紅白歌合戦、旧ジャニーズはゼロだが「意外な歌手」も「斬新な試み」もナシ。もはや新鮮な“やる気のなさ”
2023年11月15日 08時53分SPA!

tamayura39 - stock.adobe.com
13日、今年の紅白出場歌手が発表されました。予想通りSMILE-UP.(旧ジャニーズ)からの選出はゼロ。44年ぶりのことだそうです。紅白公式サイトにも「人権尊重のガイドライン」なる声明を発表したことからも、旧ジャニーズに対するNHKの姿勢があらわれています。
◆「旧ジャニーズ」の出場はゼロだが…
ガラッとメンツを入れ替えてイメチェンに成功したように見えますが、本当にそうなのでしょうか。ネット上でも、“今年も残念になりそう”とか“もうどうでもいいコンテンツになってる”と、厳しい声が聞かれました。
まず白組出場アーティストを見てみましょう。
JO1やBE:FIRSTに加え、韓国勢からStray Kids、SEVENTEENが注目を集めています。変わり種で、顔出しをしない6人組グループ、すとぷりも初出場を果たしました。
計5枠。去年は旧ジャニーズ6組だったので、ほぼ彼らで穴埋めをした格好です。
◆「意外な固有名詞」も「斬新な試み」もナシ
そしてアニメ枠。『呪術廻戦』の主題歌「青のすみか」がスマッシュヒットしたキタニタツヤ。『鬼滅の刃』の主題歌「絆ノ奇跡」を紅組で出場するmiletとコラボしたMAN WITH A MISSION、社会現象にもなった『THE FIRST SLAM DUNK』のエンディング主題歌「第ゼロ感」の10-FEETは一つのセクションとしてまとめられます。
従来の“クールジャパン”枠が残ったと見て差し支えないでしょう。
加えて、躍進著しいMrs.GREEN APPLEに、NHK合唱コンクールの課題曲「Chessboard」のOfficial髭男dismなどの若手実力派バンドがいて、ゆず、星野源、福山雅治など、いつものビッグネームが控える。
紅組も同様の構成です。今年のテーマ「ボーダレス」を体現する新しい学校のリーダーズやanoとK-POP枠3組。YOASOBI、あいみょん、緑黄色社会、miletの若手を、ポップスと演歌の常連どころが支える。
意外な固有名詞もなければ、斬新な試みもない。安全安心のラインナップなのです。
◆テーマの「ボーダレス」にも表れた“やる気のなさ”
そう、今年はジャニーズがいなくなっただけなのですね。そしてそのことによってグレードアップしたわけでもダウンしたわけでもない。それは芸能ニュース的には大きな変化であっても、音楽番組の本質に関わるものではありません。
皮肉な見方をすれば、ジャニーズ枠が消えたことで、“K-POP枠”とか“アニメ枠”といった数合わせがより鮮明になりました。いままで批判を一身に受けてきた最大派閥が消滅したことで、派閥順送り感がより強まったのです。
そうなると加速度的に紅白の形骸化が進むのではないでしょうか。それはテーマの「ボーダレス」の質素なロゴにあらわれています。デザインする気力すら失った字体。そもそも日本と韓国の歌手しかいないのに「ボーダレス」なんて言われても……。
でも、このやる気のなさは新鮮です。ジャニーズという重石がなくなったおかげかはわかりませんが、あの「ボーダレス」ロゴには抜け感があります。しかもただ脱力しているのではなく、毎年文句を言う視聴者に向けて、“お前らギャーギャー言うけどこっちだって飽きてんだからな”という開き直りすら感じる。
はっきり言って、楽しませることを諦めたようにしか見えませんでした。けれども不思議と清々しい。みんな薄々気づいていた紅白の終わりにとうとう向き合ってくれた安心感なのでしょうか。
◆ついに“紅白の終活”に取り掛かった?
今年のラインナップでなんか言ってやろうと手ぐすねを引いていた筆者ですが、その気持ちは萎えました。そうすることが不粋であるというよりも、“一線から降りた”ものを論じるのはフェアではないと思ったからです。
ジャニーズによって保ってきた張り合いが、今日というたった一日あっけなくしぼんでいった。時代の終わりを痛感したのです。
これから数年かけて紅白歌合戦はフェイドアウトしていくのでしょう。その後、新たなプロジェクトが立ち上がるのか、日本の大晦日から音楽番組がなくなるのかはわかりません。
始まりがあるものには、すべて終わりがある。誰もなくなるとは想像すらできなかったジャニーズ事務所が消滅した2023年。紅白歌合戦も同様です。
ジャニーズなき紅白は、ついに終活に取り掛かったのだと思います。
文/石黒隆之
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4
◆「旧ジャニーズ」の出場はゼロだが…
ガラッとメンツを入れ替えてイメチェンに成功したように見えますが、本当にそうなのでしょうか。ネット上でも、“今年も残念になりそう”とか“もうどうでもいいコンテンツになってる”と、厳しい声が聞かれました。
まず白組出場アーティストを見てみましょう。
JO1やBE:FIRSTに加え、韓国勢からStray Kids、SEVENTEENが注目を集めています。変わり種で、顔出しをしない6人組グループ、すとぷりも初出場を果たしました。
計5枠。去年は旧ジャニーズ6組だったので、ほぼ彼らで穴埋めをした格好です。
◆「意外な固有名詞」も「斬新な試み」もナシ
そしてアニメ枠。『呪術廻戦』の主題歌「青のすみか」がスマッシュヒットしたキタニタツヤ。『鬼滅の刃』の主題歌「絆ノ奇跡」を紅組で出場するmiletとコラボしたMAN WITH A MISSION、社会現象にもなった『THE FIRST SLAM DUNK』のエンディング主題歌「第ゼロ感」の10-FEETは一つのセクションとしてまとめられます。
従来の“クールジャパン”枠が残ったと見て差し支えないでしょう。
加えて、躍進著しいMrs.GREEN APPLEに、NHK合唱コンクールの課題曲「Chessboard」のOfficial髭男dismなどの若手実力派バンドがいて、ゆず、星野源、福山雅治など、いつものビッグネームが控える。
紅組も同様の構成です。今年のテーマ「ボーダレス」を体現する新しい学校のリーダーズやanoとK-POP枠3組。YOASOBI、あいみょん、緑黄色社会、miletの若手を、ポップスと演歌の常連どころが支える。
意外な固有名詞もなければ、斬新な試みもない。安全安心のラインナップなのです。
◆テーマの「ボーダレス」にも表れた“やる気のなさ”
そう、今年はジャニーズがいなくなっただけなのですね。そしてそのことによってグレードアップしたわけでもダウンしたわけでもない。それは芸能ニュース的には大きな変化であっても、音楽番組の本質に関わるものではありません。
皮肉な見方をすれば、ジャニーズ枠が消えたことで、“K-POP枠”とか“アニメ枠”といった数合わせがより鮮明になりました。いままで批判を一身に受けてきた最大派閥が消滅したことで、派閥順送り感がより強まったのです。
そうなると加速度的に紅白の形骸化が進むのではないでしょうか。それはテーマの「ボーダレス」の質素なロゴにあらわれています。デザインする気力すら失った字体。そもそも日本と韓国の歌手しかいないのに「ボーダレス」なんて言われても……。
でも、このやる気のなさは新鮮です。ジャニーズという重石がなくなったおかげかはわかりませんが、あの「ボーダレス」ロゴには抜け感があります。しかもただ脱力しているのではなく、毎年文句を言う視聴者に向けて、“お前らギャーギャー言うけどこっちだって飽きてんだからな”という開き直りすら感じる。
はっきり言って、楽しませることを諦めたようにしか見えませんでした。けれども不思議と清々しい。みんな薄々気づいていた紅白の終わりにとうとう向き合ってくれた安心感なのでしょうか。
◆ついに“紅白の終活”に取り掛かった?
今年のラインナップでなんか言ってやろうと手ぐすねを引いていた筆者ですが、その気持ちは萎えました。そうすることが不粋であるというよりも、“一線から降りた”ものを論じるのはフェアではないと思ったからです。
ジャニーズによって保ってきた張り合いが、今日というたった一日あっけなくしぼんでいった。時代の終わりを痛感したのです。
これから数年かけて紅白歌合戦はフェイドアウトしていくのでしょう。その後、新たなプロジェクトが立ち上がるのか、日本の大晦日から音楽番組がなくなるのかはわかりません。
始まりがあるものには、すべて終わりがある。誰もなくなるとは想像すらできなかったジャニーズ事務所が消滅した2023年。紅白歌合戦も同様です。
ジャニーズなき紅白は、ついに終活に取り掛かったのだと思います。
文/石黒隆之
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4
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