「国立医学部以外はクズ」と詰め寄る、医師になることを強要…“教育虐待”を行う親の正体

「教育虐待」を行う親には共通点も 医師であり塾長の高梨裕介氏が解説

記事まとめ

  • 18年3月、滋賀県で起きた一件の殺人事件の裏には「教育虐待」があった
  • 医師であり塾長の高梨裕介氏は、医学部受験生によく見受けられる家庭の問題を指摘
  • 親が優秀で、同じ成果を子どもに強要するパターンは典型的だという

「国立医学部以外はクズ」と詰め寄る、医師になることを強要…“教育虐待”を行う親の正体

「国立医学部以外はクズ」と詰め寄る、医師になることを強要…“教育虐待”を行う親の正体

画像はイメージです

塾生の“心”への目配りを怠らずに、高い合格実績を誇る医学部予備校がある。東京は千代田区に居を構えるエースアカデミーだ。2014年の創業から10年足らずで350名以上の医学部合格者を輩出している。
 なぜ受験生の“心”を大切にするのか。医師であり塾長の高梨裕介氏は、医学部受験生によく見受けられる家庭の問題を指摘する。

◆“教育虐待”がクロースアップされた事件

「2018年3月、滋賀県で起きた一件の殺人事件が世間の注目を集めました。加害者である娘は、被害者となった母親から、医師になることを強要される“教育虐待”を受けていたのです。その程度はひどいもので、医学部受験のため、娘は9年間にもわたる浪人生活を強いられていました。

 この事件が明るみになると、被害者である母親が家庭で娘に行ってきたことが次々とわかってきて、ニュースなどでコメンテーターが驚きをもって報じる場面が散見されました。

 しかし私は、母親の行動については異常だと感じるものの、同時に、『まったくない話ではない』と思ったのです」

◆自分が教育熱心な家庭で育ったからこそ…

 滋賀県の事件は、「医学部受験界隈ではよく聞く話」らしい。中学受験の際には関西の大手中学受験予備校・浜学園に飛び級での入塾が認められ、西の最高峰・灘中学を筆頭に、東大寺学園、洛南中学、洛星中学に合格した過去を持つ高梨氏も、親の教育過熱については「身に覚えがある」という。

「私には兄がいますが、兄も似たような経歴で、現役で医師です。我が家は医師の家系ではありませんが、母親が『子どもには医師になってほしい』という思いが強く、中学受験など“教育に良い”とされるあらゆるものに手を出しました。

 だから当塾で生徒から『親からこんな仕打ちを受けている』と聞いても、はじめのうちは『どこも似たような家庭だな』という感想しか持ちませんでした」

◆もし「結果を残せていなかったら」と考えた

 だがあるとき、「自分が精神的に追い込まれなかったのは結果論でしかなかったかもしれない」と思うようになる。

「しっかり学習に向き合ったからとはいえ、私は結果がきちんと残せた部類の人間だと思います。母の教育熱は常軌を逸した部分もありましたが、結果を出すとそれ以上は踏み込まれないですよね。しかし同じように取り組んでも、全員が同じ結果を得られるわけではありません。

 真面目に取り組んでいても、結果が出ずに親から罵声や暴力を浴びせられるとすれば、その子にとっては地獄になってしまいます。事実、学校や家庭において『そんなんじゃ受からない』と必要以上の言葉をかけられて来ている子はたくさんいます。面談をおこなうにつれ、その多さに気づかされました」

◆塾生が現状を吐露しやすい環境を整備
 
 エースアカデミーが生徒の“声”を拾う方法は非常にユニークだ。

「成績が伸びない理由は複数ありますが、勉強面以外に起因する場合も少なくありません。塾生がどのようなことで悩んでいるのかを話してもらうのが面談の主な役割です。経験上、最も多いのは家庭内での悩みです。具体的には、親からのプレッシャーや、ひどい場合には暴力・暴言などがあります。

 面談で直接打ち明けることが難しい場合もあると思います。そうした生徒のために、塾生のみが閲覧できるサイトを用意し、悩みを投稿してもらっています。その悩みに対して私が答えている動画を随時アップしています」

◆「生徒同士が友人になること」を禁止する理由

 同塾の特徴は、徹底して生徒の側に立つスタンスだ。多くの場合、予備校の費用などを支払うのは保護者だが、高梨氏は忖度しない。

「保護者のなかには、『うちの子が何か言っていませんか』という“探り”を入れてくる方もいらっしゃいますが、生徒から聞いた悩みは絶対に保護者を含む他者に伝えません。生徒からみれば、『実は塾と親が裏で繋がっていた』というのが最悪の展開です。そうなれば、誰が悩みなど打ち明けるでしょうか。

 また、同じ理由で、当塾は生徒同士が友人関係を築くのも禁止です。友人になってしまうと、成績から何からいろいろ踏み込まれて、結果的に本人たちを煩わせるのが目に見えているからです。講師などとの関係のみに一本化することで、雑音を排除し、良い精神状態を保って受験に臨んでもらいたいと考えています」

◆親が「8時間怒鳴り続ける」家庭
 
 高梨氏が勉強面の悩みよりもむしろ深刻だとする「家庭内での悩み」とは、具体的にどのようなものか。

「エピソードは家庭によってさまざまです。模試の結果が悪くて8時間怒鳴られ続けたとか、小学校のころにゲーム機を窓の外に投げて壊されたとか、出来の良くない友だちと比較して『あんなどうしようもない人生送りたいのか』と言われたとか、本当に事欠きません。

 ただ、いくつかのパターンはあります。親が優秀で、同じ成果を子どもに強要するパターンは典型的です。たとえば『国立医学部以外はクズだ』と詰め寄り、プレッシャーを与え続ける保護者は多いです。このタイプは、厳しいことを言えば子どもが奮起するのだと誤認しています。しかし実際、そんなことはありません。

 好対照ながら『自分に学歴がないから子どもには医師になってほしい』というパターンもまた典型的です。このタイプは、『これが子どものためになる』といわれている根拠の薄い情報に踊らされやすく、学習の緩急を理解していないので全て詰め込みたがります。たとえば『医学部へ行くなら皆勤じゃないとダメ』などの意味不明な情報を信じて、体調不良の子どもを無理に学校へ行かせる保護者も知っています」

◆「子どものため」のはずが空回りする親たち

 高梨氏は、保護者側のリテラシーについて特に強い警鐘を鳴らす。

「害悪になる保護者について語ってきましたが、私は、はじめから害悪になろうとした人はいないのではないかと思っています。むしろ『子どものため』という出発点に嘘はないものの、方法が間違っているのだと思います。

 親が『子どもが将来困らないように医師にしてあげたい』と思ったとしましょう。逆算して『中学受験がいい』という情報を得るとします。しかし遡れば遡るほど、どのライフステージにも、情報はあるものです。曰く、『◯歳でクロールを泳げないとダメ』『逆上がりは◯歳までに体得しないとダメ』『自転車は◯歳までに乗れないとおかしい』『◯歳までに二語文が言えないとダメ』『◯歳までに卒乳しないとダメ』――まるで洪水状態です。

 そうなると、生真面目な保護者ほど窮屈になってしまいます。そのしわ寄せが全部子どもにいくのです。よく保護者から『ちゃんとしている人じゃないと医学部にはいけないですよね』と言われますが、医学部に行く人の性格は当然ながら千差万別です。保護者が『〜すべき』思考から脱却することが、第一歩だと思います」

◆行き過ぎた親は迷惑ファンみたいなもの

 エースアカデミーでは、定期的に自分を褒める講座を開催している。その真意はこうだ。

「先ほどの保護者の思考が凝り固まっていくことと類似するのですが、生徒も自分を褒める経験がないと、どんどん『これができない自分はダメ』と思い込みを深くしがちです。それは、自分のなかの基準値だけが上がっていき、将来自分を苦しめてしまいます。そうではなく、『結果の良くない模試だったけどこんな成長があった』という良い気づきを自分に向けてあげてほしいと思います」

 根深い親子の問題について、生徒の側には具体的にどのようにアドバイスをするのか。

「塾生が抱える悩みは、似た系統のものはあっても、個々が異なっているので一概には言えませんが、私はよく『行き過ぎた親は迷惑ファンみたいなもの』だと教えています。推し活全盛のいま、どんなに愛されているアイドルにも一定数の迷惑なファンはいますよね。しかし彼らに愛情がないかといえばそうではない。医学部受験をさせる親も同じです。そう思えば、少し親のことも引いてみることができると思うんです。そうなると、『あぁ、次は親はこんな行動するだろうな』とかが読めてきて、親の機嫌や言動に揺らがなくなるのではないかと私は考えます」

◆難関受験において必要なことは…

 高梨氏は、医学部をはじめとする難関受験において、最も必要な親子の関係についてこんな見解を示す。

「親が子どもを本当の意味で信じているかどうかだと思います。理想的な受験は、親が子どもを信じているからこそ勉強面の口出しはせず、遠方受験の際の手配をしたり、栄養バランスの取れた献立を考えたり、そういうことが自然におこなえます。

 逆に子どもを管理したがる親は、成績の微細な上下に一喜一憂し、ノートの取り方を指示したり、勉強面への介入を過度におこなう傾向があります。むしろ、管理することが自分の使命だと誤った解釈をしてしまっています」

 医療という重責を担う以上、試験の質は担保されなければならないが、高いハードルを超えることに腐心するあまり子どもを隷属させる保護者がいる。答案でもらう以上の「×」を日常的に家庭で与えられれば、子どもは“心”をすり減らしていく。

「これができなきゃダメ」。減点方式に飼い慣らされ、摩耗していく医学部受験生たちの“心”に、かつて自身も茨を駆け抜けた元神童が補助線を引いていく。

<取材・文/黒島暁生>



【黒島暁生】

ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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