。日本最大級だったサッカーの有料メディアを有するIT企業で、コンテンツ制作を行いスポーツ業界と関わり始める。そのなかで有名海外クラブとのビジネス立ち上げなどに関わる。その後サッカー専門誌「ストライカーDX」編集部を経て、独立。現在はサッカーを中心にスポーツコンテンツ制作に携わる

関連記事(外部サイト)

  • 記事にコメントを書いてみませんか?