サッカー日本代表は本当に強くなっているのか?「5年前の代表」と戦績を比較して分かったこと

サッカー日本代表は本当に強くなっているのか?「5年前の代表」と戦績を比較して分かったこと

対戦相手であるチュニジア代表監督にも称賛されていた久保建英

先月の親善試合でドイツ代表とトルコ代表に快勝したサッカー日本代表は10月13日にカナダ代表と、同月17日にチュニジア代表と対戦。鎌田大地、堂安律、前田大然、三笘薫らをコンディション不良などで招集できなかったにもかかわらず、両試合とも危なげない試合運びで勝利した。
 第2次森保ジャパン発足後の3月に行われた試合は1分け1敗と不安な船出となったが、それ以後の試合からは勝ち続けて現在は6連勝中となっている。加えて、その6試合中の5試合で4得点を挙げる好調ぶりを見せている。

 来月からはワールドカップのアジア2次予選が始まり、年明け1月からはAFCアジアカップ カタール2023が開催される。元日の国立競技場でタイ戦の開催が決まったが、今後しばらくは公式戦が続くことなる。アジア勢を相手にして絶対に負けられない戦いを迎えるうえで、日本代表の強化は着実に進んでいるのか改めて検証してみたい。

◆カナダ代表とチュニジア代表の共通点

 今回対戦したカナダ代表とチュニジア代表はどちらも守備を固めてカウンター攻撃から得点を狙うスタイルを得意とするチームで、これからのアジア勢との対戦を想定した想定したマッチメークだった。極端にいえば、日本代表がワールドカップで見せたような戦い方で、今度はそれを仕掛けられる側になる戦いを強いられることになる。

 新潟で行われたカナダ戦ではこれまで出場機会の少なかった選手や久々に代表復帰した選手らを中心のメンバーで挑み、開始早々に田中碧が先制点を挙げたことでカナダ代表を混乱に陥れた。その後も得点を重ねた日本代表は、相手にいいところを出させずに4-1で勝利した。

◆ワールドカップ後は「6勝1敗1分け」

 その4日後に神戸で行われたチュニジア戦では、久保建英がトップ下で先発。最終ラインに5人を並べて守備を固める相手に、チャンスをつくり出して攻撃を牽引した。また、ボールを奪ってから縦に早い攻撃を仕掛けようとするチュニジアに対して、日本代表は遠藤航を中心にしっかりとしたリスク管理を行った守備で相手に好機を与えなかった。これまでの5試合で4得点以上を挙げていたことと比較すると、2得点止まりでもの足りなさを感じるかもしれないが、申し分のない試合内容で、今後のアジア勢との対戦において対策が為されていることを示した結果となった。

 これで日本代表はFIFAワールドカップ カタール2022以後の対戦成績を6勝1敗1分けとした。2026年に開催される次大会に向けて順調な船出といえ、大陸王者を決めるアジアカップでの優勝が期待される。

◆アジアカップで“苦戦する”日本代表

 近年の日本代表は、ワールドカップで決勝トーナメントに2大会連続で進出するなど成果を上げてきた。しかし、アジアカップでは2大会連続で優勝を逃している。このように近年は、世界で勝つための戦い方とアジアで勝つための戦い方の違いに日本代表は悩まされてきた。1月にはそのアジアカップに挑むことになるのだが、第2次森保ジャパンは王者に君臨できるのだろうか。

 2011年大会以後のアジアカップはワールドカップ開催年の翌年1月に開催されるようになった。しかし、前回のワールドカップが異例の冬開催で11〜12月に行われたことから、今回のアジアカップも異例の翌々年開催となり2024年1月に開催されることになった。

 代表チームの短期的な強化策はワールドカップ開催に合わせて4年間で考えられることが常である。前回大会が冬開催で半年間ほどずれてしまうが、次のワールドカップに向けて強化をするという考え方は同じになる。現在はワールドカップを終えてアジアカップを迎えるタイミングで短期的な強化策としては、序盤のタイミングといえる。

◆前回の同時期も優勝を期待されていた

 タイトルの懸かったアジアカップは優勝を目指すべき大会で、選手や監督も含め関係者全員が同じ意思を持っているはずだ。ましてや、ワールドカップ出場権を勝ち取るためにはアジア各国との戦いは避けられないわけで、通常ならアジアカップ以後に始まる予選に向けても良い試金石となる。

 前回のアジアカップでは決勝でカタールに敗れ、優勝を逃している。森保監督が就任して初の公式戦かつ初のタイトルマッチだったわけだが、今回同様にもちろん優勝を期待されていた。遠藤航、浅野拓磨、南野拓実、中島翔哉らリオデジャネイロ五輪世代が台頭し、そこに堂安律や冨安健洋ら東京五輪世代も加わり世代交代が促されていた時期だ。そういったなかで行われたワールドカップ以後の親善試合では、5勝1分けの成績で今回同様に好調な強化を見せていた。

◆5年前の戦績と比べてみると…

 ここからは2018年と現在の日本代表を比較してみよう。以下、筆者がまとめた戦績だ。

【ロシアW杯からアジアカップまでの親善試合対戦成績】

試合開催日:対戦相手:スコア:開催地
2018/09/11(火):コスタリカ:○3-0:パナスタ(大阪)
2018/10/12(金):パナマ:○3-0:新潟ス(新潟)
2018/10/16(火):ウルグアイ:○4-3:埼スタ(埼玉)
2018/11/16(金):ベネズエラ:△1-1:大分ス(大分)
2018/11/20(火):キルギス:○4-0:豊田ス(愛知)

 ワールドカップからアジアカップまでの親善試合の結果を比較すると、5年前の状況と大差はない。

【カタールW杯からアジアカップまでの親善試合対戦成績】

試合開催日:対戦相手:スコア:開催地
2023/03/24(金):ウルグアイ:△1-1:国立(東京)
2023/03/28(火):コロンビア:●1-2:ヨドコウ(大阪)
2023/06/15(木):エルサルバドル:〇6-0:豊田ス(愛知)
2023/06/20(火):ペルー:〇4-1:パナスタ(大阪)
2023/09/09(土):ドイツ:〇4-1:(ヴォルフスブルク/ドイツ)
2023/09/12(火):トルコ:〇4-2:(ゲンク/ベルギー)
2023/10/13(金):カナダ:〇4-1:新潟ス(新潟)
2023/10/17(火):チュニジア:〇2-0:ノエスタ(兵庫)

 5年前は5試合を行い15得点4失点で、うち3試合が完封試合だった。1試合平均の得点は3.0で、平均失点が0.8となっている。一方、今年は8試合を行い26得点8失点で、うち完封が2試合。平均得点は3.3で、平均失点は1.0 となっている。ヨーロッパで開催されたドイツ戦、トルコ戦という異例の2試合を除くと平均得点は3.0、平均失点は0.8と、5年前と同じ数値となった。

◆ボール保持率やシュート数は?

 スコア以外にボール保持率やシュート数という数値を比較してみよう。5年前の6試合は以下のとおりとなっている。

【対戦相手:保持率:シュート数:被シュート数】
コスタリカ:49.4%:14:6
パナマ:56.7%:10:4
ウルグアイ:49.9%:14:9
ベネズエラ:53.7%:12:8
キルギス:66.2%:15:1

 続いて、今年に行われた8試合は以下のとおり。

【対戦相手:保持率:シュート数:被シュート数】
ウルグアイ:53.5%:4:8
コロンビア:51.2%:5:11
エルサルバドル:54.3%:20:4
ペルー:41.8%:10:4
ドイツ:35.0%:14:12
トルコ:45.0%:11:12
カナダ:46.4%:18:6
チュニジア:56.6%:17:1

◆ボールを保持してもシュートに結び付けられなければ…

 ボール保持率に関しては、5年前が50%を超える試合が3試合、今年が4試合となっている。平均すると5年前が55%ほどで今年は50%を切る数値になるが、異例のドイツ戦とトルコ戦を除けば50%ほどになり、ボール保持率はやや低くなった。

 シュートを打った本数を比較すると、5年前は1試合平均で13.0本となり、今年は12.4本となった。同様に異例の2試合を除くと平均は12.3本となるが、いずれにしても5年前よりはシュート数が少なくなっている。

 また、シュートを打たれた本数は、5年前が1試合平均5.6本で今年は7.3本となった。同様に異例の2試合を除いて計算すると5.7本となり、こちらは5年前と変わらない数値となった。

 ボール保持率とシュート数は必ずしも比例するわけではない。森保ジャパン再始動直後のウルグアイ戦とコロンビア戦では、いずれも保持率では相手を上回っているがシュートまで結びつけることができずに、相手にボールを持たされていた状態といえる。逆に、ドイツ戦では保持率は相手より下回っているがシュート数は上回っており、日本が意図的に相手にボールを持たせてゲームを支配した内容だった。

 新しいメンバーで新たな戦術にトライしようとした最初の2戦と、試合序盤に退場者が出たエルサルバドル戦を除けば、シュートを打った数も打たれた数も大きな差がないことがわかる。

◆数値は変わらないように見えるが、対戦相手が違う

 ここまでの数値を見ると、日本代表は5年前から大きく成長していないように感じる。しかし、相手が違う。対戦当時のFIFAランキングは以下のとおりとなっている。

【対戦相手:FIFAランキング】
コスタリカ:32位
パナマ:70位
ウルグアイ:5位
ベネズエラ:29位
キルギス:90位

 続いて、今年に対戦した相手のFIFAランキングは以下のとおりなっている。

【対戦相手:FIFAランキング】
ウルグアイ:16位
コロンビア:17位
エルサルバドル:75位
ペルー:21位
ドイツ:15位
トルコ:41位
カナダ:44位
チュニジア:29位

 5年前と比較すると、今年に対戦した相手のほうがFIFAランキングの高いチームが多いことがわかる。ちなみに、日本代表は5年前の親善試合の結果で55位から50位になっており、今年は20位から19位になっている。FIFAランキングの正確性には個人的に問題を感じているがひとつの指針にはなっており、日本代表は5年前よりは明らかに強いチームと対戦しているということはいえる。

◆「ドイツとスペインに勝った」影響は大きい

 これにはマッチメークする裏方の努力の賜物であり、そういった日本代表を支えるスタッフらの成果であり成長を感じ取れる事例だ。そういった努力で成し得た試合であることは間違いないのだが、5年間に起こったある事象が大きな影響を与えている。

 それは前回のワールドカップでの勝利である。ドイツ代表、スペイン代表に勝利した結果は世界に大きなインパクトを与えており、強化試合の相手として日本代表を選択するプライオリティが高くなった結果がマッチメークに表れている。

 さまざまな数値を比較すると前回のアジアカップ前と大差はなく、日本代表の成長に不安を感じたかもしれない。しかし、対戦した相手のレベルは5年前より明らかに上回っており、そういったチームを相手に同じような数値をたたき出せる試合をできているという事実を考慮すると、日本代表の成長を感じ取ってもらえるだろう。

 とはいえ、日本代表と同様に成長しているチームはアジア圏に多く存在する。短期的な最終目標は2026年開催のワールドカップであることは間違いないが、これからは親善試合ではなく公式戦になるのだ。目標達成のためにも絶対に負けられない戦いになるので、最近の試合結果に慢心することなくしっかりと目の前の対戦相手を研究し、1試合1試合それぞれの勝利を目指して戦ってもらいたい。

<TEXT/川原宏樹 撮影/松岡健三郎>



【川原宏樹】

スポーツライター。日本最大級だったサッカーの有料メディアを有するIT企業で、コンテンツ制作を行いスポーツ業界と関わり始める。そのなかで有名海外クラブとのビジネス立ち上げなどに関わる。その後サッカー専門誌「ストライカーDX」編集部を経て、独立。現在はサッカーを中心にスポーツコンテンツ制作に携わる

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